聖女と魔女

蘭爾由

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貴婦人

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貴婦人

ジャックは賢帝と名高い父の若い頃とそっくりだと言われて育った。

父は体面、穏やかで寛容、慈悲深く秀麗な賢人。

代々アトレスリーズ帝国の皇帝が精霊王から授かる祝福「ミルキーウェイ」は、万病に効くという白い聖水を二つ国に降らせることが出来る。この力で二つ国は大飢饉を幾度も乗り越えている。

母は厳格な侯爵家の出で、何事も古の風習を変わらず正しく粛々と、次の世代に引き継ぐ事を何よりも重んじなければならないという考えの、貴族の中の貴族、高潔無比に洗練された品格の貴婦人。

当然、生まれた時から賢人であった訳ではない。

幾つもの失敗を繰り返し、人の頂点に立つというプレッシャー、公爵家の代理として恥ぬ皇后であるべきプライド、人生の結晶である我が子に期待する理想と、現実に生じる摩擦や葛藤。

人であった。皇帝も、皇后も、父であり、母であった。

息子から見た父は嘘つきだった。

自然災害地域には炊き出しや復興支援、貧困にはボランティア、情操教育の無償化。

国民の父と呼ばれる聖人は、ケチで気分屋、我が子に対しては無情、息子は父の二面性に苦しめられた。

ある日の幼少期、大人が好む食事ばかりが並び、子供の口には辛かったり酸っぱかったりする料理ばかりで、ジャックが食べぐずっているのを見た父は、腹が減るまで食べなければ良いと言って料理を下げさせた。ジャックはお腹が空いていたが朝食まで何も食べることを許されなかった。

またある日の父は、騎士団を労う晩餐会で大量の揚げ物や肉料理が並ぶ皿から、ジャックの皿に山盛りに取り分けていく。

これくらい残さず食べられなければならないと、困っているジャックを見ながら嬉しそうに微笑むのだ。分かるな?、うんうんと、自己完結して頷きながら微笑む父がジャックは嫌いだった。

一方で母の、社交界で見る皇后と変わらぬ峻厳な態度に、同い年の側近達の母親は皆聖母のようであるのに何故自分の両親は、と優しい母や父を焦がれて泣いたこともあった。

そのような幼少期が過ぎ、次第に諦める為の言い訳を考えるのが当たり前になっていく。

皆の親もきっと、人の目が無くなれば厳しく躾けているのだ。

嘘つきは病気だ、父は病気だから仕方ない。

僕は絶対に両親のようにはならない。

美しい貴婦人の伴侶と、仲睦まじい家族を作るんだ。
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