12 / 19
10.
しおりを挟む
「オリヴィア・ワイズ伯爵令嬢から発言はあるか。」
ルフィーリアが会場席を見る。
「はい。ワイズ伯爵家一女オリヴィアにございます。ワイズ家はロビン・スチュワートの不甲斐なさに心底幻滅致しました。ですが情も残っています。ですので、ロビン・スチュワートには婿として再教育し、ワイズ伯爵位を私オリヴィアが継ぐ事に致しました。今後はオリヴィア・ワイズ女伯爵と相成ります。」
「そんな!」
ロビンが青ざめてオリヴィアにまだ何か言おうとしたが、それを制してルフィーリアが
「なんだ。ワイズ家とスチュワート家の合意だと報告を受けているぞ。ロビン・スチュワート、異議を申し立てるならば除籍やむなし、とスチュワート伯爵家当主からの伝言だ。異議があるのか?」
「……そ……な……」
ガクンッ ポスンと沈み、座り込むロビン。
「ふん。ロビン・スチュワートに問おう。オリヴィア様との婚約破棄を望んだそうだが、なぜだ。君の浮気相手キャンディス・ノラックは殿下の愛人だろう。浮気相手の為にワイズ伯爵位を捨てたのか?」
「キャンディは!……キャンディが、本当に愛しているのは俺だと。」
瞳孔が開いた瞳でロビンはオリヴィアをチラチラと見ながら答える。
落ち着かないような、助けを求めるような仕草。
「殿下が、キャンディを妃に召し抱え、いや皇太子妃様は、ソフィア様、あれ?あの、」
記憶の混濁だろう。重ねられた逢瀬で幾度となく囁かれた妄言は、色欲を刺激し判断力を奪う。
「召し抱えた後……キャンディが……俺を、殿下の側近に、推薦し、てくれると、約束、をしてそしたらっ、いつでも好きな時に、二人っきりでって」
そこまで言った口は、ぐっと噛み締められた。
皇太子妃になったキャンディと、殿下の側近になった自分が?
安宿で、汗ばんだ肌と肌を密着させた記憶は未来予想へ繋がる。
「申し訳ございませんでした!まさか、こんな、二心のつもりは……なんて事だ……こんな大それた事だとは……」
床に頭を擦り付けて震えるロビン。
不敬どころではない所業に、逮捕、監禁、詰問、勘当、追放、平民、死刑と、愚かな自分に次から次と襲いかかる制裁が、思考を文字の暴力で埋め尽くした。
ロビンはガタガタと全身震わせて恐怖する。
「どうやら暗示が解けたようだな。これからは心を入れ替えてワイズ女伯爵に仕えなさい。オリヴィア様に感謝を忘れるなよ。」
ルフィーリアの慈悲の声に、ロビンは、ハッとして「オリヴィア」と呟いた。
(そうだ……俺……俺にはまだ、オリヴィアがいるんだ……)
「オリヴィア……オリヴィアすまない。こんな情けない俺ですまない。俺なんか、俺なんかもう……」
跪くロビンに、「ロビン様……」ゆっくりと近付いていくオリヴィアは、そっとロビンの目線まで膝を折り、優しく微笑んだ。
「ロビン様……ロビン様は情けなくなんかありません。悪い夢を見ておられたのです。悪い夢で、悪い女に騙されていたのです。」
「オリヴィア……こんな俺でも見捨てないでいてくれるのか……ああ……オリヴィア、君の瞳がこんなに美しかったなんて……もっとよく、見せてくれないか。」
「ロビン様。」
ぺしっ
オリヴィアの頬に伸ばされたロビンの手は払い落とされた。
「早計ですわ。悪女のせいで地に落ちた倫理観の再教育が必要ですね。」
「う……うん。」
オリヴィアはスッと立ち上がってソアの所へ駆け寄ると、二人は両手を握り合った。
「ソア様、ありがとうございます。貴方のおかげよ。」
「オリヴィア様、こちらこそいつもありがとうございます。親友ですもの、当然の事をしたまでですわ。」
「うふふ。親友です。これからも宜しくお願いしますソア様。」
「こちらこそ宜しくお願いしますオリヴィア様。」
「美しい光景です、これこそが貴族たる有るべき姿。心が洗われますわ。」
(オリヴィア様、飴と鞭捌き、見事ですわ。免許皆伝といたします。)
パチパチパチ
ルフィーリアは「ソアとオリヴィアに拍手を」と、すると会場全体から拍手喝采が。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ルフィーリアがここで扇を開く。
バチン
ピタリ、と拍手が止む。
「キャンディス・ノラックはロビン・スチュワートに暗示をかけ手駒にしようとした。ゲイリー・ハボット、カルヴィン・ボブ・レナード・ジュニアについても調査済みであり、ほぼ同様の報告を受けている。そして彼等が推薦を受けるはずだった職は、第二皇太子派にとって、喉から手が出るほど欲しい決議権を持った職へ、出世する一番近い職だ。」
ルフィーリアがシャクター卿に薄い笑みを向ける。
シャクター卿のこめかみがヒクつく。
ルフィーリアが会場席を見る。
「はい。ワイズ伯爵家一女オリヴィアにございます。ワイズ家はロビン・スチュワートの不甲斐なさに心底幻滅致しました。ですが情も残っています。ですので、ロビン・スチュワートには婿として再教育し、ワイズ伯爵位を私オリヴィアが継ぐ事に致しました。今後はオリヴィア・ワイズ女伯爵と相成ります。」
「そんな!」
ロビンが青ざめてオリヴィアにまだ何か言おうとしたが、それを制してルフィーリアが
「なんだ。ワイズ家とスチュワート家の合意だと報告を受けているぞ。ロビン・スチュワート、異議を申し立てるならば除籍やむなし、とスチュワート伯爵家当主からの伝言だ。異議があるのか?」
「……そ……な……」
ガクンッ ポスンと沈み、座り込むロビン。
「ふん。ロビン・スチュワートに問おう。オリヴィア様との婚約破棄を望んだそうだが、なぜだ。君の浮気相手キャンディス・ノラックは殿下の愛人だろう。浮気相手の為にワイズ伯爵位を捨てたのか?」
「キャンディは!……キャンディが、本当に愛しているのは俺だと。」
瞳孔が開いた瞳でロビンはオリヴィアをチラチラと見ながら答える。
落ち着かないような、助けを求めるような仕草。
「殿下が、キャンディを妃に召し抱え、いや皇太子妃様は、ソフィア様、あれ?あの、」
記憶の混濁だろう。重ねられた逢瀬で幾度となく囁かれた妄言は、色欲を刺激し判断力を奪う。
「召し抱えた後……キャンディが……俺を、殿下の側近に、推薦し、てくれると、約束、をしてそしたらっ、いつでも好きな時に、二人っきりでって」
そこまで言った口は、ぐっと噛み締められた。
皇太子妃になったキャンディと、殿下の側近になった自分が?
安宿で、汗ばんだ肌と肌を密着させた記憶は未来予想へ繋がる。
「申し訳ございませんでした!まさか、こんな、二心のつもりは……なんて事だ……こんな大それた事だとは……」
床に頭を擦り付けて震えるロビン。
不敬どころではない所業に、逮捕、監禁、詰問、勘当、追放、平民、死刑と、愚かな自分に次から次と襲いかかる制裁が、思考を文字の暴力で埋め尽くした。
ロビンはガタガタと全身震わせて恐怖する。
「どうやら暗示が解けたようだな。これからは心を入れ替えてワイズ女伯爵に仕えなさい。オリヴィア様に感謝を忘れるなよ。」
ルフィーリアの慈悲の声に、ロビンは、ハッとして「オリヴィア」と呟いた。
(そうだ……俺……俺にはまだ、オリヴィアがいるんだ……)
「オリヴィア……オリヴィアすまない。こんな情けない俺ですまない。俺なんか、俺なんかもう……」
跪くロビンに、「ロビン様……」ゆっくりと近付いていくオリヴィアは、そっとロビンの目線まで膝を折り、優しく微笑んだ。
「ロビン様……ロビン様は情けなくなんかありません。悪い夢を見ておられたのです。悪い夢で、悪い女に騙されていたのです。」
「オリヴィア……こんな俺でも見捨てないでいてくれるのか……ああ……オリヴィア、君の瞳がこんなに美しかったなんて……もっとよく、見せてくれないか。」
「ロビン様。」
ぺしっ
オリヴィアの頬に伸ばされたロビンの手は払い落とされた。
「早計ですわ。悪女のせいで地に落ちた倫理観の再教育が必要ですね。」
「う……うん。」
オリヴィアはスッと立ち上がってソアの所へ駆け寄ると、二人は両手を握り合った。
「ソア様、ありがとうございます。貴方のおかげよ。」
「オリヴィア様、こちらこそいつもありがとうございます。親友ですもの、当然の事をしたまでですわ。」
「うふふ。親友です。これからも宜しくお願いしますソア様。」
「こちらこそ宜しくお願いしますオリヴィア様。」
「美しい光景です、これこそが貴族たる有るべき姿。心が洗われますわ。」
(オリヴィア様、飴と鞭捌き、見事ですわ。免許皆伝といたします。)
パチパチパチ
ルフィーリアは「ソアとオリヴィアに拍手を」と、すると会場全体から拍手喝采が。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ルフィーリアがここで扇を開く。
バチン
ピタリ、と拍手が止む。
「キャンディス・ノラックはロビン・スチュワートに暗示をかけ手駒にしようとした。ゲイリー・ハボット、カルヴィン・ボブ・レナード・ジュニアについても調査済みであり、ほぼ同様の報告を受けている。そして彼等が推薦を受けるはずだった職は、第二皇太子派にとって、喉から手が出るほど欲しい決議権を持った職へ、出世する一番近い職だ。」
ルフィーリアがシャクター卿に薄い笑みを向ける。
シャクター卿のこめかみがヒクつく。
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる