聖女と魔女

蘭爾由

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10.

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「オリヴィア・ワイズ伯爵令嬢から発言はあるか。」
ルフィーリアが会場席を見る。

「はい。ワイズ伯爵家一女オリヴィアにございます。ワイズ家はロビン・スチュワートの不甲斐なさに心底幻滅致しました。ですが情も残っています。ですので、ロビン・スチュワートには婿として再教育し、ワイズ伯爵位を私オリヴィアが継ぐ事に致しました。今後はオリヴィア・ワイズ女伯爵と相成あいなります。」

「そんな!」
ロビンが青ざめてオリヴィアにまだ何か言おうとしたが、それを制してルフィーリアが
「なんだ。ワイズ家とスチュワート家の合意だと報告を受けているぞ。ロビン・スチュワート、異議を申し立てるならば除籍やむなし、とスチュワート伯爵家当主からの伝言だ。異議があるのか?」

「……そ……な……」
ガクンッ ポスンと沈み、座り込むロビン。

「ふん。ロビン・スチュワートに問おう。オリヴィア様との婚約破棄を望んだそうだが、なぜだ。君の浮気相手キャンディス・ノラックは殿下の愛人だろう。浮気相手の為にワイズ伯爵位を捨てたのか?」

「キャンディは!……キャンディが、本当に愛しているのは俺だと。」
瞳孔が開いた瞳でロビンはオリヴィアをチラチラと見ながら答える。

落ち着かないような、助けを求めるような仕草。

「殿下が、キャンディを妃に召し抱え、いや皇太子妃様は、ソフィア様、あれ?あの、」

記憶の混濁だろう。重ねられた逢瀬で幾度となく囁かれた妄言は、色欲を刺激し判断力を奪う。

「召し抱えた後……キャンディが……俺を、殿下の側近に、推薦し、てくれると、約束、をしてそしたらっ、いつでも好きな時に、二人っきりでって」
そこまで言った口は、ぐっと噛み締められた。

皇太子妃になったキャンディと、殿下の側近になった自分が?

安宿で、汗ばんだ肌と肌を密着させた記憶は未来予想へ繋がる。

「申し訳ございませんでした!まさか、こんな、二心ふたごころのつもりは……なんて事だ……こんな大それた事だとは……」
床に頭を擦り付けて震えるロビン。

不敬どころではない所業に、逮捕、監禁、詰問、勘当、追放、平民、死刑と、愚かな自分に次から次と襲いかかる制裁が、思考を文字の暴力で埋め尽くした。

ロビンはガタガタと全身震わせて恐怖する。

「どうやら暗示が解けたようだな。これからは心を入れ替えてワイズ女伯爵に仕えなさい。オリヴィア様に感謝を忘れるなよ。」

ルフィーリアの慈悲の声に、ロビンは、ハッとして「オリヴィア」と呟いた。

(そうだ……俺……俺にはまだ、オリヴィアがいるんだ……)
「オリヴィア……オリヴィアすまない。こんな情けない俺ですまない。俺なんか、俺なんかもう……」

跪くロビンに、「ロビン様……」ゆっくりと近付いていくオリヴィアは、そっとロビンの目線まで膝を折り、優しく微笑んだ。

「ロビン様……ロビン様は情けなくなんかありません。悪い夢を見ておられたのです。悪い夢で、悪い女に騙されていたのです。」

「オリヴィア……こんな俺でも見捨てないでいてくれるのか……ああ……オリヴィア、君の瞳がこんなに美しかったなんて……もっとよく、見せてくれないか。」

「ロビン様。」
ぺしっ

オリヴィアの頬に伸ばされたロビンの手は払い落とされた。

早計そうけいですわ。悪女のせいで地に落ちた倫理観の再教育が必要ですね。」

「う……うん。」

オリヴィアはスッと立ち上がってソアの所へ駆け寄ると、二人は両手を握り合った。

「ソア様、ありがとうございます。貴方のおかげよ。」
「オリヴィア様、こちらこそいつもありがとうございます。親友ですもの、当然の事をしたまでですわ。」
「うふふ。親友です。これからも宜しくお願いしますソア様。」
「こちらこそ宜しくお願いしますオリヴィア様。」

「美しい光景です、これこそが貴族たる有るべき姿。心が洗われますわ。」
(オリヴィア様、飴と鞭捌き、見事ですわ。免許皆伝といたします。)

パチパチパチ
ルフィーリアは「ソアとオリヴィアに拍手を」と、すると会場全体から拍手喝采が。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
ルフィーリアがここで扇を開く。
バチン
ピタリ、と拍手が止む。

「キャンディス・ノラックはロビン・スチュワートに暗示をかけ手駒にしようとした。ゲイリー・ハボット、カルヴィン・ボブ・レナード・ジュニアについても調査済みであり、ほぼ同様の報告を受けている。そして彼等が推薦を受けるはずだった職は、第二皇太子派にとって、喉から手が出るほど欲しい決議権を持った職へ、出世する一番近い職だ。」
ルフィーリアがシャクター卿に薄い笑みを向ける。

シャクター卿のこめかみがヒクつく。
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