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幼なじみと隣の席の女の子
痣
しおりを挟む翌日俺は悩んでいた。
どうやってハンカチを返そうか、昨日からずっと悩み続けていた。
ハンカチはしっかり洗った。
そのまま渡すのも失礼というか、思いが伝わらないというか……まあ、そう思ったので俺は偶然昨日から制服のポケットに入っている紙袋に入れた。そう、丁度いい紙袋がポケットの中に……俺のお土産の栞と共に……。
そして俺は朝から返すタイミングを見計らっていた。
どうやって返そうか、ずっと考えながら……。
サッと黙って渡す? 「ありがとう」って声をかけて? 「いやあ幼馴染みに苛められてさーー」とか言ったりしてみる?
とにかくこれはチャンスなのだ。綾波と話せるチャンスなのだ。
失敗は許されない、こんなチャンスは二度と来ないかも知れない。
俺は生まれてくる子供を分娩室の外で待っているお父さんの様に、綾波の側でどう渡そうか悩みつつ右往左往する。
綾波は俺に構う事なく、お弁当を食べながら、隠す様に本を見ている。
それにしても、こっちが見えているかの如くうまい具合に長い髪と弁当を包んでいた布で本を隠している。
何の本を読んでいるかわかれば、俺も読んで話題に出来るのだけど……。
俺はどうやって、渡そうか……何度も何度も、うろうろと綾波の周りを歩く。
顔色を伺う様に、読書の邪魔をしないように……。
すると綾波は少しうざそうに、ゆっくりと俺の方に視線を向けた。向けてしまった。
「──あ、あ、えっと、ご、ごめん、ちょっとだけいい?」
突然来たチャンスに俺は慌ててそう言うと綾波は、長い髪を払い、右目だけで俺を見た。
窓から入ってくる日の入り光りに反射して、眼鏡がギラリと光り俺を威嚇する。
これか……彼女に誰も話しかけない理由は……。
初めてまともに見てくれた綾波を見て、俺はクラスの女子が誰も綾波に近づかない理由がわかった。
恐らく最初の頃は、入学当初は話しかけていたんだろう。
でも綾波は、話しかけてくる全ての人にこうやって追い返していたのでは無いだろうか?
無言の圧力……眼鏡の圧力……。
怒っているのか? 笑っているのか? わからない……。
だから、今では誰も彼女に話しかけにはいかない。
俺以外は誰も……。
「あ、ああ、えっと、あの……そ、そのハンカチが、そのお土産で」
彼女の睨みで俺はしどろもどろになる。いや実際に睨んでいるかはわからないんだど……。
しかし綾波は意味がわかったのか? 俺に手を差し出す。
白く細い綺麗な手だった。細長い指だった。
「あ、えっとこれを……ありがとう」
そう言って俺はゆっくりとその綺麗な手にハンカチとお土産が入った紙袋を置いた。
綾波が一瞬首をかしげる。そしてすぐに頷いた。
「あ、あの、昨日の事なんだけど……えっと」
俺は続けて昨日泣いた理由を言おうと思ったが、どう言っていいかわからなかった。
そもそも何で泣いたか、自分でもよくわかっていない。
綾波は俺をじっと見ている……ようだった。
髪と眼鏡のせいで視線がわからないけど。
「あの……な、なんでも無いんだ、ちょっと思い出しちゃって、ははは」
俺はそう誤魔化した。俺が泣いた理由を話すには休み時間では足りない。
「…………うん」
綾波は、別に口が聞けないわけではない、必要最低限の言葉は発する。
俺に向かって聞こえるか、聞こえないか、ギリギリの小さな声でそう言うと、また再び本に目線を戻す。
ああ、終わってしまった、大チャンスだったのに……。
でも、その時、綾波が俺から本に目線を戻したその時、教室の窓から風が入り、一瞬、一瞬だけ綾波の髪が舞った。
その時俺は見た。綾波の眼鏡の所からチラリと……紫色の痣が、一瞬だけ見えた。
「……え?」
俺は思わずそう言ってしまう。綾波は少し慌てる様に、髪を戻した。
今のって……どこかで見た記憶が……そして俺はすぐに思い出す。
その目の横の痣を……。
でも……まさか……あり得ない……だってその痣の持ち主は……。
俺の崇める神様……あやぽんなのだから……。
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