32 / 62
綾波明日菜の正体
あやぽんとデート
しおりを挟む「ううう、あやぽん……あやぽーーん」
俺はそう言いながら観客席で嗚咽していた。俺の周りは既にステージに注目している。
「綾波……ううう、あやぽん、あやぽんんんん」
駄目だ……涙が止まらない……感動している……俺は感動しまくっていた。
でも、この涙は、感動しているからだけでは無い。悲しいのだ。これであやぽんは……遠くに行ってしまう……元々手に届かない人だけど、この間会えたからなのか? 何故か俺の側にいるような、そんな錯覚をしていた。
「ううう……あやぽんが……あやぽんが……遠くに……遠くに」
その時突然俺の後ろから誰かが両肩に手を乗せ、そして俺を強引に振り向かせた。
「わ! ……ってあんた何で泣いてるの?」
長い黒髪、いつの時代の女優だって位の大きなサングラス、場に全くそぐわないスーツ姿の怪しい女子が俺の前に立っている。
「……誰?」
どこかで聞いた様な声……なんか気のせいか……凄く綾波の声に似ている気がするんだけど……。
「へーー私がわからないと、それでもファン?」
そう言ってその女子はサングラスを少しだけずらして周囲を気にしながら俺に片目だけを見せる。
「! あ! あああああ! あや! むごごごご」
俺がその名前を呼ぼうとするや否や、その女子……恐らく、あやぽんは俺の口に手を当てた。
「駄目よ、ここで呼んじゃ」
サングラスが太陽に照らされキラリと光った。それはまるで、綾波の事を初めて認識したあの席替え直後の時の様な、そんなデジャブを感じる。
「とりあえず、こっちで話しましょう……」
そう言うとあやぽんが俺の手を掴み観客席の外に連れていかれる。
て、てか……手を繋いでいる……俺が? あやぽんと、この手の感触……あやぽんの手……あああ、うわ、うわうあうわわわわ……。
なんて言うんだこういうのって? 青天の霹靂? 棚からぼた餅? 多分違う……。
とにかく、天使と手を繋ぐなんて、俺死ぬの? いや、既に死んでる?
そう……まるで俺が死んで、天使が舞い降り天国に連れていかれる様に……
「──大丈夫?」
「へ?」
「なんか、死んで天に召される様な顔をしてるから?」
「いえ、あ、まあそうなんですけど……って言うか! な、何してるんですか?!」
いつの間にかステージ外の林の木陰に連れていかれいた俺はあやぽんのその一言で我に返った。
ステージ間を移動する人混みからはちょうど見えない位地に俺は神と二人きりというこの状況に戸惑いながら聞いた。
「え? 何って仕事だけど?」
「仕事?」
「そう、ここの様子をSNSにアップするの」
「へ、へーーそんな仕事が……ああ、それでお忍びって事でそんな格好を?」
「あ、──ああ、まあね」
「それにしても……着替え早いですね」
「ああ、──まあねえ」
「それに──」
「ああ、もう良いから、それより何で泣いてたのよ?」
「え! そ、それは──勿論綾さんの歌に感動して……」
「は? あははは、そんな事で泣いてたの? あそこで?」
「そ! そんな事なんかじゃありません! あれは、奇跡です! 周りの人達もそう言ってました!」
「へーーそか……うん、そうだね……ありがと」
あやぽんはどこか他人事の様にそう言った。
「……いいえ…………で、でも……それだけじゃ……無いんです」
「ん?」
「実は……僕は最低なんです……綾さんが音楽でも歌でも成功して、もっと遠くに行ってしまう様な気がして……もっと有名に、ファンとして綾さんが……大スターになる事を、喜ばないといけないのに……でも……それが……寂しくて……それで……涙が止まらなくて……悔しくて、自分が、そんな事を考えてしまう自分が悔しくて」
「え?」
「え?」
「いや、ははは、私、音楽なんてやらないよ?」
あやぽんは口を尖らせながらそう言った。
「は?」
「いやいや無理だし」
「な、なな、なんで? あれだけ上手いのに!」
「興味ないからかな?」
「そ、そんな……」
「まあ、今回感動してくれたんならそれで良いじゃない、あ、そうだ、ねえ、ちょっと会場回るの手伝ってよ」
あやぽんはそう言って俺の腕に自分の腕を回した。
「は? えええ?! ええ、いや、ちょ、だ、め、うえええ?!」
腕がああ……柔らかい感触が、良い匂いが、いや、そんな事よりも近い近い近いいいい。
「一人だと目立つんだよねえ、良いでしょ 感動のお礼って事で」
「そ、そんな……でも……お、俺で良ければ、綾さんの役に立つなら……」
「よし! 決まりね! じゃあ行こう!」
あやぽんは俺の腕に自分の腕を絡めながら拳を天に突きだしそう言った。
「あ、は……い」
「ああ、もう乗り悪いなあ、行こう!」
「お、おう~~!」
あやぽんにあわせて俺も拳を上げた。
いや、ちょっと待って……これって……あやぽんと……デートって事になるのでは?
うえええええええええええ?!
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる