35 / 62
綾波明日菜の正体
ケバブの味
しおりを挟む良いのか? こんな事があって本当に良いのか?
夢にまで見た、いや、夢でしか見れなかったあやぽんとのデート……。
それもフェスでデートとかって、もう青春その物じゃない? 俺ひょっとして、今……リア充?
綾波と会える確約までしたし、明日は雪乃にも会えるし……なんだろう? 俺っていまイケメン過ぎない?
……なんて思えるわけもなく……緊張しながらあやぽんと向かい合っての食事。
フードエリアで適当に買い、丁度良いタイミングで席が空いたのであやぽんと向かい合って座る。
なんか色々と具材の入っている高そうな焼きそばを食べているのだけど……全く味がしない。
そもそも、これはデートじゃない……あやぽんの仕事の付き添い、明日の雪乃は見るだけ……明後日の綾波とは本屋に行く約束をしただけ……。
それを俺が勝手に脳内で良い方に考えている……でも良いだろう? それくらいの妄想は……。
だから俺は今、あやぽんとデートしている。 そう決めたんだ。
だから、この後、あやぽんが俺にあーーんとかしてくるなんて考えて勝手にドキドキしても……。
「うーーん、やっぱりケバブってさあ、なんか〇〇の匂いしない?」
「ぶふぉっ……あ、綾さんそれSNSとかに上げちゃだめっすよ? 炎上する……」
「ああ、大丈夫上げるのはいも……いも……いいものだけだから」
「良い物? まあ、とにかく、やばいですよそんな事言っちゃ」
「まあ、好きな人は好きなんだろうから、私には合わない、はい! 上げる」
「……えええええ!!」
「……あれ? 食べられない? やっぱり〇〇の匂いがするから?」
「た、食べます!食べるからもうそれ以上は言わないでください!!」
周囲のケバブを食べている人が怪訝な顔でこっちを見ている……すんません、俺は食べます、食べますから!
そう思いながらあやぽんの食べかけのケバブを手にする……俺はそのあやぽんの歯型の付いたケバブを眺めゴクリと唾を飲んだ。
だって……こんな事……良いのか? 俺は躊躇いがちにそれを一口食べる。
「ああ……」
つい言葉が漏れた……あやぽんとの間接キス……思わず想像してしまった。
あの美しい唇と俺の唇が重なり合っている姿を……だから想像くらい良いだろ? 誰が糞童貞だ、本当にそうなんだから仕方ないだろ!
「美味しい?」
「……はい」
「そか、良かった良かった、じゃあ日下部君のと交換ねえ」
あやぽんはそう言って俺の食べかけの焼きそばみたいな物を手に取ると、すぐにチルチルと食べ……
う、うわああああああ!
「だ、ダメです! そんな汚い物、綾さんがあああ!」
「汚い? なんで? 美味しいよ?」
「いえ……俺の……あ、あううう……」
もう時すでに遅し……あやぽんは俺の焼きそばもどきをドンドン食べていく。
ダブル間接キス……俺の物があやぽんの体内に……うるせえ、ああそうさ、童貞だよ!
それにしても、周りはどう思っているのだろうか? 大きなサングラスにスーツといういかにも怪しい恰好のあやぽん。
ただ怪しすぎて彼女があやぽんだと気付く者はいない。そしてしょぼい俺がいる事で、もっと気付かれない……。こんな男とあやぽんが一緒にいるわけがない……そう思っているのだろう……。
そう考えた途端俺は落ち込んだ……どう考えても釣り合うわけがない……そして……それは雪乃とも一緒だ。
ラノベ好きな俺……ラノベの主人公に憧れて読んでいる。
その理由は勿論雪乃だ。あれだけの美少女に惚れられるなんて、ラノベの主人公しかいない。
隠された力とか、実は最強とか……そんな力もない俺は、幼馴染という事だけで惚れられるという理由が欲しかった。
勿論現実にあるかも知れない。 でも実際中学になって疎遠になってしまった雪乃との関係。
俺は物語に逃げたかった。平凡な主人公が美少女と出会う物語に逃げた。
要するに、現実逃避をしたのだ。
そんな事は物語だけの世界。現実に雪乃は俺をキモイと思っていて、目の前の女神は仕事の手伝いって思っているだけ。
共に俺を利用するだけ……。
でも、そう考えたら当たり前なのかと……。
だって、それによって俺にも対価も発生しているのだから。
雪乃の彼氏と言われるのはある意味ステイタスだ。
それによってクラスの男子から疎外される、でもそれは逆に言えば妬まれている、羨ましがられているって事だ。
羨ましがられるというのはある意味、気持ちが良い。
そして今、俺はあやぽんに利用されている。
でも、それに対して俺は嫌な気持ちは全くない、むしろ嬉しいって思っている。
つまりはそういう事なのだ。
相手がどう思っているのかはわからない。 ある意味己の美しさを鼻にかけているのかも知れない。
わたしと付き合って一緒に居れて自慢になるでしょ? そんな考えなのかも知れない。
でもそれはどうでも良い事。
要するに俺がどう思うって事なんだ。
俺は雪乃の彼氏と言われて、嬉しいって思ってた。今でもそういう気持ちは持っている。
そして、俺の神でもあるあやぽんと一緒に居られて、俺は今、天にも昇る様な気持ちだ。
そしてそう考えた時、俺はある気持ちが芽生えている事に気付く……。
それは綾波だ……釣り合うなんて言ったらあいつに悪いけど、でも俺には綾波が合っている気がする。
同じ趣味を持ち、緊張する事なく会話が出来る。
逢いたい……、いま女神を前にしても、俺の中にそんな気持ちが芽生えている。
早く逢いたい……綾波に……。
「なにニヤニヤしてるんだか?」
「え! そ、そりゃ綾さんと一緒にいるんだから……ニヤニヤするのは当たり前ですよ!」
「ふん、どうだか……」
あやぽんは少し不機嫌そうにそう言ってオレンジジュースに口を付けた。
そのジュース飲み方を見てまたデジャブが……。
うーーん……でも……なんか似てるんだよな? 声とか仕草とか……あやぽんと綾波って……。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる