娘の様な義理の妹に俺が恋なんてするわけが無い。

新名天生

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キャンプ!キャンプ!キャンプ!

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 夕方になり、恵ちゃんが冬眠から目覚めた熊の如くのそのそと、テントから出てきた。

「ああ、お腹空いた~~さあ、ここからキャンプ本番だぜい!」
 そう言って、再度火を起こし、バックから食材を取り出す。
 保冷ケースの中には、既に串に刺さった肉や野菜がある。

「焼くだけで直ぐに食べられるからねーー、おにぎりもまだあるから、焼きおにぎりにして食べよう」
 最初はどうなるかと思っていたが……恵ちゃんは全ての準備を整えていた。
 昔からこういう段取りを組むのが上手い娘だったなあと、思い出す。
 朝早く起きてやってくれたんだろうって……。

 そして、この間の旅行の時は、はしゃぎ捲っていた妹は、物凄く大人しい……。
 さっきも、あれから何も言わずに、ただただ川を眺めていた。
 気になる……でも最近はいつもこうだ……やはり反抗期なのか? 俺は本当に力不足を感じる。

『じゅうじゅう』と音を立て焼けていく肉、ゆっくりと沈んで行く太陽、山間は夕日で赤く染まる。

 そんな景色を見ていると、なんだか少し寂しい気分になってくる。

 でも……それとは逆に、俺は、少し楽しくなっている自分がいた。
 妹の事が少し気がかりではあるんだけど……それを踏まえても段々とこのキャンプが楽しくなってきていた。

 俺の青春を取り戻せ作戦? 何だその作戦名は? 余計なお世話だとほんの少しだけ思っていたけど……でも、二人が俺に気を使ってくれている……そう思えば、素直に作戦に乗っかった方がいいかも……という気持ちが生まれ、そう思えば苦手なアウトドアも自然と楽しめてくる。

 そして無理やりにでも俺を連れ出し、俺がめんどくさくならない様にと、全てを準備してくれた、恵ちゃんの気の使い方に感動してしまう。

 改めて、また二人が成長しているって、実感できる。


「うま!」
 焼けた牛串を頬張る。家で食べる肉よりも、少し高いステーキ屋なんかで食べる肉よりも遥かに美味しい。

 トイレやテント、食事の場所、何もかもが面倒だけど、またそれもテイストになっているんだろう。

「ははは、面倒なのも青春ってわけか……」
 大人になれば何でもお金で済ませてしまう。めんどくさい事はお金で解決できてしまう。
 でも、子供はそうはいかない。少ないお金をやり繰りして、自分で色々しなければいけない。
 デートにしたってそうだ。旅行なんてそうそういけない……だから公園で語り合う。漫画喫茶やカラオケなんかで手軽に遊ぶ。
 それが青春って奴なのかもしれない。
 不便な中で、楽しみを見つける……それが青春の一つなのかも知れない。 

「恵ちゃん……ありがとうな」

「ん? へへへ」
 トウモロコシをガリガリと小動物の様に食べながら、俺に向かって笑顔を見せる。
 茶髪になって、ピアスをして、濃いめの化粧に、派手なマニキュア、でも笑顔は全く変わらない。
 子供の頃から全く変わっていない。
 その笑顔を見て、俺はホッとする。
 何故かわからないけど、ホッとさせれる。

「──お兄ちゃん……はい……」
 妹は俺に缶ビールを見せる。

「お!」
 バーベキューには、やっぱりビール……でもいいのかなあ?

「さっき買ってきた……」

「えっと……良いのか?」

「うん……良いと思う」
「いいぞ、のめ~~~~」
 妹にそっとビールを勧められ、酒なんてなくても盛り上がれる恵ちゃんがさらに追い打ちをかけ、俺にノリノリで勧めてくる。

「じゃ、じゃあちょっとだけ」
 俺がそう言うと、妹は紙コップにビールをついでくれる。
 俺は「いただきます」と、言ってビールを煽った。
 少し温くはなっていたが、のど越しを爽快感が走る。

「う、うめえええええ!」

「いえ~~~~い」
 恵ちゃんがそう言って盛り上げ、妹が微笑んだ。

 青春って言うにはちょっと親父くさいけど……でも、美人二人を目の前にして、ビールとバーベキューだなんて……今まで考えられないくらい幸せを感じる。

 本当に二人に感謝だな……。

 俺は嬉しくなって、次々に注がれるビールを飲み、そして肉をくらい……そして……。


 気が付くと、俺は一人でテントに寝ていた。

「ん? あれ? あたたたた」
 酷い頭痛がする……今何時だ? 二人は?
 俺はフラフラする身体をなんとか起こして、テントの外に出た。
 そして、二人の姿を探す。

「──あ、いた」
 少し離れた場所で、二人は並んで座り、川を眺めながら何か話をしているようだった。
 良かった、いくら整備されたキャンプ場で、周りは家族連ればかりとはいえ、年頃の女の子が暗い中で……なんて危ない。
 おれはよろよろとしながらも、慎重に歩き、二人の側に近づいた。

「私……お兄ちゃんと……」

「あはは……に、……出来るの?」

「出来る……ううん、する……」

「じゃあ、まあ……譲るけど……は、譲らないから」

「わたしだって……」
 なにか二人で話をしている、途切れ途切れなので、何を話しているかわからない。
 俺は二人の背後にさらに近づく。

「私の昔からの夢なんだから……絶対に負けない」

「私もそうよ、でも、まあ、私の方が有利だからねえ」

「そうかも……でも私だって一緒に住んでるんだから」
 一緒に住んでる? って二人は俺の事を話してる?

「私はお兄ちゃんと、絶対に……」
 絶対に? なんだ? 何をする気だ? 

『バキッ!』
 その時まるでお約束の様に、誰かが仕組んだ様に、俺は枝を踏んでしまう。

「きゃ!」
「……賢にいちゃん!」
 二人が俺の方に振り向く。

「あ、ああ、えっとこんな夜に二人でなんて危ないと思って……」

「おおおお、お兄ちゃん! 今の話聞いてた?!」
 妹は必死の形相で俺にそう聞いてくる。

「いや、途切れ途切れで何を言ってるのかわからんかったけど?」

「ほ、本当に?!」

「ああ、ほんと、ほんと」

「…………そか」
 妹はホッとした顔で俺を見る。
 本当に何を話していたかわからんかった……と、思う……。

「よし! じゃあ、皆で寝よう、川の字で~~」
 恵ちゃんが何かを誤魔化す様に立ち上がると、俺の腕にしがみつく。

「や、やっぱり……本当に寝るのか?」

「何? エッチな事でもしたいの?」

「しね~~よ」

「別にしてもいいよ~~そんじゃ、やっぱりお医者さんごっこを!」

「だからしね~~よ!」
 恵ちゃんとまたいつものように冗談を言いながらテントに戻る。そしてまたいつものように怒られる……あれ? 何も言わない? 俺がそう思い、テントの前で振り向き妹を見ると、妹は……怒りもせず、少し思い詰めた表情で何か考え事しているかのように、俺の方をジッと見つめていた。
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