15 / 99
絶対領域
しおりを挟む「それでお兄様、この本は一体?」
パラパラとページを捲り一通り眺めた後にテーブルの上にそっと置かれた、『全国メイド喫茶女子ナンバー1決定戦』というタイトルの本を前に泉が僕に説明を求めてきた。
「えっと、ぼ、僕の趣味の本です……はい」
「……」
家のリビングでテーブルに置かれた本を睨み付ける泉、しまった忘れてた、ミカンちゃんにサインを貰った喜びで泉の事をすっかり失念してた。
「こんなハレンチな本をお買いになるなんて、お兄様は欲求不満なのでしょうか?」
「欲求不満て……」
「お兄様、わたくしのメイド姿では物足りませんか?」
「え、ええええ?」
「やはりこんな風に胸を強調したり、短いスカートのメイド服がお兄様の好みって事なんでしょうか?」
「そ、そんな事はないよ! 泉が着てたヴィクトリアンスタイル(午後)のメイド服も、この……写真の娘が着ているフレンチスタイルのメイド服も、クラシカルスタイルのメイド服もチャイナ風や和風にアレンジしたメイド服もメイド服に差なんてない! メイド服は全て同等に尊い物なんだ!」
「お、お兄様?」
「あ」
ま、またやってしまった……メイドの事になるとつい熱くなってしまう……
「そうですか……分かりました、お兄様のお考えは……、それではお聞き致します」
「あ、はい……」
「そんな尊い物が載っている貴重な本に、なぜこの様な落書きがされているんですか?」
「あ!」
「あなたのミカンちゃん? 何ですかこれは?」
裏表紙に書かれているミカンちゃんのサインを指差し説明を求める僕の妹の泉さん……
「あ、えっと、それは……ああ、そうそう今回全国メイド喫茶女子ナンバー1決定戦の優勝者が今回決まって、その優勝者の記念で限定販売され……」
僕がそう言っていると泉はパラリとページを捲り裏表紙の後ろに書かれている物を僕に見せつけた…………ああ!
「佐々井君へ、今度お店に来てくれたらサービスしちゃうね、モエモエキュン♡ミカン特別チケットってなんですかお兄様?」
ミカンちゃん……いつの間に…………
「ミカンちゃんてこの娘ですよね?……この可愛らしいメイドの女子とお知り合いなんですかお兄様? まさか今日の本当の目的はこの本を買いに行く事ではなく、この娘に会いに行かれたんですか?!」
「ち、違う、偶然、本当に偶然本屋に居たんだ」
「偶然?」
ジロリと僕を睨む泉の目、怖い! こ、殺される! そう感じてしまう位の殺気のある目、もし僕は嘘をついていたら、多分すぐに白状してしまうのだろう、でも……
「ほ、本当に、本当に偶然ミカンちゃ、この娘が居たんだよあの本屋にだからサインを、本当にそれだけ……」
「このお店というのは?」
「ミカンちゃんの居るメイド喫茶の事だと、あ、でも行かないよ、て言うか僕メイド喫茶行った事無いんだよ!」
「そうですか…………」
「泉?」
僕が泉の名前を呼ぶと泉は一度顔を伏せ、一息つくと、顔を上げた。
そに顔はいつもの笑顔、いつもの天使の笑顔になっていた。
「お兄様がそう言うのであればそれが本当なんでしょう、わたくしは、お兄様の言葉を信じます」
「え?、あ、ありがとう泉」
なんでお礼を言っているのか今一分からなかったけど、なんか言わないといけない雰囲気で……
「それではこの話はここで終わりにして、お食事の準備を致しますね、今日はお兄様のお好きなハンバーグを作りますね」
「本当! うわー楽しみ」
この間のデート……買い物で色々と尋問……質問をされた時、僕の好物とか色々と聞かれていた。
「では、わたくし着替えて来ますね」
泉はそういうとリビングのソファーから立ち上がり部屋に向かう……僕の本を持って…………え?
「えっと、あの……泉? その本どうするの?」
僕のお宝、ミカンちゃんのサイン本……
「これはわたくしが預かっておきます、見たい時には言って下さい、一緒に見ましょうね」
「一緒に……」
「嫌なんですか? わたくしと一緒に見るのに何か問題でも?」
「いえ、全然、全然そんな事無いです!」
「そうですか、そうですよね、ではお兄様、お食事の用意ができましたらお呼びしますね」
「あ、ああ、うん、ありがとう」
泉はそう言って僕の本を持って自室に向かった……
リビングのトビラが閉まり、暫くして僕はソファーに置いてあるクッションに抱きつく……
「あああああああああああああああん」
ミカンちゃんが、ミカンちゃんの本がああああああ。
勿体ないから見なかったのに、家まで楽しみにしてたのに、ゆっくり見たかったのにいいい。
さっき泉が本をパラパラ捲ってた時に見えた、一杯ミカンちゃんが載ってた、可愛いポーズで一杯載ってた……
ああ、絶対領域が、ミカンちゃんの絶対領域があああ。
男なら分かってくれるよね、ああいうのは一人で見るから楽しいんだ、見たい所は何時間でもガン見したいんだ。
泉と二人で見るって……何その拷問……
「はあ……」
僕はため息をおもいっきりつくと、フラフラと部屋に戻る、頭の中はさっきチラリと見えたミカンちゃんの絶対領域で一杯になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる