クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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絶対領域

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「それでお兄様、この本は一体?」
  パラパラとページを捲り一通り眺めた後にテーブルの上にそっと置かれた、『全国メイド喫茶女子ナンバー1決定戦』というタイトルの本を前に泉が僕に説明を求めてきた。

「えっと、ぼ、僕の趣味の本です……はい」

「……」
 家のリビングでテーブルに置かれた本を睨み付ける泉、しまった忘れてた、ミカンちゃんにサインを貰った喜びで泉の事をすっかり失念してた。

「こんなハレンチな本をお買いになるなんて、お兄様は欲求不満なのでしょうか?」

「欲求不満て……」

「お兄様、わたくしのメイド姿では物足りませんか?」

「え、ええええ?」

「やはりこんな風に胸を強調したり、短いスカートのメイド服がお兄様の好みって事なんでしょうか?」

「そ、そんな事はないよ! 泉が着てたヴィクトリアンスタイル(午後)のメイド服も、この……写真の娘が着ているフレンチスタイルのメイド服も、クラシカルスタイルのメイド服もチャイナ風や和風にアレンジしたメイド服もメイド服に差なんてない! メイド服は全て同等に尊い物なんだ!」


「お、お兄様?」

「あ」
 ま、またやってしまった……メイドの事になるとつい熱くなってしまう……

「そうですか……分かりました、お兄様のお考えは……、それではお聞き致します」

「あ、はい……」

「そんな尊い物が載っている貴重な本に、なぜこの様な落書きがされているんですか?」

「あ!」

「あなたのミカンちゃん? 何ですかこれは?」
 裏表紙に書かれているミカンちゃんのサインを指差し説明を求める僕の妹の泉さん……

「あ、えっと、それは……ああ、そうそう今回全国メイド喫茶女子ナンバー1決定戦の優勝者が今回決まって、その優勝者の記念で限定販売され……」

 僕がそう言っていると泉はパラリとページを捲り裏表紙の後ろに書かれている物を僕に見せつけた…………ああ!

「佐々井君へ、今度お店に来てくれたらサービスしちゃうね、モエモエキュン♡ミカン特別チケットってなんですかお兄様?」

  ミカンちゃん……いつの間に…………

「ミカンちゃんてこの娘ですよね?……この可愛らしいメイドの女子とお知り合いなんですかお兄様? まさか今日の本当の目的はこの本を買いに行く事ではなく、この娘に会いに行かれたんですか?!」

「ち、違う、偶然、本当に偶然本屋に居たんだ」

「偶然?」
  ジロリと僕を睨む泉の目、怖い! こ、殺される! そう感じてしまう位の殺気のある目、もし僕は嘘をついていたら、多分すぐに白状してしまうのだろう、でも……

「ほ、本当に、本当に偶然ミカンちゃ、この娘が居たんだよあの本屋にだからサインを、本当にそれだけ……」

「このお店というのは?」

「ミカンちゃんの居るメイド喫茶の事だと、あ、でも行かないよ、て言うか僕メイド喫茶行った事無いんだよ!」

「そうですか…………」

「泉?」
  僕が泉の名前を呼ぶと泉は一度顔を伏せ、一息つくと、顔を上げた。
 そに顔はいつもの笑顔、いつもの天使の笑顔になっていた。

「お兄様がそう言うのであればそれが本当なんでしょう、わたくしは、お兄様の言葉を信じます」

「え?、あ、ありがとう泉」
 なんでお礼を言っているのか今一分からなかったけど、なんか言わないといけない雰囲気で……

「それではこの話はここで終わりにして、お食事の準備を致しますね、今日はお兄様のお好きなハンバーグを作りますね」

「本当! うわー楽しみ」
 この間のデート……買い物で色々と尋問……質問をされた時、僕の好物とか色々と聞かれていた。

「では、わたくし着替えて来ますね」
 泉はそういうとリビングのソファーから立ち上がり部屋に向かう……僕の本を持って…………え?

「えっと、あの……泉? その本どうするの?」
  僕のお宝、ミカンちゃんのサイン本……

「これはわたくしが預かっておきます、見たい時には言って下さい、一緒に見ましょうね」

「一緒に……」

「嫌なんですか? わたくしと一緒に見るのに何か問題でも?」

「いえ、全然、全然そんな事無いです!」

「そうですか、そうですよね、ではお兄様、お食事の用意ができましたらお呼びしますね」

「あ、ああ、うん、ありがとう」
 泉はそう言って僕の本を持って自室に向かった……

 リビングのトビラが閉まり、暫くして僕はソファーに置いてあるクッションに抱きつく……
「あああああああああああああああん」
 ミカンちゃんが、ミカンちゃんの本がああああああ。

 勿体ないから見なかったのに、家まで楽しみにしてたのに、ゆっくり見たかったのにいいい。

 さっき泉が本をパラパラ捲ってた時に見えた、一杯ミカンちゃんが載ってた、可愛いポーズで一杯載ってた……

 ああ、絶対領域が、ミカンちゃんの絶対領域があああ。

 男なら分かってくれるよね、ああいうのは一人で見るから楽しいんだ、見たい所は何時間でもガン見したいんだ。

 泉と二人で見るって……何その拷問……

「はあ……」
 僕はため息をおもいっきりつくと、フラフラと部屋に戻る、頭の中はさっきチラリと見えたミカンちゃんの絶対領域で一杯になっていた。


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