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姉と妹
しおりを挟む「お兄様……これは?」
いつもの天使の様な慈愛に満ちた泉はそこには居なかった、泉の後ろに浮かぶ黒いオーラは天使の羽ではない、黒い羽……そう堕天使……悪魔が悪魔がそこに居た。
「いや、えっと、泉……お帰り……随分早いね」
「ただいまお兄様……お茶の最中友人に急用が入ったという事で早々にお開きになりました……それでこの状況の説明はしてもらえるのかしら?」
「えっと、いや、その」
別に悪いことはしていない……でもなんだかこれじゃ、泉の居ない隙を狙って連れ込んだみたいに。
「えっと泉さん、あの私がね」
「貴女には聞いていません!」
「ひぃ!」
うわ、あの愛真が、小学生の時どんな男子にも立ち向かって行った愛真がびびってる……
「お兄様……これはどういうことなんですか? 私が居ない隙を狙って女子を連れ込み、さらには抱き合っているなんて!」
「いや、泉、えっとね、抱き合っていたわけじゃ」
「その女の胸に抱かれてうっとりしていたじゃないですか! どうしてそんな分かりやすい嘘を着くんですか!」
うっとりはしていない、愛真の馬鹿力で意識が遠のいていただけ。
「え、えっと、いや、嘘じゃ」
「お兄様! お兄様は正式に私の兄になったんです! こんな私の居ない、お父様や、お母様が居ない時に女子を連れ込んで、ましてや抱き合っているなんて、ハレンチな……恥ずかしく無いんですか? もっとちゃんとしてください! そもそもお兄様は学校でも皆と仲良くしないでいつも一人で居て、私のお兄様なんだからもっとしっかりしてください」
「ちょっと! 今は学校の事関係なくない!!」
とうとうと語る泉に愛真が耐えきれなくなり遂にキレた。
「え?」
「黙っていれば、そもそも、あんたのお兄様になったからなんなのよ! そんなの親の都合でしょ! 真ちゃんが望んだ事じゃないでしょ、あんたの兄だからって、そんなの真ちゃん関係ないでしょ? あんた何様のつもりなのよ!」
「ちょっと愛真」
僕の制止を振り切り愛真は泉に食ってかかる。
「それこそ貴女には関係ないですわよね?」
「関係なくない! 私は真ちゃんの姉なの! そもそも今日来たのは私の意志よ!、私が勝手に来たの! 真ちゃんは関係ない、言いたい事があるなら私に言えばいいでしょ!」
「でもここは、わ、た、く、し、の家です、私に黙って、両親にも黙って……勝手に入れたのはお兄様です、関係なくはないですよね?、そもそも姉って、貴女が勝手に言ってるだけで、正式には他人ですわよね?」
「あんただって他人じゃん、ついこの間迄他人だったんじゃん、今だって義理でしょ、そんなの!」
「やめて! 二人とも、もう止めて、ごめん、僕が悪いんだ、だから……」
「真ちゃん」
「お兄様」
「泉ごめん、愛真を勝手に家に入れて、泉の言う通りだよ、もうここは泉の家でもあるんだから、僕が悪かった……ごめんなさい」
「お兄様……」
「愛真、ごめん、僕がはっきり断らなかったから、でも泉は僕の妹だから、泉の分まで謝る、ごめんなさい、あと心配してくれてありがとう、今日はそれで来てくれたんだよね、僕は相変わらずだけど大丈夫、ケーキ美味しかったよ、今度は外でゆっくり話すから、時間作るから今日はもう……ごめんね」
「真ちゃん」
「二人ともごめんね、僕がしっかりしてないせいで、ごめん」
僕は二人に深く頭を下げた、二人に喧嘩をしてほしくない、そんな姿を見たくない、そんな泉を愛真を見たくない、二人を……嫌いになりたくなかったから……
####
僕は今自室でベットに寝転がっている、あれから二人はお互いに謝ってその場は事なきを得た、愛真は僕にアドレスと電話番号の紙を渡し、「じゃ、またね」と言って帰って行った。
泉は何も言わずに愛真を見送った後、黙って部屋に入って行った。
「あーーなんかモヤモヤする……」
僕の姉と妹、どちらも血は繋がって居ない赤の他人……でも両方共に僕の事を認識してくれて、考えてくれている。
透明人間だった頃、誰も僕を認識してくれて居なかった……その方がめんどくさくないと思っていた、人と関わるとめんどくさいと……でも僕は今めんどくさいって思っていない……あんな事があったのに……
「お兄様?」
ノックの音と泉の声が扉の外から聞こえる、僕は飛び起き髪を手でサッと整え「ど、どうぞ」と泉の入室を許可する。
「失礼します……」
泉は遠慮がちに扉を開けてそっと部屋に入ってくる、少しうつむきつつも僕を見ながら入ってきた泉に対してさっきの事を改めて謝ろうと口を開いた。
「泉……えっと、今日は」
「もう謝らないで下さいお兄様……悪いのは私です」
「え?」
「ごめんなさいお兄様、お兄様が愛真さんとその……、イチャイチャしているのが、その……我慢出来なくて……」
「いや、イチャイチャは」
「お兄様はお優しい方、愛真さんが強引に入って来るのを止められなかったって事は……私、わかってました、でも、なにか……つい言いたくなって、だから謝ろうと」
「いやえっと」
泉はベットに座る僕の前に立ち止まり、丁寧な所作で正座すると、そのまま手をつけ深々とお辞儀……って言うか土下座? する。
「言い過ぎました、申し訳ありませんでした」
「え? いや、そんな! だ、駄目だよそんな!」
「お兄様にあんな態度を取ってしまい、お兄様のご友人にあんな事を言ってしまい、私、妹として……お兄様の妹として失格でした、お兄様……申し訳ありませんでした」
更に深く、額を床につけ謝る泉、えええええええええ!
「いや、いいから頭上げて、駄目だよ兄妹でそんな」
「お兄様これくらいでは、謝った位では私の気が済みません、罰を、私にどうか罰を、そうでないと」
「ば、罰って、えええええええ!」
「なんでもお兄様の気が済む様に罰を」
泉が顔を上げ僕を見上げる、懇願するように、目に涙を浮かべながら……
「そんな、罰なんて、出来ないよ」
「お願いします、そうでもしないと、私の気が済みません、なんでも致します、お兄様どうか罰を」
さらに懇願してくる泉、でも罰ってなに? なにが罰になるの?
「で、でも罰って、僕わからないよ、そんな事言われても、えっと罰って何を……えっと…………ああ、昔小さい頃父さんにお尻を叩かれたけど、あれが罰なのかな?」
「お尻ですね、かしこまりましたお兄様」
「いや……ええええええええええええええええ!」
泉はそう言い立ち上がると、ベットの上に座る僕の膝の上にうつ伏せに乗ってきた……
「どうぞお兄様……ご存分に……」
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