クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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泉の好きな人って、ひょっとして……

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 無言だった、いつもなら何気ない会話、まあ主に学校の事とか夕飯の事とかそんな事を話しながら帰るのに。

 僕は泉の態度が変わった事に心当たりが無いか考える、心当たり、心に思い当てる、目当て、見当、いやいくら考えてもまるで見当たらない。

 僕は僕だ、佐々井真という人間だ、僕が考えて無いと考えればそれは無いのである、無である、無、すなわちゼロだ「」空白だ……しかし火の無い所に煙は立たない、幽霊の正体見たり枯れ尾花、枯れ尾花が無ければ幽霊は存在しないのである、街談巷説、道聴塗説……えっとすみませんこの辺にしておきます。

 ちょっと西尾っぽく頭の中で今の現状を説明しながら、なんとか僕の不安な気持ちを抑え家に到着、泉は未だに喋らない……そしてそのまま喋らず語らずおもむろにカバンの中から鍵を取り出し扉を開ける、ああなんかいつもなら一緒に暮らしてる実感というか嬉しさ楽しさが込み上げる瞬間なのに、なんだろうこの牢獄に入れられる看守と受刑者の様な気分は……無論受刑者は僕……元々僕の家なのに……

「どうしましたお兄様」

「い、いえなんでも!」

 遂に学校を出て初めて泉が口を開いた、身も凍る様な口調、雪女って恐らくこんな口調なんだろうと思わされる。
 思わず泉に敬礼しサーと言葉尻を付けそうになるのをこらえ、僕は手足が同時に出ないように緊張しながら玄関に足を踏み入れる、自分の家に入るのになぜこんなに緊張しなきゃいけないのか……

 玄関で靴を脱いだ途端に泉はガチャリと鍵をかけた、まあいつも通りなんだが、その音はもう逃がさない的なニュアンスに聞こえる。

「お兄様いつも通り着替えたらリビングに来てください、お茶の用意をしておきます」

「あ、はい……」

 そう言うと泉は僕追い抜き自室に入って行く、こ、怖い、笑顔が全く無い泉、いつ以来か思い出せない……家で僕に話しかける時に笑顔じゃあ無いのって……

 でも……なんだろう……ちょっとゾクゾクしちゃう……うわあああ僕ってキモい……

 でも多分これが恋人と兄妹の違いなんだろうか、恋人が怒っていたら謝ったり言い返したり、これが原因で亀裂が入って別れるとかって思っちゃんだろうけど、そこはほら僕と泉は兄妹だからね。

 まあ、でも不安は不安だ、泉って真面目だから僕の趣味とかやっぱり嫌だろうし、メイド趣味を止めろと言われたら……
 嫌、それは出来ない、僕の命だ! 僕はメイドで出来ている、僕の本体はメイドだから!
 そして僕は泉の兄だ、ここは一発兄の威厳を持って堂々と泉に言ってやろう!

「よし!」
 そうと決めたら戦争だ! 泉と喧嘩になってもメイド趣味を勝ち取ってやるぞ!

 僕は意気揚々とリビングに行く、そしてバーーンと壊れんばかりに扉を開いた!

「お兄様……もう少し丁寧に扉を開いて頂けますか?」

「す、すみません、つい……」

「気をつけて下さい」

「あ、はい……」
 だ、駄目だああああ、泉のオーラが、あのクラスカースト最上位のオーラが僕を卑屈にさせる……

「どうしたのですか? お兄様座ってください」

「あ、はい……」
 もう言われるがままだ、良くしつけられた犬の様に泉の前に座る、しっぽは振ってないぞ、あったら振ってるけど……


「コーヒーをどうぞ」

「あ、ありがとう…………!」

「どうしましたお兄様」

「いえ……」
 ううう、激甘……

「……」

「……」

 僕は激甘コーヒーをすする、泉も静かにコーヒーを飲んでいる……
 えっと何? 僕から言えって事なの? でも本当に趣味の事か? それとも違う事か、自分の胸に聞けって事なの?
  考えても分からない、やぶ蛇になっても嫌だし、ここは思い切ってそのまま泉に聞いてみた。

「えっと、それで泉、話しって?」

「……」
 コーヒーのカップに口を付けていた泉はそのままの姿勢で僕を一睨みする、こわ! ごめんなさい、ごめんなさい、僕が全部悪いんです。

 僕がとにかく謝ろうとした瞬間、コーヒーカップをソーサーに置き泉は姿勢を整えて言った。

「お兄様……本日お昼にお兄様が委員長の一萬田さんに……その……」

「ん?」
 突然泉がモジモジし始める、何この可愛い小動物は、いや、こんな泉は見た事が無い、ど、どうしたんだ、さっきまでの毅然とした態度はどこへ?

「えっと、その……あの……お兄様が、お兄様……」

「えっと凛ちゃんがどうかした?」

「り! 凛ちゃん!!」

「え?」
 僕があまりにもみかんちゃんみかんちゃんって言ってたらみかんちゃんは止めて、せめて凛ちゃんにしろってさっきラインで、だから今は凛ちゃんって心で呼んでいたのでつい……でも恥ずかしいので実際に本人には言えてない。

「やはり……お兄様は……分かりました、もう良いです!」
  そう言うと泉は立ち上がり足早にリビングを出ていく……え? えええええ!

 どういう事だ? 僕が一萬田さんの事を名前で言っただけで…………ま、まさか!

  もしかしたらと僕は前に一度だけ想像した事があった、その想像が今の態度を見て現実の物となってしまった。

 まさか……でも……ほぼ女子高のうちの学校でクラスカーストトップいや、学園トップの女王に君臨している泉、ひょっとしたらって思ってたけど。

 そしてあえて委員長とは距離を置いていた、更に今日の事、これは決定的なのかも知れない。



「そうか泉って……委員長、凛ちゃんの事が……好きだったのか……」
 僕はそう思い少し悲しくなった、でも僕の好きなみかんちゃんなら……当然なのかも知れない、泉に負けず劣らずな美貌を隠し持つあのみかんちゃんなら泉も好きになってしまうのかも……

 兄として……泉の兄として……僕は泉の恋を応援したい、いや、しなければならない
 僕はそう思っていた。



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