クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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楽しかったから

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「僕は…………このまま、なにもしないってのは嫌だ!」
 ベットで横座りになり愛真を正面に見ながら強い口調で僕は言った。

「そか……」

「うん…………この間のね、皆で一緒に行った遊園地……僕楽しかったんだ……凄く凄く楽しかったんだ」

「真ちゃんの勘違いが発端だったけどね~~」

「うう……でも……それでも楽しかった、僕は凄く楽しかったんだよ」

「そんなに? なんか複雑~~~私と二人きりの時よりも?」

「うん!」

「酷いよ~~~~~」

「ごめん……でも……それは愛真も居たから、泉も……凛ちゃんも居たから、最初は嫌な顔もしてたけど、皆最後は笑ってた……皆笑顔だった……皆の笑顔を見たら、楽しくて仕方なかった」

「…………うん、そうだね……私も楽しかった……」

「でも……今のままじゃ、このままじゃ……もうあの笑顔は見れない、もう皆と一緒に遊ぶなんて出来ない……と思う」

「うん……まあ……そうだろうね」

「だから話してみるよ、泉とも、凛ちゃんとも」

「うん……そか、良いと思うよ」

「うん………………愛真……ありがとう」

「ん? 私別に何もしてないよ? 話しを聞いただけ」
 愛真は不思議そうな顔をして僕にそう言った。

「ううん……ありがとう、帰って来てくれて……ありがとう。そして……友達になってくれて、本当にありがとう」

「し、真ちゃん!」
 愛真は口を押さえて目を見開く、そして驚きの声を上げる。

「……今までずっと言えなかったんだ……本当はずっと言いたかったんだ……こんな僕と友達になってくれて……ありがとうって……」

「こ、こんなじゃない! 真ちゃんだから……真ちゃんだから友達になったんだよ!」

「……そか」

「うん!」

「嬉しいよ……愛真と友達になって良かった、ありがとう友達になろうって言ってくれて……僕を救ってくれてありがとう」

「こちらこそ友達になってくれてありがとうね真ちゃん」
 僕は隣に座っている愛真の手をぎゅっと握ると、愛真も握り返してくれた。

 やっと言えた……ずっとずっと言えなかった事が……今、ようやく……言えた。

 愛真が突然海外に行くと言った時頭が真っ白になった。そして友達になってくれてありがとうって、ずっと言いたかったこの言葉が言えなくなって、僕は悔やんだ。もっと早く言っていればって。

 そして……もう今後ずっと言えないと思ったら今度は腹が立った。
 愛真なんてもう知らないって、あんな奴、友達にならなければ良かったって思った。

 でも愛真は帰ってきてくれた。また僕の前に現れてくれた。

 だから……ありがとうって、友達になってくれてありがとうって、僕はようやく愛真に言える事が出来た。


 愛真の愛らしい瞳がウルウルとしている。 僕はずっとこのまま愛真を見続けたいという衝動に駈られる。でも……行かないと……

「ごめん、愛真……僕、行かないと……」

「うん、大丈夫? 歩ける?」

「多分……大丈夫だと思う」

「痛いの苦手なんだから無理しないでよ」

「うん……でも今日は行かないと、どんなに痛くても行かないと」

「そか……真ちゃん……強くなったね、前は逃げる事しか考えなかったのに」

「そう……だね」

「うん、痛いの大嫌いだったもんね……」

「今でも大嫌いだけどね……」

 僕は逃げ出したい気持ちをこらえ、ベッドから立ち上がる。膝からビリッと痛みが走る。でも問題ない……大丈夫、歩ける……これくらいの痛み我慢しないと……

「私も行こうか?」

「ううん……大丈夫、僕一人で行かないと」 

「そか……うん、そうだね」

「うん」

 痛む足を引きずらない様に歩く、もうこれ以上愛真に心配をかけたくないから。

 部屋を出て玄関に向かうと、キッチンの扉から愛真のお母さんが顔を出してきた。

「あら、行っちゃうの? ご飯食べていかない?」

「あ、うん、ごめんなさい今日は……」

「そっか、じゃあまたいらっしゃいね」

「はい、絶対に来ます」

「あら、急に顔つきが男らしくになったわね、そうか真ちゃんも遂に大人になったか~~~」
 ニタニタと笑う愛真のお母さん、何か勘違い? している様な……

「なんか違う意味で言ってるよね……」

「待って真ちゃん、ほらシャツだけだと寒いでしょ」
 愛真が手にしていたのはセーター、それをを持って来て僕に着せる。

「これって」

「ん? 編んだの、真ちゃんに上げる為に」

「え?」

「ちょっと早いけどクリスマスプレゼント、下手くそだからやり直そうって思ってたんだけど」

「そか、ありがとう……」
 ちょっと派手な青い色のセーターを愛真に着せて貰う。少し歪んだセーターお世辞にも上手いとは言えない、でも……暖かい。

「じゃあ、行くね」

「うん、いってらっしゃい」

「……行ってきます」

 そう言って僕は愛真の家を出た。さっきまでの寒さはもう無い、セータの暖かさなのか、興奮しているのか?

 今から行けば間に合うかも知れないと、僕は痛みをこらえて早足で歩く。

 行き先は『喫茶メイドっ子倶楽部』凛ちゃんの居るメイド喫茶に向かって。









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