クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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溢れたお湯は湯船に返らず(覆水盆に返らず)

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「お兄様、お背中流しますね」

「う、うん」

 まだまだ続く泉とのお風呂回、今度は身体を洗われる僕……このシチュエーションは一体なんなんだ?

 鏡が湯気で曇っているので泉の姿は見えない、今何をしているのか分からない……何か後ろから音がする度にドキドキしてしまう。
 
 緊張しながら待っていると、唐突に背中に柔らかい物が……一瞬、泉の身体の一部がくっついたのかと錯覚したが、上下に動き出した感触から、すぐにスポンジだとわかった。

 凄く、くすぐったい、でも……気持ちいい……

 妹に背中を流して貰う……同級生に背中を流して貰う……どちらもあり得ない、お伽噺かファンタジーか……そんな事が今現実に起きている……

「お兄様の背中ってとっても綺麗ですね」

「あ、そ、そうなの?」

「ええ、男の人の背中ってもっとゴツゴツしたイメージですけどお兄様の背中って女の子みたいで綺麗です」

「あ、うん、えっとありがとう……でもその……泉……見たことあるんだ」

「え! あ! ありません! な、無いです、お風呂場でなんて!」

「あ、えっと……お風呂でなんて言ってないけど」

「あ……酷い、お兄様!」

「いやえっと、痛い痛い強いよ」
 ごしごしと強く背中を擦り付けられる、痛い痛い!

「変な事言ったお仕置きですわお兄様!」

「ごめんよ~~でも素朴な疑問だったから」

「もう……」
 そう言うと普通の強さで僕の背中、さらには肩口を洗い始める泉……そして。

「ウヒャヒャヒャ、い、泉! そ、そこは」

「もうお兄様動かないでください」

「いや、だって、横っ腹くすぐったい、ウヒャヒャヒャ~~」

「もうお兄様、脇も洗いますから腕も上げてください」

「いや、無理~~~、じ、自分で出来る、出来るから!」
 僕はそう言うと泉の持っているスポンジを奪い取り、自分でささっと洗い始める。

「ああん、お兄様~~」

「はい、洗った、洗ったから」

「ちゃんと洗いました?」

「うん、洗った、洗ったから、流して」

「本当ですか? じゃあ流しますね」

 再び泉はシャワーで僕の身体を洗い流す、肩口からゆっくりとシャワーをかけ、泡を落として行く。

「じゃあ、お兄様、お風呂に入りましょう」

「まだ怪我して間もないからあまり膝を温めるのは良くないって……」

「でも、少しは身体を温めた方が、短い時間なら入った方が良いと聞きましたけど」

「あーー、うん、じゃあ」

「はい! お兄様捕まってください」

「う、うん」

 僕はそう言われ泉に再び捕まり…………わわわわわわわ!

「お、お兄様?」

「な、なんでも……」
 僕は慌てて目を反らした……だって……泉のバスタオルが濡れていたから……濡れて身体にピタリと貼り付き……その……胸の……が……

「はい、気を付けてお兄様、入れますか?」

「あ、うん……大丈夫」
 僕はなるべく泉を見ない様にしながら泉の肩に捕まり浴槽に足を入れ、右膝を伸ばしつつゆっくりと湯船に浸かった。

「熱くないですかお兄様?」

「あ、うんちょうど……!」
 そう言われ再び泉を見る、見てしまう……泉は浴槽の前に正座をして僕に目線の高さを合わせる。 ピタリと胸に貼り付いているタオル、そして正座をする事により露になる太もも、い、いろんな物が見えそうで……

「えっと泉……その、あの、そこに居るの?」

「はい、お兄様が出るときに支えないといけませんので」

「そ、そうだけど」
 もう気になって気になって仕方がない……なるべく見ない様に、でも気になる……見たい……僕は欲望に負けて再びゆっくりと泉の方を見た。

 泉が……震えてる……

 泉は僕を見てニコニコしているけど……僅かに震えていた。

 お風呂のお湯は入れたばかりで浴室はまだ寒い、当然エアコンなんて付いていない。そこで濡れたタオル1枚で居る泉……寒いよね……

「えっと……泉……ひょっとして寒い?」

「え! さ、寒くなんて……くしゅん」
 絶妙なタイミングで可愛いくしゃみをする泉……でもわざとにしては上手すぎる……やっぱり寒いよね、濡れたタオル一枚で冷たいタイルの上に座っていたら……

「えっと……は、入る?」

「! お兄様……良いんですか?」

「ぼ、僕、今出るから」

「駄目です、まだ全然温まっていないですわ」

「で、でも、狭すぎじゃ」

「大丈夫です、お兄様、入れます!」

「そ、そう? じゃ、じゃあ」

「はい! 失礼します!」
 泉は物凄く嬉しそうにそう言うと、浴槽に対して横に座っている僕の前に体育座りの様に横向きに入ってくる。ちょうど僕が伸ばしている右足と曲げている左足の間に入り込む形で湯船に浸かる。泉が入ることにより、一杯になっていた浴槽からお湯が溢れ出す。

「ふわ~~~~とてもいい気持ちですお兄様」
 流れ出たお湯のせいで湯気が立ち上る、その湯気の向こうに泉が居る。僕は今……泉とお風呂に……入っている。

 湯気が薄れて行くと目に前に泉が……お湯に浸かり赤い顔をした泉が……そしてタオルはさらに身体にピタリと貼り付き、もう完全に身体の線がまるわかり状態……何この最新のプラグスーツは……

「…………」
 何も喋れない、何も言葉が出てこない……この圧倒的な光景、この幸福感……大好きな人とお風呂……ああ、もう死んでもいいや……ああ、この間死ななくて良かった。
 何がなんだか分からないこの状態、一生続けば良いなと思ったが、じわりと痛む膝、そろそろ出ないと……そう思った瞬間泉が僕に声をかける。

「お兄様、そろそろ膝に悪いですから出ましょうか」

「あ、うん……そ、そうだね」

「では……」
 泉がそう言い湯船から立つ……立った瞬間お湯によって重くなったからか、浸かった事によって結び目が緩くなったからか、タオルがハラリと僕の目の前に落ちる。

 僕はその落ちたタオルを目で追った……スローモーションの映像の様に湯船に落ちていくバスタオルをしっかりと目で追った……追ってしまった。

「ひぁ!」
 泉はそう言うと慌ててしゃがみこみ湯船に浸かる、そして浮かんだタオルを掴み慌てて身体に巻いた。

「お兄様に……見られてしまいました」
 僕を見て泉が苦笑いでそう言った。

「み、見てない!! 本当、本当に」
 本当に見てない……タオルを見ちゃったんだ、本当に! 信じて!

「そうですか? でも恥ずかしいですけど……お兄様になら別に……見られても構いませんよ……さあ、それじゃ上がりましょうか」
 
 え? それだけ? 見ても良かったの?
 
 泉に連れられ脱衣場に戻る。また背中合わせで着替え悶々としつつ、そのままリビングに行く。

 「すぐに作りますから少し待っててくださいね」
 そう言うと泉は僕をリビングのソファーに座らせ、そのままキッチンに行き夕飯の支度を始めた。

 僕はその後ろ姿をじっと見つめる、頭に浮かぶのは、さっきパサりと湯船に落ちたバスタオル…………おそらくそのまま目線を落とさなければ泉の全裸が見えた筈……そして仮に見えていても泉は気にしないと……
 


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 後悔先に立たず…………

「でもチャンスまだ……明日こそは……」
 僕は泉に聞こえない様にぽそりとそう呟いた。


 しかし翌日泉は……

「お兄様が恥ずかしがって介助しにくいので着てみました、似合いますか?」
 脱衣場で水着姿を披露してきた。水色のセパレート、いわゆるビキニ姿……凄い、綺麗、可愛い……でも……

 ああ、後悔先に立たず、覆水盆に返らず、幸運の神様は前髪しか無い、ううう……悔やんでも悔やみきれない。
 平気と言われたからと言って、まさか見せてくれとは言えない……そしてもう……あんなチャンスは二度と来ない……かも。
 
「お兄様? どうされましたか? さあ入りましょう」

「うん……」
 水着姿の泉とお風呂に入る……これはこれで凄いんだけど……昨日に比べたらと思うと……
 
 ああああああああああ、昨日のあのシーンを誰か映像化してくれええええええええええええ!
 アニメでも、いや、コミカライズでも、いや、らのべの挿し絵でも、ああもう、そこの絵師の人で良いからあああああああああああああああ。
 
 そんな訳の分からない思いのまま、今日も泉とお風呂に入る……水着姿の泉と………………昨日のあのシーンが無かったら、今無茶苦茶幸せだったんだろうなぁ……と、その時僕は幸せの閾値って奴を痛感した。
 
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