52 / 99
凛ちゃんの傷
しおりを挟む「えーーっと……」
またクラスがざわついている……僕が松葉杖をつきながら教室に入っても気にも留められなかった……が、僕のカバンを持ち、僕に付かず離れずベッタリと寄り添う泉を見て若干クラスの空気が変わった……でもまあ、兄が怪我をして妹が介助するってのは普通の事と思ったのか? すぐに普通の空気が流れた……
ただ今は違う……クラスの皆の頭の上に?マークが見える。
だって……みかんちゃん……もとい、凛ちゃんが、クラス委員長が泉と代わって突然僕の介助を始めたからだ。
「えっと……なんで?」
トイレに行こうと席からゆっくりと立ち上がると、泉ではなく凛ちゃんが僕に付き添う、僕の腰に手をやり、松葉杖で歩く僕の介助をやり始める。
「ん?」
「いや、ん? じゃなくて……なんで凛ちゃんが僕の介助を?」
「ああ、泉さんは家で私が学校でって事になったから」
「いや、なったからって……」
凛ちゃんと二人ざわつく教室を出ようとした時、僕は泉の方を見た。泉はカースト上位のお嬢様たちと一緒に次の体育の授業の着替えをするべく教室を出て行く所だった。
泉は僕をチラリと見ると少し悲しそうな表情をしたがすぐに皆と笑いながら教室を出ていく。
泉の様子から凛ちゃんの言っている事は本当なのだと、てか僕の了承は? 少しやるせない気持ちなるも、泉の負担を減らすと言う意味では仕方ないと思い直し、ほぼ同時に教室を出て僕と凛ちゃんは泉達とは逆方向に歩いていく。
「佐々井君勿論体育は見学でしょ? 私も見学だから先生に断って一緒に見る事にして貰ったから」
「いや、して貰ったからって……あれ? そもそも凛ちゃんは、なんで見学?」
「あーー、もう聞かないでよ、エッチ」
「エッチって……」
「ほら、私の事はいいからトイレに行くんでしょ? 持ってあげるから」
「持つ! ええええええええ、持つって、な、何を!!」
「え? 松葉杖だけど」
「あ、ああ、そ、そうか……」
「そうかって他に何と………………あああああ、エッチ! もう佐々井君!」
「エッチって……だって凛ちゃんそう言う話しよくするから、ついまたかって」
「よくはしない! 学校では委員長なんだからね私は……ほら、多少は歩けるんでしょ、ここで待ってるから早く行っておいで、私中まで入れないんだから途中転んだりしないでよね?」
「はーーい」
骨折ではないので一応歩ける。膝に負担をかけない様に松葉杖を使っているだけなのでと、僕はゆっくりと歩きながら、慎重に一人でトイレに入った。
しかし委員長を凛ちゃんを男子トイレの前で待たせるって、本当悪いなって思うと同時に、なんとも言えない優越感というか……
バランスを崩さない様に転ばない様に慎重に用を済ますと、手を洗いハンカチで手を拭きながらトイレを出る。
「はい、ちゃんと手洗った?」
松葉杖を渡しながら僕を見てニッコリ笑う凛ちゃん……なんだろう……何か凄くドキドキする……
「あ、洗ったよ!」
「本当? 3分以上かけて爪の中まで洗わないと駄目なんだよ」
「3分って、僕のどんだけ汚いんだよ!」
「あははははは、まあ穢らわしいよね」
「穢らわしいって……」
「ほら体育の授業始まっちゃうよ、見学でもちゃんと行かないと」
「あ、うん、僕は大丈夫だから凛ちゃん先に行っていいよ」
「駄目だよ、階段は下りが危ないんだから」
「もう、本当心配性なんだから、昨日も泉はお風呂で…………」
「お風呂!? 泉さんと…………ええええええええええ!」
「あ……」
「さ、佐々井君、泉さんと……お風呂……入っちゃったの?」
「あ、いや、その……」
「へーーーー、本当……そうなんだ……」
「あ、いや、その、そう! 水着で、昨日は水着を着て入ったからで」
「昨日……は?」
「あ!」
「へーーー、本当なんだそれ…………うわ……穢らわしい」
「いや、あの、その」
「見たの?」
「え?」
「見たの? 泉さんの……裸」
「み、見てない!」
「本当?」
「うん、うん、だってタオル巻いてたから、見てない」
「タオル……で、でも、ほら……そう言うのってよくパサッて落ちて丸見えって言う展開になるじゃない?」
「な、ナイナイ、そんな才能無い作家が書く様なありきたりな展開になんてなるわけ無い、ラッキースケベなんて都市伝説だよ!」
「うーーん、本当かなぁ」
「本当本当」
僕は必死に否定する、なんでこんな必死に否定するのかよくわからないけど、とにかく必死に否定した。
「そか……」
凛ちゃんはそう言うと僕を見て笑った。その笑顔を見て少し胸が痛んだ……うん、でも嘘はついていない、パサッとは落ちたけど、見てないから……だから嘘は言っていない……はず。
「うん」
「でも……本当は見たかったんでしょ?」
「そりゃ……あ」
「もう……本当にエッチなんだから」
「またそう言う……」
「私が……もし……」
「え?」
「ううん、なんでも無い、ああ、もう授業始まってるよ、怒られちゃう」
「あ、うん、ごめん」
「いいよもう、転ばない様に慎重に行こ」
「うん、ありがと」
僕がそう言うと凛ちゃん僕の腰に手を当てる、松葉杖をつきながら階段を降りるのは結構大変だ。凛ちゃんはバランスを崩さない様に僕をしっかりと支えてくれる。
なんとか凛ちゃんの手を借り校庭に向かう。苦労して向かいながらも、僕は凛ちゃんが最後に言った言葉が凄く気になっていた。私が……もし……と言う言葉に……そしてそれが何を意味するかは分かっていた。
もし……凛ちゃんの胸に……火傷の痕が無かったら……
凛ちゃんの火傷の痕……うちの学校にはプールがない、なのでその傷痕を僕は見た事は無い……その火傷の痕がどれくらいの物なのか僕には分からない。
ただ一つ分かっている事、それは……凛ちゃんの傷痕は身体の傷痕以上に心の傷痕として残っていると言う事だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる