クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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最低な質問

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 クリスマス、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
 三人と……僕の大好きな三人と過ごしたクリスマスパーティー、当たり前だが延々と続ける事なんて出来ない。
 一瞬皆泊まって行けばと思ったけど……やっぱりそうは行かない。
 仮に泊まったとしても、明日は帰らなければ行けない。終わりは必ず来る。

 もしも、もしも三人が帰ってしまったら、僕は寂しさで押し潰されてしまったかも知れない。もしも一人なら、そんな孤独に耐えられなかっただろう。
 知ってしまったから……この楽しさを知ってしまった。
 知らなければ良かったのかも知れない、いつもの様に一人で過ごせば良かったのかも知れない。

 でも二人が帰っても、僕は孤独じゃなかった……そう、今は泉が居るから……


「お兄様、あまり時間はないけど二人きりのクリスマスイブですね~~」

「うん……」
 二人は日付が変わる前に帰って行った。時間が遅かったので愛真のお母さんが車で迎えに来て、凛ちゃんも一緒に送ると二人を乗せて帰って行った。

 そして、今はクリスマスパーティーの余韻が残るリビングで泉と二人きりのイブを過ごしていた。

「お兄様、改めてお怪我の回復おめでとうございます!」

「うん、ありがとう、泉にはだいぶ迷惑をかけたよね」

「いいえ、私は全然もの足りません、もっとお兄様のお世話をしたかったのに」
 悔しさを滲ませる様に泉は言った。

「でも……それじゃ泉が大変だし」

「お兄様はおモテになりますからね!」
 つーーんと言う顔で横を向く泉、可愛い……いや、僕は全然モテてなんかいないし……

「えーー、僕がモテモテなら世の中の男は皆モテモテだよ、三人とも義務で看病してくれたんでしょ?」

「そんなことありません!」

「――泉……」

「お兄様は……とってもお優しくて、皆の事を考えて、大事にしてくれて……とても素敵な方です! だから……愛真さんも凛さんも……そして……私も……皆、お兄様の事が大好きなんですよ」
 泉は僕を見て、にこやかに笑いそう言った。凄く嬉しい……でも、愛真はともかく凛ちゃんが僕の事を好きなわけないし……泉は……

 僕は言いたかった。泉は、そもそも泉は僕を見てくれているのかって……

 僕は泉が好きだ……でも……泉は僕と兄妹になりたいって、そう思っているはず。だから僕は自分の気持ちを殺して、泉と兄妹になろうって思った。
 恋人にも、夫婦にもなれないなら、せめて家族になれば、僕のこの気持ちも浮かばれるんじゃないかって……

 でも……泉は、泉は僕を通して、死んだ兄さんを見ている。
 僕に優しくして、尽くしてくれるのも、全て兄さんへの贖罪。

 じゃあ……僕は……僕自身は? 

「泉……」

「なあに? お兄様」

「あのね…………僕……僕ね………………愛真に告白された……」

「え?」
 僕がそう言った途端泉の顔から笑顔が消えた。戸惑いの表情に……変わった。

「僕の事が……好きだって……」

「そ、そう……なんですか……」

「…………」
 泉は正面に座って僕を見つめている。凄く悲しそうに、凄く切なそうに、僕の顔を……僕は……泉の顔を見れなくなり俯いてしまった。

「お兄様は……愛真さんの事がお好きなんですか?」

「……嫌いじゃ……ないよ」
 好きなのは、一番好きなのは……泉、泉が一番好き……僕はそう言いたかった。

「そ、そうですか……」

「うん……」

「…………」

「…………」
 そしてそこから沈黙は続いた。折角のクリスマスなのに……さっきまで楽しかったのに……でも……僕は言いたかった。こうなる事はわかっていたのに、言いたかった。

 そして僕は最も最低なセリフを泉に吐いた。

「ど、どうすれば……いいかな?」
 そんなの、自分で考えろって、自分で決めろって、それはわかってる。泉に聞くことじゃないってわかってる。一番好きな人に、聞いては行けないって事もわかってる。

 でも言いたかった。僕は言いたかったんだ。このセリフを言いたかったんだ。この最低なセリフを借りて僕を見てって、死んだ泉の兄さんじゃなく、生きている僕を見てって……

「愛真さんは、とても良い方だと思います……お優しくて、明るくて…………お、お兄様、おめでとうございます」
 泉はそう言ってニッコリ笑った。僕を見てニッコリと……僕は……その笑顔を見て腹がたった。生まれて初めて女の子を憎いって思った。思ってしまった。
 だから僕はもっと最低な事を泉に言った。

「じゃ、じゃあ僕が……僕が愛真と……付き合っても、いいんだね?」

「え?」

「愛真と……恋人に……なっても良いんだね」

「それは……」
 泉の表情が一瞬曇った。当たり前だ……僕は物凄く意地の悪い事を泉に聞いているんだから……、ここで嫌なんて言えるわけがない……いや、そう言ってくれたら僕は多分泉に告白をしただろう。でも言うわけがない……だって僕は僕だから、泉の死んだお兄さんの代わりじゃ無いんだから……それは泉だってわかっている事なんだから……

「あ、ごめん……自分で考える事だよね、えっと、そろそろ寝るよお休み」

「あ、ええ、お休みなさい……お兄様」

 僕は立ち上がり、今最も早く歩けるスピードでリビングを出た。

 耐えられなかった……泉の返答が待てなかった。良いですとも駄目ですとも言われる事に僕は耐えられなかった。

 やっぱり僕は何も変わっていない……ヘタレで最低で……最悪だ。
 僕は何も……小学生の時から何も変わってなんかいなかった。


 僕は、こんな最低な僕は……誰からも愛される資格なんて……無かった。

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