66 / 99
清楚で従順で潔癖で……
しおりを挟むファミレスから歩くこと15分、小綺麗なマンションにある凛ちゃんの部屋にやって来た。
「どうぞ~~」
玄関でスリッパを揃えて出してくれる……今から凛ちゃんの部屋に入ると思うと少しドキドキする。
そう言えば、愛真の部屋以外で女子の部屋に入るのは初めてだ。
母さんの部屋が泉の部屋として完全使われる様になった後、泉の部屋に入った事は無い……
「つ、つまりこれは! 人生2度目の女子の部屋!!」
「真君マジでキモーーーーい」
「あうううう、つい嬉しさで心の声があああ」
「ほら入って」
「あ、はい」
そう言われ凛ちゃんの部屋に入る。これはワンルームマンション? いや、1DKいや、一応二部屋あるから1LDKって言うのかな? 小さめのキッチンにダイニング、小さな部屋とその奥に少し大きめの部屋、ダイニングには食卓、部屋にはベットと机、小さな部屋にはテレビ、本棚が所狭しと置かれている。
ぬいぐるみなんかもあって僕の部屋とは違うんだけど、愛真の部屋みたいに可愛いらしい部屋って感じではない……他に入った事が無いのでなんとも言えないけど、女の子の女子高生の部屋っていう感じはあまりしない……
「どう? 生活感溢れてるでしょ? これが人間の部屋だよ」
「人間の部屋?」
「そうだよ、実家に居る時は可愛い部屋にしようって思って、色々やってたけど、一人暮らしになるとそんな事やれないんだよね~~」
「そうなの?」
「うん、生活するので精一杯、女の子は家族と暮らしている間だけ、可愛い部屋にいられる気がする……まあ頑張ってやっている人もいるけどね~~私も一人暮らしを始めた直後は色々イメージしてたけど、学校に仕事に忙しくて……どう? イメージと違ったでしょ?」
「え! あ、うん……」
どうって言われると……僕は女の子の部屋って愛真しか知らないし、愛真の部屋ってピンクに溢れてて、だから皆そうだって思ってて……
「ふふふふふ、まあ座ってコーヒーでいい?」
「あ、うん……ありがとう」
ダイニングにある食卓の席に着く、正面には凛ちゃんがキッチンに立ちコーヒーを入れる準備をしている。
僕は母さんの後ろ姿、料理や家事をやっている姿を知らない……だから女の子が料理や家事をしている姿を見るのはとても新鮮だった。
そして凛ちゃんの姿を見てふと思った。そう言えば、泉がご飯を作っている姿って殆ど見た事ない……それ所か一緒に生活しているのに、泉の生活が見えて来ない……家事は万能、今や料理洗濯は全てこなしている……でもそういう姿を見た事がない……
「はーーいどうぞ」
凛ちゃんがコーヒーとクッキーを僕の前に置き自分のコーヒーを持って反対側に腰掛ける。
「あ、ありがとう、これって」
少しいびつなクッキー、ひょっとして……
「昨日焼いたの~~美味しいよ~~」
「そうなの? 凄い」
「クッキーって簡単なんだよ? 生地をこねて型を取って焼くだけ、クリスマスプレゼントをくれたお客様にお返しで作った残り~~、これで次のイベントにも来てくれるし、来年のクリスマスプレゼントも貰えるし、安い物だよ、ふふふふふ……」
凛ちゃんが不敵な笑みを浮かべる……
「…………へーーー」
「あははははは、これでもお店のナンバーワン人気メイドですからね、色々頑張っているわけだよ、あ、大丈夫、真君からクリスマスプレゼント貰おうなんて思ってないから気にしないで食べて~~」
「あ、はい……」
「あはははははは、微妙な顔してる~~うける」
「もう~~、でも……凛ちゃんて……なんでも言ってくれて、だから僕もなんでもつい話しちゃう……なんかいいね、なんでも話せる友達って」
「あははははは、なんか言い方がキモーーい」
「ああああ、またあ、キモいって言われる意外に傷つくんだよ!」
「ごめん、ごめん、つい言っちゃうんだよねえ」
「もーーーー」
「それで、どう? 少しは考え変わった?」
「考えって?」
「泉さんに対してだけじゃなく、愛真さんにも、私にもだよ。真君は真面目過ぎるんだよね、潔癖過ぎる。自分が好きな人は自分だけ見て欲しい、他の人の事を考えるのも駄目って考えでしょ?」
「そ、そこまでは……」
僕がそう言うと凛んちゃんの顔が変わった……真剣な、神妙な覚悟を決めた様な顔に変わった。
「…………愛真さんが外国に行った時、自分の事より引っ越しを、海外に行くことを優先したのが嫌。泉さんが死んだお兄さんの事を考えているのを知った時、自分を見ている視線が自分を通過してお兄さんを見ているって事が嫌。最近お店に来てくれないのも、今日も外で待ち伏せしていたのも、私が真君以外の誰かと笑顔で会話をしている姿が嫌なのかなぁって」
「そ、そんな事!」
「そんな事? 無い? 言い切れる?」
「…………」
「ごめんね……でもね、真君、貴方が友達を作れない一番の原因は、貴方が潔癖過ぎるんだよ、そしてそれを人に求め過ぎるんだよ……貴方はメイドにしか心を開いていない、清楚で従順でなんでも言うことを聞いてくれる潔癖なメイドにしかね……違う?」
「…………」
「だから私に……生まれて初めて自分から言ったんでしょ友達になってくれって言ったんだよね? それって私がメイドだから?……でも……ごめんね……私はメイドじゃないの……私はただのメイド喫茶の店員なの……」
凛ちゃんはそう言うと目の前のコーヒーを一口飲み、そして姿勢を正して真っ正面から僕を見つめる。なにかを期待して、自分の意見の反論を期待して……
でも僕は……何も言い返せなかった……だって……だって全部…………図星だったから……
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる