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こうすれば……家族じゃなくなる。
しおりを挟むその可愛い顔も、美しい髪も、細い腰も、形のいい胸も、可愛らしいお尻も、細長い指も、すらりと伸びた足も、目も鼻も口も首も肩も腕も体へ全てが憎い。
優しい性格も面倒見の良い所も頭の良さも料理の上手さも……何もかも憎い……。
カースト頂点のお嬢様……本物のメイドがいる家で暮らしていた正真正銘のお嬢様……。
今僕はその全てが疎ましい……その全てが憎い……泉の全てが嫌いだ。
『僕はこいつが、この女が世界一憎い』
僕の中でどうしようもない位の嫌悪感が沸き起こる。
嫌いだ、こいつが嫌いだ。
そして……愛真も嫌いだ、凛ちゃんも嫌いだ、ミイちゃんも、父さんも、母さんも、義母さんも、この家も、学校も、クラスメイトも教師も……。
皆嫌いだ……大嫌いだ!
何が友情だ、何が愛情だ、何が家族愛だ。
そんな物存在しない、愛なんて存在しない……。
そう……僕の今まで思っていた気持ち、泉に、こいつに思っていた気持ちなんて幻なんだ。
そんな物存在しない……存在しなかった。
嫌いだ、皆嫌いだ。
そして……僕は……。
「僕は……僕が一番嫌いだ」
僕はヘラヘラと泉に告白した……そんな物今は存在しないから……そんな物幻想だったから……。
結局誰も僕の事を見てくれない、泉は死んだ実の兄の代わり、愛真は僕の前から居なくなった罪悪感、凛は僕にメイド喫茶の店員、みかんちゃんという秘密を握られているから。
僕自身を誰も見てくれない……僕はやっぱり透明人間だ。
いつまでもクラスで底辺、その辺の石ころと同じ存在。
そりゃそうだ……何の取り柄もない、何の才能もない、イケメンでもお坊っちゃまでもない……何もない……僕は何もない何者でもない……。
「お、おにい……真くん……」
ふふふ、ほら告白までしたのに……僕は相変わらず『お兄さま』なんだ……泉の目には僕は映っていない……僕は泉のお兄ちゃんの代用品。
ただの身代わり……人形。
そう……今までの事は、全部ごっこ……おままごとと一緒だ。
死んだ泉の兄にしたかった事を僕にしていただけ……全部泉の兄に向けたパフォーマンス、自分の罪悪感を消す為僕を利用しただけ。
「あははは」
笑いが止まらない、こんなにも悲しいのに、こんなにも辛いのに僕はヘラヘラと笑ってしまう……。
そして……泉の姿がどんどん見えなくなっていく、目の前にいるのに、こんなに近くにいるのに……どんどん霞んでいく。
僕の目から涙が溢れ出す、あははは、僕は笑いながら泣いている。
気持ち悪い……僕は気持ち悪い……。
「ごめんね、僕って気持ち悪いね……告白して、笑いながら泣いて」
ボロボロと涙を流しながらヘラヘラと笑って告白するって……どんだけ気持ち悪いんだよ……。
「……」
泉はフルフルと首を横に振る……何も言わずにフルフルと……。
その表情は見えない……涙で全く見えない。
「もう……僕の事は……ほっといて……お願い……します」
もう……終わった、僕と泉の関係、兄妹の関係、家族としての関係、同級生としての関係……全部終わった……。
「いや……です」
泉はうつ向きながらそう言った……。
「なんで……僕はもう限界だよ……これ以上……泉に付き合えない……君の……罪悪感を晴らす為の道具は嫌だ」
もう嫌だ、嫌なんだ……これ以上嫌いにさせないで……これ以上君の事を嫌いになりたくない……。
「ごめんなさい……そんなつもりは……」
「謝るな! 謝らないで……そんなの……僕が惨め過ぎる……そんなの……」
「でも……どうすれば良いか……わからないから……ほっておけない……そんなの家族じゃないから」
「だから……家族なんて思っていない……泉と家族になんてなりたくない、なりたくなかった」
「……じゃあどうすれば」
「どうすればって……あはははは、そうだよ、こうすれば家族じゃあなくなる!」
僕は泉の肩を持つとそのままベットに押し倒した。
目に溜まっていた涙がポロポロとこぼれ、泉の顔に降りかかる。
そして少しづつ視界が晴れていく、涙がこぼれ落ち少しずつ、ボヤけていた泉の顔が少しずつ見えてくる。
泉は僕を見ていた、泣いても笑ってもいない……じっと真顔で僕の顔を見続けていた。
僕がのし掛かっていても、ポロポロと僕の涙が顔に落ちていても、気にせずに、そして何も言わずに、動揺している素振りも見せず……ただじっと僕の顔を僕の目を見つめていた。
そして……泉はそのまま何も言わずに……そっと……目を閉じた……。
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