異世界街道爆走中〜転生したのでやりたい仕事を探します。

yuimao

文字の大きさ
68 / 84
第三章 悩める剣士との出会い

第57話 おにぎり

しおりを挟む
「ワタルさんをお連れしました」

 エルザさんが応接室の奥の扉を開けて、中の人物に声をかけた。

「し、失礼します」
「・・・・・・」

 恐る恐る中に入った部屋は先程の応接室より一回り小さいながらも立派な部屋だった。

 いかにも高そうなテーブルの上には何やら布が被さっている物がたくさん乗っている。

 その横には動物の皮できたフカフカのソファー。
 そして・・・大きな窓を背にして一人の女性が背を向けて立っていた。

「ちょっと待っててね。心の準備をするから・・・スゥーハァー・・・よし!」

「・・・・・・あの・・・」

「ひさ・・・初めまして。ワタル・・・ワタルさん。一日商業ギルドマスターのロード・デントロンです」

「おお!エルフだ・・・」

 振り向いた女性を見て思わず声が出てしまった。
 太陽の光を受けて白い髪が輝いている。
 ユキナは銀に近い白だが、ロードさんは雪のような白い髪。

 落ち着いた感じの白を基調とした服に、大きめのアクセサリーを付け、こちらを緊張したような顔で微笑んでいる女性。

 そして、特徴的なピンと尖った長い耳。
 もちろんエルフを実際に見たことはないが、ラノベの定番であるエルフの姿そのものだった。

 年の頃は二十歳くらいだろうか?しかし、エルフは年齢が分かりづらいというし、本当はもっと年を重ねているかも知れない。

「は、はじめましてロードさん。ワタルと申します」

「・・・・・・・・・」

「私はこれで失礼します。後はお二人でごゆっくり・・・」

「あっ!ちょ!エルザさん!」

 なんだかニマニマしながら去っていったエルザさん。
 いきなり一人にされてしまった。
 ・・・気まずい

「あの・・・ロードさん?どうかしたんですか?」

 ブツブツ

「・・・ずいぶん立派になって・・・少し痩せたかしら・・・ちゃんと食べるの?・・・でも前より生き生きしているから良かった・・・彼女の一人でもいれば・・・でも周りは妖精ばかりだし・・・アドレーヌは身分が違いすぎるからNGね・・・苦労するのが目に見えているから」

 おいおい・・・なんか俺を見ながらブツブツ言い出したぞ。
 俺のファンって言ってたけどストーカー的なファンなのか?

「ロードさん!俺に話があるんですよね?」
「ハッ!ごめんなさい。つい本人が目の前に現れると混乱してしまって・・・とりあえず座って」
「は、はい」

 俺はフカフカのソファーに座る。

「なぜ隣なんですか?」

 当たり前のように俺の隣に座るロードさん。

「お腹減ってるでしょ?エルザに好物を聞いて作ったの。ああワタルさんが転生者って聞いてるから安心して。地球の食事を再現してみたのよ!食べてみて」

 俺の質問を無視したぞ・・・

 そしてロードさんはテーブルにある山のように積んである何かの布をめくった。

「こ、これは・・・おにぎり・・・まじか・・・」

「好きでしょおにぎり!それにだし巻き卵に肉じゃが・・・そして・・・ジャン!唐揚げ!」

「おお・・・おお・・・なんで俺の好物ばっかり」

 そこには日本で見慣れた食べ物ばかり並んでいた。しかも、俺の誕生日などに出される好物ばかり。

 その懐かしさに思わずここが異世界だと忘れてしまう。母さんとハルカと俺が楽しく食卓を囲む光景がフラッシュバックする。

「こっちじゃパンが主流だから、お米を取り寄せたのよ。さっ!食べなさいワタル」

 俺を「ワタル」と呼んだことなど気にしてなどいられない。

「い、いいんですか?」

 恐る恐る目の前のおにぎりを掴み、頬張った。

「モグモグ・・・ああ・・・うまい・・・塩が強めのところも俺好み・・・中身はシャケ?」
「これも使いなさい。ほらご飯粒ついているわ。他にも食べてみて!」
「は、はい。頂きます。あっすみません」

 なんとロードさんはお箸を出してきた。

 慣れた手つきで口についたご飯粒も取ってもらい、目の前の物を夢中で食べ始めた。

 口の中に入るジャパニーズ感。

 おにぎりとおかずのハーモニー。

 醤油味の唐揚げのサクサクとした歯ごたえ。

 俺の口が日本にいた時の事を思い出したようだ。   
 とにかくヨダレが止まらない。

「あらあら慌てないの・・・そんなに美味しいの?」
「うまいです・・・うまいです・・・屋敷の食事も良かったけど、これは実家の味だ。ありがとうございます。う、嬉しい・・・です」

 俺は食事をしながら泣いていた。そして泣きながら夢中で食べた。

 常に気を張っていた異世界での暮しの中で、知らず知らずのうちに俺の心は疲弊していたようだ。日本の食べ物が心に染み渡っていくのが分かった。

 ・・・・・・・・・

「・・・ご馳走様でした。めちゃめちゃ美味しかったです」

「気に入ってくれて良かった・・・そうだ!ワタルの心を少し軽くしてあげるわ」

 ロードさんは食べ終えた俺の背中に手を添えた。
 ポワっと暖かい何かが背中に広がる。

「ねぇワタルのお話を聞かせて!楽しかったこと、大変だったこと、恋バナなんかもあれば嬉しいわ」

「・・・えっと・・・はい・・・俺の話でよければ・・・恋バナはないですけど・・・」

 それから俺はこの世界に来た時の事を話し始めた。
 ロードさんは、時に驚き、時に喜び、たまに苦言を呈しながら聞いてくれる。

 初対面の人とは思えないほど、不思議と話題が弾む。

「ウェンディは、口うるさいけど頼りになる相棒って感じです。最近なんか焦っているような感じだけどなんでだろ?」
「へぇそうなの」

「ノーミーは今でも英雄ザリオンの事を忘れられない感じです。一緒にはしゃいだりしてるけど、フッとした時に悲しんだ顔をします。」
「うん辛いわよね」

「・・・ユキナに・・・ユキナに初めてあった時は、絶望と不安に押しつぶされそうな目をしていました。・・・そう・・・あれは俺の母親が亡くなった時のハルカの目と同じだった・・・だから助けないといけないと思った。今では楽しそうにしているのがとても嬉しい・・・」

「・・・・・・」

「・・・ほんとはハルカの結婚式で就職できた事を伝えて安心してお嫁に行って欲しかったんだ・・・でも高卒だとなかなか難しくて就職が間に合わなかった・・・就職活動のために色々勉強したのにできなかった・・・」

「・・・ワタル・・・」

「ハルカは結婚式で俺に自分のために生きてって言ってくれた・・・まさかそんな事を言ってくるなんて・・・俺の心配を返せって感じで・・・」

「・・・・・・うっ」

「でも・・・でも・・・俺は死んでしまった。これから・・・これからハルカは幸せになるのに・・・特大の不幸を与えてしまった・・・うぅ・・・情けないお兄ちゃんだよな・・・ごめんな・・・ごめんな・・・」

 もうボロ泣きしている俺。
 ロードさんが優しく抱きしめる。

「ワタルもういいのよ。十分頑張ったじゃない」
「うぅ・・・あぁ・・・」

 何でこんな事、初対面の人に言ったのか分からない。
 しばらく嗚咽を漏らしているうちに俺の意識は深い所に落ちていく。

「ごめんなさい!ごめんなさい!兄弟二人だけにしてしまった私のせいだわ。ワタル・・・ハルカ・・・お母さんを許して・・・」

 何でこの人は謝っているんだ・・・まどろみの中ロードさんの声が耳に残った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

面白い、続きが気になるという方はいいねや感想を頂ければ嬉しいです♪
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...