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春のススキと白い息1ー7

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アヤの場違いなぽかんとした顔を見て、思わずセイラの頬が緩んだ。
(分からないよね。アヤには、説明したって)
セイラは、自分が説明してもアヤには理解して貰えないと分かっていた。
悲しくは無かった。むしろ嬉しかった。
そしてただ愛おしかった。
セイラの理屈は同じくらいの地獄を見た者にしか分からない理屈だ。
セイラの理屈が分からないのは、アヤにそれだけの経験が無いから、そしてタフな心を持っているから。
好きになった相手に辛い過去が無いのは喜ばしい。
ただ、わかって貰えなくても言葉にしなくてはならない事は有る。だから、さも訳が分からないという表情になってしまったアヤに向かって、セイラはたどたどしくも、一生懸命言葉を紡いだ。
「消えないんだ。記憶は」
そう、言葉にしただけで、セイラの頭の中には一気に六年分の記憶が溢れた。
クラリと、眩暈がした。
揺れたセイラを、アヤが慌てて体を寄せて支えた。
脂汗が一気に吹き出て、ポタポタとセイラの膝に落ちた。
「きっと、一生消えないんだ。
 あいつらにレイプされた恐怖も、嫌悪も、絶望も。
 薬漬けにされて無理やり味あわされた快楽も、暴力の痛みも、魂を踏みにじられた屈辱も惨めさも、薬の味がどんなに不味かったかも、きっと僕が生きている限り何度でも蘇り、僕を襲う」
そう話している間も、セイラはこの六年間の地獄を思い出していた。
どんなに取ろうとしてもはずれない首輪、少しでもはずそうとすると、ダイヤスが察知して激しい暴力を奮われた。
逃亡に失敗した時の絶望、その後の更なる生き地獄。もうすぐ死ねると思った時の歓喜。
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