壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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春のススキと白い息4-2

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最初から期待しないのは、とても楽だった。
そんな感じだったので、大人になってからセイラに親しい友達が居ないのは、当然と言えば当然な事だった。
だから、まさか送別会を開いてもらえるなんて思ってもいなかった。
訝しみつつも、節目を祝ってもらえるなんて初めての事だったので、嬉しくて、浮かれて飲みすぎてベロベロに酔っぱらって、その夜の事は正直本当にあまり覚えていない。
飲みすぎたセイラはその送別会で残った刺身と生肉等つまみを合わせて一抱えも持って、柄にも無く酒瓶をラッパ飲みしながら今日が最後だから、なんて変な哀愁に駆られて例の山にフラフラと一人挨拶に行ったのだった。
居もしない山の王に、幼少期の孤独を慰めてくれたお礼に、ただの一人あそびだった。
「まじょがぁ~かかとぉをぉ~」
誰も聞いていないのを良い事に、唯一つソラで歌えるわらべ歌を鼻歌で歌いながら、それはもう見事な千鳥足で、歩き慣れた道を歩いた。
言っておくが、この歌はご機嫌な時にこんな鼻歌で歌うような歌ではない。
その日はとても大きな満月で、町灯りが届かなくなっても魔法で灯りを灯さなくても、獣道までよく見えた。
セイラは昔から月明りが好きだった。
特に満月の夜は良い、極彩色の昼間の景色から、絶妙な匙加減で全ての色を奪って世界をグレーと暗黒に染め上げる。
こんなにくっきり全てが見えるのに、色彩だけ無くなるなんて、なんて不思議なんだろうか。
ご機嫌なセイラはそう心の中で月を讃えながら、酒をラッパ飲みしつつ山深くに足を進めた。
もう少し歩けば、セイラ御用達の清水の湧き所があるはずだ。
喉が渇いていたのだ。
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