壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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春のススキと白い息4-3

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当然だ、送別会がお開きになってから、手に持っているお酒と摘まみしか口にしていない。
「さいごの命の水を一飲み~なんつってなぁ。あははは何か遠いなぁ、へんねぇ。道は合ってるのに」
あちこちで山菜が採れる様になったとは云え、まだ、水分を摂取できる生で食べられる山菜は生えていなかった。
セイラは絵に描いた様な見事な千鳥足だったが、そこは歩きなれた道、多少いつもよりも時間はかかったが、程なくして湧水が有る所へと続く蔦のお生い茂った脇道に差し掛かった。
「開けー!しゃばとサバトのとびりびゃーあはははははは!ごーかーいちょー、なんちゃってーあはははは」
勢い良くカーテンを開ける様にバサーっと雑にお生い茂った蔦を掻き分けて、セイラは迷うこと無く湧水へと向かっていった。
それを、影でそっとオロオロと心配そうに見守りながら、ずっと着いてきている一匹の四つ足の影があった。
去年の夏に生まれたばかりの、年若い狼だった。
(危なっかしい。二本足なんかで歩いてフラフラと、今にも転びそうじゃないか!大丈夫なのか?!あの人間は!)
自分だって逃げて来た事実を忘れて、ハラハラしながら影に紛れて見守っていた。
この森では、何故か昔から人間は絶対的な保護対象だった。
山の王になる者の条件に『人間と契りを一回以上交わした事が有る者』なんて条件が有るくらいだから、相当なものだ。
『契り』と言っても必ずしもそういった深い行為の事を限定して言っているのではなく、明日の約束位のささいな約束事でも良い。大体の山の王はそんなモノだったと聞いている。
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