壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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春のススキと白い息4ー4

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そして、そんな人間達の中でも、確かこの人間は選り分け当代の山の王のお気に入りの人間だった筈だ。
群のボスがそう説明しながら最初に教えてくれたのが、この人間の匂いだった。
絶対に危害を加えるな、と、強く言われた。
他の人間達と違って、この人間は頻繁に山に来た。
大概フラフラと山の中を徘徊して、夕刻になると帰って行く。
だからこの当たり一帯、ありとあらゆる所にこの人間の匂いはいつもあった。
マーキングをするわけでもないのに、何をそんなに、と、狼にしてみれば不思議な行為だったが、たまに入山してくる人間達も似たようなモノなので、人間とはそういう物なのだろう、と、成長するにつれて思う事にした。
時折山菜を採っているだけまだ分かる。
他の狼達は何とも思わないらしいのだが、この人間の匂いは、狼には酷くいい匂いに思えた。
腹の辺りがソワソワして、もっと嗅ぎたくなる。腹が満腹の時でも、妙に口のなかが湿った。
最近では、狼が匂い匂い気がつく前に先に体が反応する事も増えた。
その位、好ましい匂いだった。
この人間が山に入ってくれば、真っ先に気がついた。
だから、今夜も直ぐに気がついた。
というか、多分、今夜が一番早く気がついた。
何せあの有り様なのだから、今夜の人間は、何時もの様子と打って変わって物凄い賑やかだった。
「ふふん!湧水発見!あー喉乾いた!くらくらする」
深酒した挙げ句山道を歩けばそりゃぁ目眩もするってものだ。
湧水の周辺は、綺麗に整備されていた。
セイラが長年かけて整備した。


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