壊れた玩具と伝説の狼

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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春のススキと白い息4ー5

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岩の隙間から唯溢れ出て地に降り注いでいるだけだったこの場所に、小さな頃からコツコツ石を積み上げて、頑丈な受け皿を作って、落ちた水も脇の岩肌に逃がした。
皿に溜まっているのは常に綺麗な水だけだ。
「いただきまっす」
セイラはご機嫌で湧水の小さな滝に頭を突っ込んだ。
あっと云うまにセイラはびしょ濡れになった。
狼は思わず声を上げてしまった。
「ヴォフッ」
『バカ!まだ息も白いこの夜に!風をひくぞ!』
「うぁ?だれ?」
酔っぱらって感覚のおかしくなっているセイラは、水の滴る体をそのままに、振り返った。
振り向いたその先には、一匹のまだ成長途中の若い狼。
「ヲヴ・・・」
『しまった・・・』
山の全ての動物達は、基本的に、人間に姿を見せないように、と言われていた。
月明かりの下で二人はバッチリと目が合った。
合ってしまった。
狼は非常に困っていた。
人間達の町では、この山に狼は居ない事になっている。
もしこの人間が、町に降りて山で狼を見た事をふれまわったら、大変な騒ぎになるだろう。
狼狩りが始まりでもしたら、群のボスにバレて自分は仲間中からどんな目に合わされるか知れた物ではない。
唯でさえ最近群の雌達が自分を交尾に誘い出して、雄の狼達からの心証が悪くなっているのだ。
恐らく袋叩き決定だろう、先の暗い未來を予測して、うずくまりそうになったその時に、セイラは狼を指差して口を開いた。
「ワンコだー!どこのこー?!」
狼は、誇り高い狼は、この酔っ払い人間の勘違いに空かさず乗った。
「ワン!」
「カワイー!なつっこいねー」
「クイーン」
生き残る為には、臨機応変さはとても大事なのだ。
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