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「という訳で、これからカンテ港の運営に不正がないか調べなきゃいけないんだ。今日準備して明日現地に向かいたいんだけど……。」

「アモル様、ご状況はよく分かりました。お見せしたいものがございますので、しばらくお待ちいただけますか?」

ヴァーノ君の疑念について話すと、ハルはそう言って部屋を出て行った。
しばらくして結構な量の資料を両手に持って戻ってくる。

「これは何?」

「カンテ港の総督による横領と不正帳簿操作、王弟派の商会への横流しの実態を纏めた資料と証拠です。」

「…………は?」

「先日王太子様がカンテ港にお越しになった際こちらにお立ち寄りだったのでおもてなし致しました。それで、アモル様のお役に立つかと思いカンテ港について調べておりました。」

そんな事ある!?
半信半疑で机に出された帳簿の複写や担当官の書簡をざっと見る。
確かに、どうやらそんな資料みたいだ。

「これって、事実を調べたものだよね?」

「無論でございます。もちろん、アモル様がご納得いくまで検証頂いて構いません。その間お世話いたしますのでごゆるりとお過ごし下さい。」

いや、ゆるまれないでしょ。ハルを疑う訳じゃないけど、確かにこのままただこの資料を持って帰るわけにもいかない。中身を精査する必要がある。

「ありがとう。急いで目を通すから、分からないところがあったら教えて。」

「はい。終わるまでお側におりますのでいつでもお声がけください。」

それから書斎に移動して、ハルが用意した資料に目を通した。
不正自体はかなり複雑で巧妙な隠蔽工作の上で徴収した関税や荷揚げした輸入品が消えていたけど、資料は分かりやすくて読んだだけで全容がわかるように纏められており、質問をする必要も無かった。

これが捏造なしの事実なら、もちろんハルが嘘の書類を作るはずないけど、どうやったらハルの立場でここまで完璧な調査が出来たのか全く見当がつかない。

「ハル、凄いね。今できる調査ではほぼ完璧だと思う。」

「恐れ入ります。」

「僕は、ハルを信じるよ。だからこの調査が事実だって前提で話すね。この、国庫に納めるはずの小麦がカンテ港に荷揚げされた後、総督が所有している商会の下部商会に流れて、さらに別系列の商会に販売される時、両商会の売上の帳簿と仕入れの帳簿に乖離がある。
ここでおそらく総督の傘下の商会が荷物を横領してる。そして、出所不明の小麦が総督の商会からまたいくつかの商会を経由して王弟の直轄領に送られている。だよね?」

「左様でございます。」

小麦以外の物資も経過は似たり寄ったり。
写本とは言えよくここまで内部の帳簿を入手出来たもんだ。
王国の財務部は系列の総元締めの商会しか監査対象としていなくて、傘下の下部商会は元締めの商会が責任を持つことになってる。だから逆に、元締めが協力して末端で操作されたら不正は露見しにくい。けどまさか王子派の諸侯の傘下商会が不正を行なってるなんて。

カンテ港の総督は王子派だけどどちらかといえば王弟派に対しては宥和的だから、こっそり横領したものを裏で王弟派に流していてもおかしくないけど……

「あのさ、この荷物を買い取ってる方の商会も横領に協力してるんだよね?」

「購入商会の発行した荷受証を証拠として入手出来ています。実際の購入量を記載した有高帳より明らかに多い数量が記載されていますが、代表者のサインがあります。末端商会の代表者のサインした発行物は、総元締めの商会が定期的に精査する規則をどの商会も定めているでしょう。知らないはずありません。」

「信じられないな……」

総督だけなら、日頃の言動から疑いの目を向ける王子派貴族も少なくないから処罰もしやすいだろう。
けど、総督傘下の商会が荷物を販売した先はガスゴルグ公爵家の傘下商会だ。

ガスゴルグ公爵家は、王家の姫も嫁ぐくらいの有力貴族でうちに負けないくらいのヴァーノ君支持者で知られている。
そんな公爵が、ヴァーノ君を裏切るか?

「信じられなくとも致し方ありません。」

「いや、ハルの調査は信じてるよ。ただ、ガスゴルグ公爵がこんな事するなんて。」

これが露見すれば王子派の諸侯に相当な動揺が走るだろう。許しても、厳罰を与えてもその影響は大きい。

「ガスゴルグ公は、今の総督が就任するのを後押ししたと聞いております。」

「それは、思想に関わらず総督の能力が十分あるからそうしたとガスゴルグ公は言っていた。実際、横領していても就任してからカンテ港から国が得る収入は増えてるし。」

けど、もし別の意図があったら?
……信じたくない。ガスゴルグ家とザーハルツ家は王家の両翼として親交も深いし、僕もガスゴルグ公には小さい頃から可愛がって貰った。

「このままだとザーハルツ家が盟友であるガスゴルグ家を糾弾することになるのか……。」

ガスゴルグ公を説得して不正をやめさせられないだろうか。
公爵が改心すれば、ヴァーノ君にとっても良いことかもしれない。

「アモル様、もしヴァーノ殿下が不正をしたものに手心を加えるつもりであったら、事前告知の上で特別検査を行うはずです。これだけの横領は現場の証書を調べればごまかせるものではありませんが、少なくとも末端の者を摘発するだけで済むように準備はできますから。」

僕の考えを読んだように、ハルがはっきりした口調で言った。

「しかし、ヴァーノ殿下はあなたに極秘調査を命じました。つまり、もし不正があれば誰であれ許すつもりはないということでは?」

「そんなの、分からないじゃん。」

「左様でございますね。私ならそうするという戯言だとお聞き流しください。」

「……。とにかく、明日カンテ港に行くよ。この関与してる商会に適当な理由で訪問する手配できる?」

「かしこまりました。」

それからまた時間を掛けて資料を読み直して、どうしたものかと僕は頭を悩ませた。
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