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カンテの港町に入ると、ほんのり潮の香りを感じた。
古くから交易で栄えた街だけど、潮風が外壁を風化させるので街並みはレンガ本来の色を活かした赤茶色の建築が立ち並ぶ控えめな趣だ。
「約束の時間まで少しあるから、海が見たいな。」
馬車の小窓から入り込む外の空気を吸い込んで言う。
流石に今日は領地外に出るということで、ハルも渋々一緒に馬車に乗ってくれた。
「畏まりました。」
向かいに座ったハルが、背後にある小窓から御者に向かって指示を出す。
しばらくして港につき、馬車から降り立った。
長い海岸線にいくつも大きな波止場が突き出し、立派なキャラック船や軽快なキャラベル船がひしめいている。沢山の逞しい船乗りが、小舟や荷車を自在に使って忙しなく荷運びをしていた。
「わあ……」
初めて見る巨大な港に眼を見張る。
トーリアの港なら子供の時に見に行ったけど、その何倍かの規模だ。
「少し歩かれるなら、船乗りは粗野な者も多いので私から離れないでくださいませ。」
ハルがスッと僕の背後に立った。
「あ、うん。」
言われてぐっと気を引き締める。
男たちの通行の邪魔をしないよう、道の端の方をそろそろ歩いた。
「あの船は他と違う形だね。」
波止場の一つに、見慣れない船が停泊している。
「珍しいですね。あれは晃(コウ)のジャンク船です。」
「あれがそうなんだね。父さまは東洋の美人画を集めるのが趣味なんだ。」
「では、侯爵のコレクションが増えますね。」
「ふふ、そうだね。せっかく商会に行くし、僕も何か探してみようかな。」
「アモル様も、美人画をご所望で?」
「うーん、どうしようかな。そう言えば、ハルって美人画の東洋のお姫様に似てるよね。」
綺麗な黒い髪と瞳、象牙の肌、繊細な雰囲気なんかがそっくりだってずっと思ってた。
「バレましたか。実は私、東洋のお姫様の子孫なのですよ。」
「ええ!?本当?」
「はい。200年前晃朝初代皇帝の末娘リー姫が、国交のため沢山の宝物を持って海を渡り当時この辺りを所有していた大公に嫁ぎました。しかし大公は亡くなり、未亡人となった姫が恋に落ちたのが当時ベルガ家3代目当主でした。一族は姫様の名を取ってリー・ベルガとなり今に続いているわけです。」
「よくハルのご先祖様は元大公夫人と結婚出来たね。」
「ええ……。そんな高貴な方と、奇跡ですよね。心底羨ましい。」
その言葉にドキッとした。
「ハルは、高貴な人と結婚したいの?」
「はい。」
そ、そうか。ハルも結婚とか考えるんだ。当たり前か。男爵なんだから後継がいるよね。ハルの歳ならいつ結婚してもおかしくない。
ダメだ。ハルが結婚するって思うと胸が痛くなる。
「そうなんだ。ハルくらいに優秀ならきっと素敵な人が見つかるよ!ど、ど、どんな子が良いとかあるの?」
聞かなきゃいいのに、ハルがどんな人が好きなのか気になった。
「代々、当主はリー姫のような黒い髪と瞳に象牙の肌を持つ娘を探して娶ることが多いですね。」
全然僕と違うや……。
「へぇ………」
「しかし私は、栗色の髪で灰と緑が混じった瞳の方がいいです。」
「何だ。そんなのどこにだっているじゃん。僕だってそうだよ。」
ハル、僕の髪色と瞳が好きなんだ。この国じゃ珍しくもない地味な見た目だけど、嬉しいな。
「いえ、たった一人しかおりません。」
ハルが潮風に揺れる僕の前髪をサラリと流した。たった一つの綺麗な瞳が僕をじっと見つめてくる。
「ハル?」
「アモル様、私は……」
「おい、あんたら邪魔だよ。どきな。」
道の端ギリギリまで避けないとぶつかりそうなほどの荷物を台車に乗せた船乗りが後ろから声を掛けてきた。
ハルが僕を庇うように肩を抱いて場所を開けると、ゴトゴト音を立てながら台車が通り過ぎていく。
「ありがとうハル。何か言おうとしてた?」
「いえ、何でもございません。そろそろ行きましょう。」
ハルに促されて馬車に戻り、僕たちはガスゴルク傘下の商会に向かった。
古くから交易で栄えた街だけど、潮風が外壁を風化させるので街並みはレンガ本来の色を活かした赤茶色の建築が立ち並ぶ控えめな趣だ。
「約束の時間まで少しあるから、海が見たいな。」
馬車の小窓から入り込む外の空気を吸い込んで言う。
流石に今日は領地外に出るということで、ハルも渋々一緒に馬車に乗ってくれた。
「畏まりました。」
向かいに座ったハルが、背後にある小窓から御者に向かって指示を出す。
しばらくして港につき、馬車から降り立った。
長い海岸線にいくつも大きな波止場が突き出し、立派なキャラック船や軽快なキャラベル船がひしめいている。沢山の逞しい船乗りが、小舟や荷車を自在に使って忙しなく荷運びをしていた。
「わあ……」
初めて見る巨大な港に眼を見張る。
トーリアの港なら子供の時に見に行ったけど、その何倍かの規模だ。
「少し歩かれるなら、船乗りは粗野な者も多いので私から離れないでくださいませ。」
ハルがスッと僕の背後に立った。
「あ、うん。」
言われてぐっと気を引き締める。
男たちの通行の邪魔をしないよう、道の端の方をそろそろ歩いた。
「あの船は他と違う形だね。」
波止場の一つに、見慣れない船が停泊している。
「珍しいですね。あれは晃(コウ)のジャンク船です。」
「あれがそうなんだね。父さまは東洋の美人画を集めるのが趣味なんだ。」
「では、侯爵のコレクションが増えますね。」
「ふふ、そうだね。せっかく商会に行くし、僕も何か探してみようかな。」
「アモル様も、美人画をご所望で?」
「うーん、どうしようかな。そう言えば、ハルって美人画の東洋のお姫様に似てるよね。」
綺麗な黒い髪と瞳、象牙の肌、繊細な雰囲気なんかがそっくりだってずっと思ってた。
「バレましたか。実は私、東洋のお姫様の子孫なのですよ。」
「ええ!?本当?」
「はい。200年前晃朝初代皇帝の末娘リー姫が、国交のため沢山の宝物を持って海を渡り当時この辺りを所有していた大公に嫁ぎました。しかし大公は亡くなり、未亡人となった姫が恋に落ちたのが当時ベルガ家3代目当主でした。一族は姫様の名を取ってリー・ベルガとなり今に続いているわけです。」
「よくハルのご先祖様は元大公夫人と結婚出来たね。」
「ええ……。そんな高貴な方と、奇跡ですよね。心底羨ましい。」
その言葉にドキッとした。
「ハルは、高貴な人と結婚したいの?」
「はい。」
そ、そうか。ハルも結婚とか考えるんだ。当たり前か。男爵なんだから後継がいるよね。ハルの歳ならいつ結婚してもおかしくない。
ダメだ。ハルが結婚するって思うと胸が痛くなる。
「そうなんだ。ハルくらいに優秀ならきっと素敵な人が見つかるよ!ど、ど、どんな子が良いとかあるの?」
聞かなきゃいいのに、ハルがどんな人が好きなのか気になった。
「代々、当主はリー姫のような黒い髪と瞳に象牙の肌を持つ娘を探して娶ることが多いですね。」
全然僕と違うや……。
「へぇ………」
「しかし私は、栗色の髪で灰と緑が混じった瞳の方がいいです。」
「何だ。そんなのどこにだっているじゃん。僕だってそうだよ。」
ハル、僕の髪色と瞳が好きなんだ。この国じゃ珍しくもない地味な見た目だけど、嬉しいな。
「いえ、たった一人しかおりません。」
ハルが潮風に揺れる僕の前髪をサラリと流した。たった一つの綺麗な瞳が僕をじっと見つめてくる。
「ハル?」
「アモル様、私は……」
「おい、あんたら邪魔だよ。どきな。」
道の端ギリギリまで避けないとぶつかりそうなほどの荷物を台車に乗せた船乗りが後ろから声を掛けてきた。
ハルが僕を庇うように肩を抱いて場所を開けると、ゴトゴト音を立てながら台車が通り過ぎていく。
「ありがとうハル。何か言おうとしてた?」
「いえ、何でもございません。そろそろ行きましょう。」
ハルに促されて馬車に戻り、僕たちはガスゴルク傘下の商会に向かった。
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