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しおりを挟むアカオ自身自分は優秀な妖狐だと知っている。
過去の当主に比べてもけして引けを取らない。
けど、ノー○ル賞にどう勝てと?
そう考えるたびに、アカオは妖狐としての格の違いを突きつけられ惨めになるのだった。
「あーおいしかった。ありがとうなトキノ。」
ノルマのような食事とお世辞をこなして立ち上がる。
「あ、まだ大丈夫でしょ。今日三限なくて四限からだよね。」
トキノが縋るように引き止めて来るのがアカオにはうっとおしい。
けど、舌に乗せるのは親しげな軽口だ。
「もー、僕のこと把握しすぎ。どんだけ好きなんだよ。でも気にしないで。適当に時間潰すから。トキノも研究とか授業とか忙しいだろう?」
頼むからさっさと解放してくれ、がアカオの本音だった。
今すぐカラオケに転がり込んでシャウトでもしたい気分なのに。
「ううん、俺も予定ないから大丈夫。」
こりゃ何か用事あるって嘘ついても付いて来るな、とアカオは苦々しく思った。
こうなったら、なるべく関わらないで済む方法でここで時間を潰すしかない。
そう考えたアカオは、鞄から参考図書を数冊出して枕がわりに頭を乗せ、レジャーシートに寝っ転がった。
「じゃ、お昼寝しちゃおっかな。トキノもすれば?気持ちいいよ。」
アカオが言えば、弁当箱を片付けてスペースを空けた所にトキノが移動してきた。
そのまま横に寝転ぶかと思いきや、アカオの横に座り屈みこんでくる。
耳の下あたりをトキノの柔らかい唇で啄ばまれた。
それを思わず首を振って振り払う。
「こら、人がいる所でグルーミングすんなって。変に思われるだろ。」
「追い払ったから誰もいないよ。」
まさかと思ってアカオが見回せば、普段昼寝やフットサルの場として人が絶えないグラウンドと周りの芝生エリアには人っ子一人居なかった。
いつの間に術を使ってたのか。
しかもこんなに広範囲に。
自分にはきっと出来ない芸当に、またチクリと惨めさが刺激される。
「トキノは凄いね、本当。」
何度もしてきたように悔しい気持ちを押し殺して笑いかければ、またトキノの顔が近づいてきた。
もうアカオには止める理由もないので好きにさせる。
被毛の代わりに皮膚を啄む妖狐同士のグルーミングは、人に化けてもそれなりに狐の生理が残る体にはすごく心地よい。
特に器用なトキノのグルーミングは極楽だった。
こいつに出来ないことはないのか、とアカオにはそれすら僻みの種になる。
「何でも出来ちゃうけど、研究とか、ちゃんと努力もしてて偉いよね。」
アカオは、悔しくてたまらない時ほどトキノを褒める癖があった。
そうして誰にともなく、自分は劣ってることを気にしてませんよ。ちゃんと認めてますよ。と誇示しているのだ。
「それは……その方が考えなくて済むから。」
トキノがグルーミングの間にポツポツと答える。
「何を?」
「好きな人のこと。」
アカオには初耳だった。トキノに、好きな人。
言い方からしてまだ片想いだろう。しかも望み薄だと本人は思っている。
トキノほどの雄が。
「へぇ、どの牝狐?」
教えてくれたら、自分もその子に手を出してみようか。などと取り留めもなく考える。
「……牝狐じゃ、ない。」
それを聞いたアカオは目を見開いた。
つまり、人間の女か。
そう思い至って胸が弾みだす。
長年人に紛れて生きていれば、妖狐が人と添い遂げる例はいくつもあった。
けど、人を選んだ妖狐は一族から追放される。
妖狐一族について人に話せば心臓が止まる呪いと共に。
トキノが人間とくっつけば、当主は絶対俺じゃんか。
瞬時に頭のそろばんが弾き出す。
「どんな相手でも、トキノが選んだ人なら僕は絶対応援するよ。」
殊更に優しい口調で話す。
その女と、さっさとどっかに行ってくれ。
「……その言葉、忘れないでね。」
「もちろん。」
安堵とグルーミングの気持ち良さに早々に負けたアカオは直後に寝入ってしまい、トキノはそのアカオの顔や首筋、鎖骨をいつまでも美味しそうに啄ばみ続けるのだった。
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