【R18/完結】新卒社員、エリート若様の寵愛でどんどんお部屋が快適に

ナイトウ

文字の大きさ
4 / 25

4,

しおりを挟む


食べ終わっても暫く先輩とお話しして、会社に戻ったのはギリギリの時間だった。

「キョ……芦野(あしの)。」

一回のエントランスで先輩が誰かに気付いた。
カードリーダーの脇に、2人分の荷物を持った男性がいて、こちらを見るなり近づいてくる。

「篠明さん、客先周りのセットです。待たせてあるんで、このまま車乗ってください。」

花邑さんほどじゃないけどすらっとした人だ。綺麗系のイケメンだけどちょっと冷たい感じ。この人も営業の先輩か。
花邑さんの営業アシスタントの人なんだろう。
うちは売上上位の社員には専用のサポート職が着くって聞いたことある。

「ああ、時間ぴったりだ。ありがとう。」

「あっ、あの、すみません遅くなっちゃって……」

会話から事態を飲み込んで青ざめる。
予定ないって言ってたのにあるじゃん!

「いや、遅れてないし大丈夫。ユウ君との食事より優先する予定なんてないしね。」

先輩がにっこり笑う。

「……。」

芦野さんがびっくりした様子で僕を見ている。
うん、僕も今の発言はちょっとびっくりした。

「篠明さんこの人と昼ごはん食べてたんですか?」

え、そこから?

「竹迫君だ。いつものところに一緒に行った。」

自慢げに言う先輩に芦野さんがますます目を丸くする。

「はじめまして。新入社員の竹迫祐宇(ゆう)です。経理課配属になりました。芦野さんですね。よろしくお願いします。」

「ああ、こちらこそよろしく。営業一課の芦野恭(きょう)です。じゃあ次は3人でどこか……」

「だめだめ。キョウはお邪魔虫だから。じゃあユウ君、また連絡する。アプリの方。」

うちはスマホ支給だから社内メールでもやり取りできるけど、先輩に聞かれてプライベートの連絡先を交換したのだ。昼の間に。そっちのことを言ったんだろう。

「あ、はい。花邑さん外回りお気をつけて。」

「ありがとう!」

先輩の渾身の営業スマイルに、エントランスにいた何人かが振り返った。
芦野さんは何故か幽霊でも見るような顔をしていた。

戻ったら決算間際だから今は結構部署全体がバタバタしていて、新人であまりできることがない僕もなんだかんだ雑用が立て込んでいた。

「竹迫君。」

やっと一息ついた頃、聞き覚えのある声に呼ばれてそちらを見る。
営業一課に一般職で入った同期の安西さんだった。

「これ、出張費申請の証憑。」

そう言って飛行機の半券やタクシーの領収書が貼られた申請用紙をくれる。

「ありがとう。受け付けとく。」

愛嬌のある笑顔に釣られて少し微笑みながら受け取った。
うちの会社の一般職は、この令和の時代にいまだに顔採用かってくらい容姿のレベルが高いと言われている。
彼女はSNSでもすごく目立っていてフォロワーが他の同期より断然多い。
まさかもう男性社員のお嫁さん候補として採用とかは無いと思うけど。

「ねね、今日の昼竹迫君が花邑さんといたって聞いたんだけど!?」

いつもは顔を合わせても大した会話もなく終わるところが、今日は安西さんから話しかけてきた。
そういえば、彼女はよく先輩の話題を出す同期の1人だ。配属が決まった時も、そりゃもう女子勢がグループメッセージで騒いでいた。

「あ、うん、ランチ行って……」

「知り合いなの!?」

「知り合いっていうか、ちょっとご縁があって。」

昨日のことは言わないでおこう。理由はともかく酔っ払って道で行き倒れてたなんて今考えれば先輩のイメージが悪すぎる。
不用意に同期に写真回さなくてよかった。

「いいなー!花邑さんお昼の時どんな感じ?何話すの?」

完璧なメイクとヘアセットをした女の子が、少し子供っぽく握った両手を振りながら羨ましがってくる。

「自分も誘って行ってくれば?同じ課なんだし……」

言いながら、ちょっともやっとした。
何だこれ、理不尽。

「無理なの!もう暗黙の不可侵協定が女子社員の間で結ばれてるから!」

ビシッと手のひらを見せて僕の発言を嗜めてくる。
なんだそれ……抜け駆けすんなってこと?女の人怖い……。

「竹迫君は男だから関係ないと思うかもしれないけどね、そんな事ないよ!」

「どういう意味?」

ちょっと内心ドキリとする。

「これまで何人か男性社員も花邑沼に嵌って狂って辞めてるからね!」

「何だそれ……」

と言いながらも、ちょっと分かるような。

「だから、営業一課の花邑さんとまともに絡んでいいのはアシスタントの芦野さんくらいなのよ。」

ピンとジェルでピカピカ光る人差し指を伸ばして左右に振る安西さん。
こんな熱い語りする子だったか?
それか彼女も花邑沼とやらに?

「ああ、芦野さんってやっぱり花邑さんのアシスタントなんだ。」

「芦野さんも一緒だったの?」

「あ、ううん、午後外勤だったみたいでエントランスで花邑さんを待ち構えてて、そこで見た。」

「流石シゴデキ従者!」

安西さんがキャッキャと嬉しそうに言う。

「従者?」

「そう!花邑さんは元大名の花邑家次期当主で、芦野さんはその代々の家老の家なんだよ。だからわざわざ芦野さんは花邑さん追いかけてこの会社に転職したの。若様を公私共に支えるためにっ!」

安西さんが力説する。
そんな語られても、はえー。今令和だよな?としか思えない。

「尊いが過ぎる。藩の民草として生まれたかった……。何で幕府滅びたの?」

よく分からないことをブツブツ言ってる。安西さんって、SNSではキラキラしてるのにちょっと変な子なんだな。
結局安西さんが帰ったのは散々僕から先輩の昼の様子を聞き出した後だった。
仕事しろ。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

処理中です...