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27, 【番外】憧れの天使
しおりを挟むユジンが学園都市で名高いボロゾア公国の大学で神学の博士号を取得したのは十一の時だった。
7歳で学びを始め11歳での博士課程修了は期間としても年齢としても歴代最速である。
本来博士試験の受験資格には成人している事が含まれるので特例での授与には本人の家柄も多いに関係していたが、そもそもそのような必要性を産んだのはユジンの規格外の頭脳に他ならない。
そんなユジンでも、博士取得後の進路については不確実要素が多々ある懸案事項であった。
大学の教授、老舗教会の幹部、領主の政策顧問、大商家の婿候補、そんな誘いが書かれた書簡が積み上がるほど届くがどれも全くそそられない。
どこに行っても自分より頭が悪い大人を相手にしなきゃいけないし、そうすると何人かは理不尽な嫉妬を向けてくるのだ。
力で来られたら十一のユジンには正直敵わないために、そうした輩も適当にあしらって来たが鬱陶しいのは変わりない。
どれかを選べば先々の自分の利益が大きい事は理解できるが、手に入るものを最大化させたい理由も意欲も今のユジンには特に無かった。
母親の元に帰ろうか、と思う。元々出せば20年は帰って来られないからと厄介払いで家令に学校に放り込まれたのだから戻っても歓迎はされない。でも今行けるところの中では虚な目をした母を遠目に眺めている事が1番マシに思えた。
母親のヴィオレタは北部フルドールに根ざす男爵家の出身でユジンを十四で孕んでからずっと壊れている。
それでも未婚でユジンを産み、それを連れて別の高位貴族に嫁げたのは全てユジンの父親の存在ゆえだった。
ユジンの父親は表だっては現教皇ルパルド1世の世俗にいる弟という事になっている。その実教皇本人がヴィオレタを孕ませたことを皆が知らない振りをしていた。別にそんなことはこれまで掃いて捨てるほどあったことだから。
ユジンも当然状況は理解している。ユジンが掴まり立ちを始めた頃、何も分からないだろうと躾のなっていないメイドが彼の横でする話を全部ユジンは聞いていた。
そして、当時四十半ばの教皇と十四の母がユジンを作り出した課程がおそらく甚だ健全でない事や自分の育った環境が家庭としては最悪レベルである事などはこの大学都市に来て愚かな学生たちを見る中で理解した。
月半ばになると実家に追加の仕送りの無心をする馬鹿な同級生の顔にはいつだって家族への信頼と安心が滲んでいる。
やっぱり実家に帰ろう。母親はユジンが近づくと喚き出してしまうからまともに話した事はないが、機嫌がいいときを遠目で眺めている分には多少は楽しい。
これまで調べた限り母の壊れた心は治りそうもないが、この先何かが見つからないとも限らない。
そんな風に意思を固めだした頃、一通の封書が届いた。
【親愛なるユジン・デザニュエル君へ。
君も退魔師になって大活躍しよう!
退魔師になれば、子供には大人気、女性にはモッテモテ!
初心者歓迎。三食賄い付き。
やりがいのあるアットホームな職場です。
面白いですよ。
お返事待ってます。
シャルドーレ サンミシェール教会
司祭(元敏腕退魔師)
アリアス・デュポム】
取り合う価値もない馬鹿馬鹿しい手紙の、その最後に綴られた差出人だけを理由にユジンは次の行き先を決めた。
ボロゾア公国からシャルドーレに辿り着くまでに馬で2週間、壁外にワイン畑が広がる城塞都市はボロゾアほど発展してはいないが不便はなさそうだった。
レンガの建物がぎゅうぎゅうに敷き詰められた路地の一角に目的の小さな教会を見つける。
扉を入るとすぐ礼拝堂だった。
何人かの年寄りが祈りを捧げる先、祭壇の横に司祭の身なりをしている人物がいた。
司祭が真面目に信徒を見守っているのは珍しい。
大概奥の居住スペースで過ごしているものなのに。
近づけば、直ぐに異変に気付いた。
首がこっくりこっくりしている。
「…………もし、アリアス司祭でいらっしゃいますか?」
信徒に見えないようつま先でさりげなく足を蹴って衝撃を送り、強めの発音で声をかける。
「ふわっ……あぁ、いらっしゃい。外で鬼ごっこでもしますか?」
薄茶色の髪を長く伸ばした女のような男がこちらを見る。顔の右下半分の痣はユジンが調べた情報通り。右半身も不自由なはずだが、よくこの小さなスツールで居眠りをこけたものだ。
しかもどうやら寝ぼけて自分を遊びに来た街の子供に間違えているようだ、とユジンは察した。
「今日からここで助祭として勤めます、ユジン・デザニュエルです。不束者ですがご指導ご鞭撻のほどお願いいたします。」
そう名乗れば、アリアスは慌ててユジンを教会の奥の執務スペースに案内した。
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