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第2章 入学前編

7 暖炉前

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外はもう豪雨と呼べるほどで、暴風の音は石造りの室内でも窓を震わせて遠慮なく入って来た。まだ夕方なのにランプをつけても薄暗い。
思いがけない寒さに着替えた後急遽暖炉に火を入れその前で2人、椅子に座って暖をとる。

赤くゆれる優しい炎の光が、雨で冷えた体を徐々に温めていった。

「具合が悪くなったりしていないですか?」

「平気だぞ。ルコはまだ髪が濡れてる。風邪引くなよ。」

二の次だった自分の方を指摘されて、肩にかけた布巾でまだ水が滲む髪を拭いた。

「あまり材料を集められませんでしたね。」

「まあ、明日もあるし別にいいだろ。」

「明日は晴れると良いのですが。やはりこの時期少し天気が不安定でございましたね。」

ノスニキが、採集した材料が詰まった麻袋の匂いをスンスン嗅いで前足で袋を引っ掻く。

「袋の中を広げて乾かしましょうか。」

集めた植物も水濡れだろうから、このままだと痛みそうだ。

「後でいいだろ。今は暖かくしてなよ。」

言われて浮かせかけた腰をまた肘掛け椅子に戻す。
しばらくじっとしてみるけど何もすることのない状況は少し落ち着かない。

ユーリスの後ろで控えてることなんてたくさんあるけど、こうして横に並んで過ごすのは初めてだ。

俺たちの椅子の間にはいつのまにかノスニキが丸くうずくまってくつろいでいた。

「……坊っちゃま、ひとつお伺いしてよろしいでしょうか。」

「何?」

「秋から学園の寮に入られますが、ひとりでの生活にご不安はありませんか?」

「んー。まあ、大丈夫じゃないか?学園が雇ったメイドやフットマンがゴロゴロしてるらしいし。」

「そうですか。」

「僕はルコを連れて行きたいけど、学園の方針で従者は連れていけないからな。」

「はい。」

「休日や長期休暇は帰ってくるからその時は僕の世話をちゃんとするんだぞ。」

「……。」

どう返したらいいか分からない。
退職を考えていることを言わなくてはいけないと分かっているのに、全く言葉が出てこなかった。

「ルコ?」

宝石のような黄緑の瞳がこちらを見る。
暖炉の火が顔を照らして、長いまつ毛の影を作っていた。

「すみません。少々疲れたようです。」

「そう。」

まだ感じる視線に罪悪を覚えて、逃げるように目を閉じる。
ふぅ、と詰まった息を吐き出すと、ずっしり体が重くなる感覚がした。
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