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第2章 入学前編
12 進化
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最後にぐんっと体を前に突き出されて、手先に感じた硬い感触に夢中ですがりついた。
目の前の岩にかじりついて力の限り腕に力を込めて体を引き上げると、水しぶきをあげながら頭が水面に出て口を開けば酸素が入ってくる。
「ごほっ……っ……ユーリスッ」
後ろにいるはずの体も引き上げようとすぐに振り向いた。
けど、
そこには誰もいなかった。
轟々と流れる濁流があるだけ。
どういうことなのかすぐにわからなくてあたまがこんらんする。
「うそ……、ユーリスっ……」
ユーリスを探すために濁流に入ろうとしたのに、横から腕を掴まれて邪魔された。
「はなせっ!」
「無理だ。」
公爵の低い声が重く響く。
「やだ……、はなせ!……ユーリスがっ!!」
目一杯振りほどこうとしても、公爵の手が痛いくらいに掴んできて全然振り解けない。
「やだ……やだ!!なんでっ!こんな……やだぁ!!!」
なんでいないの
だって
酷いこと言って
まだ謝ってもいない
俺のせいだ
俺の、
「やだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」
とぷんっ
ぼやけた視界の中、目の前の流れに小さなグレーの体が飛び込むのが見えた。
そのしばらく後、川下の方でドンと音がして大きな水柱が上がる。
その先端から、1匹の巨大な黒銀色の狼が現れた。
狼が空中で後ろ足を優雅にひと蹴りすると、ふわりと体が進んでこちらに向かってくる。
雨がにわかに弱まって、しなやかな獣の後ろから陽の光が差し込んだ。
アッシュタールの2倍はある体が川辺に降り立ち、体をかがめて背中に乗せたものをゴロンと転がした。
「っ……ユーリス!!!」
公爵が横たわるユーリスの体に駆け寄る。俺も川から這い上がろうともがいた。
そこに狼の顔が近づいて大きな口で俺のシャツの首元を咥えて引き上げる。
足が地面についた所で、狼の瞳から放たれた青白い光に包まれたかと思うと体についた擦り傷が消えていった。
そんなこと気にしてる場合じゃなくて、ユーリスめがけて転がるように走る。
父親に抱えられた体を覗き込むように跪いた。見れば意識はないけれど、顔色もいいし怪我もしてない。
「い、息は……?」
「してる。」
公爵に言われて安堵ではぁ、と息を吐き出した。
見つめていると、ぴくりと形の良い眉根が動く。
「う、ん……」
少し呻いて、濡れて束になったまつげが縁取るまぶたががうっすら開いた。
チタナイトの瞳が奥から現れる。
「ユーリス!」
「る、こ……?ルコ!」
飛び起きた勢いのまま抱きつかれて、自分からも強く抱きしめ返した。
触れたところからユーリスの鼓動が伝わってくる。
その安心感と嬉しさで視界がぼやけた。
「ユーリス。あれを見なさい。お前を助けてくれた。」
公爵がこちらを見守るように佇む銀の狼を指して静かに言う。
「……ノス?」
知的な眼差しをこちらに送っている美しい獣は目を細めて、
くかかっ
とあくびをした。
「ノス!」
ユーリスが立ち上がってとんでもない進化を遂げたノスニキに駆け寄る。
ユーリスに手を繋がれて俺も後についていった。
「すごい……何これ?」
何倍にもなった鼻面を撫でながらユーリスが言う。
「多分、フェンリルだな。信じ難いが……」
公爵がまじまじとノスニキを眺めた。
「ノスガルデルタ様、本当にありがとうございます。」
大きな顔に抱きついて感謝を伝える。
小さい時のように顔を擦るように撫でると目を細めてしゅっと鼻息を吐いた。
言葉だけじゃ足りなくて、まだ濡れた鼻筋に何度もキスをする。
「……ふん。今日のところは譲ってやる」
命の恩人に、ユーリスが偉そうによくわからないことを呟いた。
目の前の岩にかじりついて力の限り腕に力を込めて体を引き上げると、水しぶきをあげながら頭が水面に出て口を開けば酸素が入ってくる。
「ごほっ……っ……ユーリスッ」
後ろにいるはずの体も引き上げようとすぐに振り向いた。
けど、
そこには誰もいなかった。
轟々と流れる濁流があるだけ。
どういうことなのかすぐにわからなくてあたまがこんらんする。
「うそ……、ユーリスっ……」
ユーリスを探すために濁流に入ろうとしたのに、横から腕を掴まれて邪魔された。
「はなせっ!」
「無理だ。」
公爵の低い声が重く響く。
「やだ……、はなせ!……ユーリスがっ!!」
目一杯振りほどこうとしても、公爵の手が痛いくらいに掴んできて全然振り解けない。
「やだ……やだ!!なんでっ!こんな……やだぁ!!!」
なんでいないの
だって
酷いこと言って
まだ謝ってもいない
俺のせいだ
俺の、
「やだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!!」
とぷんっ
ぼやけた視界の中、目の前の流れに小さなグレーの体が飛び込むのが見えた。
そのしばらく後、川下の方でドンと音がして大きな水柱が上がる。
その先端から、1匹の巨大な黒銀色の狼が現れた。
狼が空中で後ろ足を優雅にひと蹴りすると、ふわりと体が進んでこちらに向かってくる。
雨がにわかに弱まって、しなやかな獣の後ろから陽の光が差し込んだ。
アッシュタールの2倍はある体が川辺に降り立ち、体をかがめて背中に乗せたものをゴロンと転がした。
「っ……ユーリス!!!」
公爵が横たわるユーリスの体に駆け寄る。俺も川から這い上がろうともがいた。
そこに狼の顔が近づいて大きな口で俺のシャツの首元を咥えて引き上げる。
足が地面についた所で、狼の瞳から放たれた青白い光に包まれたかと思うと体についた擦り傷が消えていった。
そんなこと気にしてる場合じゃなくて、ユーリスめがけて転がるように走る。
父親に抱えられた体を覗き込むように跪いた。見れば意識はないけれど、顔色もいいし怪我もしてない。
「い、息は……?」
「してる。」
公爵に言われて安堵ではぁ、と息を吐き出した。
見つめていると、ぴくりと形の良い眉根が動く。
「う、ん……」
少し呻いて、濡れて束になったまつげが縁取るまぶたががうっすら開いた。
チタナイトの瞳が奥から現れる。
「ユーリス!」
「る、こ……?ルコ!」
飛び起きた勢いのまま抱きつかれて、自分からも強く抱きしめ返した。
触れたところからユーリスの鼓動が伝わってくる。
その安心感と嬉しさで視界がぼやけた。
「ユーリス。あれを見なさい。お前を助けてくれた。」
公爵がこちらを見守るように佇む銀の狼を指して静かに言う。
「……ノス?」
知的な眼差しをこちらに送っている美しい獣は目を細めて、
くかかっ
とあくびをした。
「ノス!」
ユーリスが立ち上がってとんでもない進化を遂げたノスニキに駆け寄る。
ユーリスに手を繋がれて俺も後についていった。
「すごい……何これ?」
何倍にもなった鼻面を撫でながらユーリスが言う。
「多分、フェンリルだな。信じ難いが……」
公爵がまじまじとノスニキを眺めた。
「ノスガルデルタ様、本当にありがとうございます。」
大きな顔に抱きついて感謝を伝える。
小さい時のように顔を擦るように撫でると目を細めてしゅっと鼻息を吐いた。
言葉だけじゃ足りなくて、まだ濡れた鼻筋に何度もキスをする。
「……ふん。今日のところは譲ってやる」
命の恩人に、ユーリスが偉そうによくわからないことを呟いた。
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