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第3章 学園編
37 転生したらモブ執事だったので、悪役令息を立派な◯◯◯に育成しました(終)
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その後、俺はあっさりと通常通りの日常が送れるようになった。
ユーリスの啖呵にビビったのか、もう俺の姿を見ても誰も守護獣を進化させろとは近寄ってこない。
授業中以外は濡れ落ち葉かってくらいにユーリスが俺の近くをウロウロしているので、近寄れないというのが実際のところだろう。
担当者変更の希望を出していた生徒も軒並み取り下げて、俺に添削を押し付けていた2年生も担当を戻させてくれと申し出てきたくらいだ。
ユーリスが今では影で「地獄の番犬」「人型守護獣」と呼ばれているのを本人は知らない。
結局今は最初に割り振られた20人ほどの生徒のレポートを見るだけになった。けどそれもユーリスが見ているところでやるとやきもちを妬き散らかすので、週末目を盗んでやってる。時間がかけられなくてだいぶあっさりした添削になったせいか前ほど育成効果の爆増はないみたいだ。
結論から言えば割と平和な生活が送れていて、最近は自分の研究テーマなんかも探し始めた。
それは素直にユーリスのおかげなので感謝するところだろう。
もちろん、相変わらずわがまま放題なので感謝できないところはその10倍くらいある。
週末の朝方に起き出してこっそり添削していると、背後の二段ベッドの上段からうーんと呻き声がした。
慌てて開いていたレポートを閉じて隠す。
2段ベッドの隣ではクッションに乗っかったノスニキが鼻をヒクヒクさせながら眠っていた。
「るこぉ?」
俺を呼ぶ寝ぼけ声に、梯子を使って上の段に上がる。
覗き込めばうっすら目を開けたユーリスがいた。
手を伸ばしてきたのでこちらも手を差し出すと、腕を掴まれて引き摺り込まれ、狭いベッドで2人すし詰め状態になる。
抱き枕にするように俺の体に腕を回して顔を肩口に埋めてきた。
されるままになっていると、首すじにちゅっと吸い付かれてペロペロ舐めまわされる。
更に体を撫で回して着ている服を脱がせようとしてきたので、流石に止めた。
「ユーリス様、今日は屋敷に帰りますので我慢してください。」
「んー。少しだけすればいいじゃないか。」
よく言うよ。この部屋で同居を始めてから、そう言って少しで済んだ試しがない。
今から1ヶ月くらい前、誤解が解けたあと俺はユーリスの部屋に戻る気でいたけど、代わりにユーリスが俺の部屋に転がり込んできた。
学園も俺も慌てて元の部屋を使うよう言ったけど、全く意に介さず今に至る。
この部屋は狭すぎて学園の使用人が出入りするのも限界があるため、ユーリスの身の回りの世話はまた俺がすることになった。
「ほら、目が覚めたなら起きてください。」
絡みついてくる腕を引き剥がして起き上がり肩を揺するけど、しつこく腰にひっついていやいやと首を振る。
いい加減にしてほしい。
これがズルとはいえ入学1ヶ月で王立軍の精鋭を全員ぶっ倒した人物だとは到底思えない。
一体どうやってノスニキのフェンリル形態を維持したのか何度か聞いてみたけど、「さあ?頑張ったから?」というふざけた返事が返ってくるばかり。
ルドルスやジキスに意見を聞いても首を傾げていて、ミレーユに至っては「ルコが面倒見る子はよく育つからじゃない?」と一番ふざけたことを言っていた。
いや、そんなまさか。……まさかな。
必死に考えを打ち消しながら腰に絡みついてあらぬところをまさぐり始める手をつねってお仕置きした。
「ね、シようよ。」
「しません。」
押し問答していると、ノスニキが地面を蹴る音がして上段部分に飛び乗ってきた。
その目はユーリスにいい加減にしろと言っている。はずだ。
ノスニキは外を出歩くのが好きなので、馬車に並走して屋敷まで走りたいのだろう。
すかさずノスニキの首に抱きついて引き寄せ、ユーリスとの間に入ってもらって盾にした。
「ノス!ルコから離れろよ!ずるいぞ!」
ユーリスがノスニキに向かって喚くけど、俺は更にもふもふの毛皮にひっつく。
今ではユーリスが何に嫉妬してるのか十分過ぎるくらい分かってるから。
「ユーリス様が支度をしないなら、ノスガルデルタ様と私で屋敷に戻ります。」
「……しないなんて言ってない。」
ようやく聴き分けたユーリスに、やれやれと思いながら抱きしめていた毛皮を解放する。
床に飛び降りたノスニキに続いて梯子を使って下に降りようとベッドの縁に移動すると、背後からユーリスが覆いかぶさってきた。
しまったと思い振り返る前に耳元に唇が寄せられる。
「じゃあ、続きは馬車の中だね。」
最近更に少し低くなってきた綺麗な声で囁かれる。
最後に軽く耳の裏にキスをされた。
その言葉に硬直してる俺を置いて、ユーリスは軽やかに下に飛び降りると洗面台に向かう。
季節はもう冬の足音がし始めて、春になればこのゲームの主人公が転入してくるはずだ。
けど、その主人公に悪態をついて邪魔をする丁度いい存在は多分もういない。
代わりにいるのはきっと悪役崩れのゲームバランスぶっ壊しキャラ。
それとその残念なキャラにどうしようもなくときめているモブの俺である。
(おわり)
お読みいただきありがとうございました!
—————————-
作品についての補足
元々同じ世界に転生者が何人かいてそれぞれのストーリがあるオムニバス作品の構想なので、割とサブキャラ関連が中途半端な感じになっていてすみません。
でも、一旦本作としては完結です。
いい感じに書けそうならサブキャラ周りも別作品としてやるかと思いますが、しばらくは頭に溜まっている他の話やリクエスト消化をすると思います。
ユーリスの啖呵にビビったのか、もう俺の姿を見ても誰も守護獣を進化させろとは近寄ってこない。
授業中以外は濡れ落ち葉かってくらいにユーリスが俺の近くをウロウロしているので、近寄れないというのが実際のところだろう。
担当者変更の希望を出していた生徒も軒並み取り下げて、俺に添削を押し付けていた2年生も担当を戻させてくれと申し出てきたくらいだ。
ユーリスが今では影で「地獄の番犬」「人型守護獣」と呼ばれているのを本人は知らない。
結局今は最初に割り振られた20人ほどの生徒のレポートを見るだけになった。けどそれもユーリスが見ているところでやるとやきもちを妬き散らかすので、週末目を盗んでやってる。時間がかけられなくてだいぶあっさりした添削になったせいか前ほど育成効果の爆増はないみたいだ。
結論から言えば割と平和な生活が送れていて、最近は自分の研究テーマなんかも探し始めた。
それは素直にユーリスのおかげなので感謝するところだろう。
もちろん、相変わらずわがまま放題なので感謝できないところはその10倍くらいある。
週末の朝方に起き出してこっそり添削していると、背後の二段ベッドの上段からうーんと呻き声がした。
慌てて開いていたレポートを閉じて隠す。
2段ベッドの隣ではクッションに乗っかったノスニキが鼻をヒクヒクさせながら眠っていた。
「るこぉ?」
俺を呼ぶ寝ぼけ声に、梯子を使って上の段に上がる。
覗き込めばうっすら目を開けたユーリスがいた。
手を伸ばしてきたのでこちらも手を差し出すと、腕を掴まれて引き摺り込まれ、狭いベッドで2人すし詰め状態になる。
抱き枕にするように俺の体に腕を回して顔を肩口に埋めてきた。
されるままになっていると、首すじにちゅっと吸い付かれてペロペロ舐めまわされる。
更に体を撫で回して着ている服を脱がせようとしてきたので、流石に止めた。
「ユーリス様、今日は屋敷に帰りますので我慢してください。」
「んー。少しだけすればいいじゃないか。」
よく言うよ。この部屋で同居を始めてから、そう言って少しで済んだ試しがない。
今から1ヶ月くらい前、誤解が解けたあと俺はユーリスの部屋に戻る気でいたけど、代わりにユーリスが俺の部屋に転がり込んできた。
学園も俺も慌てて元の部屋を使うよう言ったけど、全く意に介さず今に至る。
この部屋は狭すぎて学園の使用人が出入りするのも限界があるため、ユーリスの身の回りの世話はまた俺がすることになった。
「ほら、目が覚めたなら起きてください。」
絡みついてくる腕を引き剥がして起き上がり肩を揺するけど、しつこく腰にひっついていやいやと首を振る。
いい加減にしてほしい。
これがズルとはいえ入学1ヶ月で王立軍の精鋭を全員ぶっ倒した人物だとは到底思えない。
一体どうやってノスニキのフェンリル形態を維持したのか何度か聞いてみたけど、「さあ?頑張ったから?」というふざけた返事が返ってくるばかり。
ルドルスやジキスに意見を聞いても首を傾げていて、ミレーユに至っては「ルコが面倒見る子はよく育つからじゃない?」と一番ふざけたことを言っていた。
いや、そんなまさか。……まさかな。
必死に考えを打ち消しながら腰に絡みついてあらぬところをまさぐり始める手をつねってお仕置きした。
「ね、シようよ。」
「しません。」
押し問答していると、ノスニキが地面を蹴る音がして上段部分に飛び乗ってきた。
その目はユーリスにいい加減にしろと言っている。はずだ。
ノスニキは外を出歩くのが好きなので、馬車に並走して屋敷まで走りたいのだろう。
すかさずノスニキの首に抱きついて引き寄せ、ユーリスとの間に入ってもらって盾にした。
「ノス!ルコから離れろよ!ずるいぞ!」
ユーリスがノスニキに向かって喚くけど、俺は更にもふもふの毛皮にひっつく。
今ではユーリスが何に嫉妬してるのか十分過ぎるくらい分かってるから。
「ユーリス様が支度をしないなら、ノスガルデルタ様と私で屋敷に戻ります。」
「……しないなんて言ってない。」
ようやく聴き分けたユーリスに、やれやれと思いながら抱きしめていた毛皮を解放する。
床に飛び降りたノスニキに続いて梯子を使って下に降りようとベッドの縁に移動すると、背後からユーリスが覆いかぶさってきた。
しまったと思い振り返る前に耳元に唇が寄せられる。
「じゃあ、続きは馬車の中だね。」
最近更に少し低くなってきた綺麗な声で囁かれる。
最後に軽く耳の裏にキスをされた。
その言葉に硬直してる俺を置いて、ユーリスは軽やかに下に飛び降りると洗面台に向かう。
季節はもう冬の足音がし始めて、春になればこのゲームの主人公が転入してくるはずだ。
けど、その主人公に悪態をついて邪魔をする丁度いい存在は多分もういない。
代わりにいるのはきっと悪役崩れのゲームバランスぶっ壊しキャラ。
それとその残念なキャラにどうしようもなくときめているモブの俺である。
(おわり)
お読みいただきありがとうございました!
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作品についての補足
元々同じ世界に転生者が何人かいてそれぞれのストーリがあるオムニバス作品の構想なので、割とサブキャラ関連が中途半端な感じになっていてすみません。
でも、一旦本作としては完結です。
いい感じに書けそうならサブキャラ周りも別作品としてやるかと思いますが、しばらくは頭に溜まっている他の話やリクエスト消化をすると思います。
応援ありがとうございます!
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