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プロローグ

回想

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 七年前。

 積もっていた雪は溶け、芽吹いた若葉が風に揺れる。春の日の空は青く、雲一つない晴天であったが──彼にとっては、まさしくこの世の終わりだった。

 村の大人達は普段の温厚な性格から一変し厳しい顔つきの男を恨めしそうに睨みつけていたが、リーダーらしき男の背後には、硬い鎧を着た屈強な騎士達がズラリと並び、さらにその後ろには同じようなローブに身を包んだ魔法使い達が並んでいる。彼が尊敬する大人達でさえ、強力な圧力の前に己の無力さを噛み締めるしかなかったのである。

 不意に爆音が響いた。

 司令官の命令を合図に、村の建物が破壊され始める。というのも、その村がある場所は北の敵国に近く小高い丘の上にあり、要塞を作る上で最適な土地環境だった。しかし木が倒れれば鳥は住処を追われ、家屋が崩されれば人は居場所を失う。鎧を着た厳しい顔つきの軍人の一言で、全てが灰燼と化す。

 彼、その場で立ち尽くしていた少年は悲惨な光景を眺めている。瞳に溜まった涙が零れないよう堪えながら、じっと倒壊させられていく村を見つめ、掴んだ服の裾がしわくちゃになるほど拳を握り締めていた。

 また一つ家屋が消える。それは、少年に優しくしてくれた老夫婦が住んでいた家だった。
 また一つ家屋が消える。それは、少年の隣に住む友達の家だった。
 そして、また一つの家屋が消えていった。

 少年の呼吸が浅くなり、鼓動の音が大きくなる。ドクリ、ドクリと心臓が蝕まれていく。胸を抑える事だってできないのに、締め付けられるような痛みが少年の全てを支配して飲み込んでしまった。
 追い討ちをかけるように容赦なく大きな鉄の塊が少年の家の上に落とされる。鉄の塊が再び持ち上がると、何もかもが少年の視界から消え去った。
 そこにはもう何もない。両親との思い出の場所が踏み躙られ、何もかもが塵となって消えていく。しかし少年の声無き叫びを気に止める者はおらず、動くことを忘れた少年の視界でまだ粉塵が舞っている間にも、村の解体は続いていく。

 唇が小さく震える。堪えられず母と父を呼んだが、既にこの時生きてはいない。透き通る緑の瞳から、一粒の涙が零れ落ちていた。


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