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第七章

私が透明になる前の話

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   私達は俗にいう身分差の恋ってやつだった。私が学生、彼が大学の職員ってこともあって、年の差もあったから、周囲には付き合っていることを言えなかった。だからデートはなかなか出来ないけど、初デートは観覧車に乗った。なかなか一緒に居られないけど、せめて身につけられる物を代わりにって、付き合って1ヶ月目はネクタイをプレゼントした。付き合って半年目はお揃いのミサンガをお互いに付けあった。彼の誕生日にはボロボロになっていた通勤カバンを見て、新しいカバンをプレゼントした。そして私の20歳の誕生日の日は彼とお酒を飲んだ。


 ある日、彼女は普通に自転車で大学から帰っていた。その前日、彼氏のなんともハッキリしない態度に少し怒った彼女は
「いいよ、私達付き合ってても○○のためにならないのでしょ?なんで別れないの」と言った。そんな彼女の反応に、彼はただ
「好きだからかなぁー。」と笑うだけで、経験値の差なのか、彼女はまた軽くあしらわれたことが悔しくて、いつも心の奥をどこか隠したがる彼に対して、寂しさを抱えていた。“ひとり”が当たり前の彼の世界に私が入った。そんな彼は私を受け入れた。でも、どこかで、いつか“ひとり”になる覚悟をしているように見えた。“ひとり”になろうとしないでよ。それが当たり前だって思わないでよ。私も君の見る未来に居させてよ。なんて言えない彼女は、ただ気持ちが上手く言えなくて、子供のように泣いてしまっていた。
「なんで泣いてるの?」
「…ばかっ!」と泣いて電話を切ってしまっていた。
「…なんで、思ったことは言えないのに、思ってもないようなことは言っちゃうんだ…私のバカ。」


 そんな昨日のこともあり仲直りしようと思った彼女は、いつもの道を、いつものように帰っていた。ただ違ったのは、目の前にはライトが2つ彼女に迫って来て、眩しいくらい運転席にいる人がよく見えた。それは、意識が朦朧としているのさえ、分かってしまうくらいだった。狭い道で逃げ場なんてどこにもない。

 気づいたら彼女は病院で、ぐったりし、白く、そしてところどころ赤い染みがついている硬くなっている自分を見つめていた。

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