2 / 13
『ひかりの木』
しおりを挟む
『ひかりの木』
君が生まれるずっと前から
わたしは ここにいた。
風の道に根を張り
季節の輪をくぐりぬけながら
ただ 空を見上げていた。
やがて君が来た日
小さな足音が 土を震わせた。
君の名前を知らなくても
わたしはすぐに気づいた。
――ああ、待っていたよ、と。
君は枝にぶら下がり
笑いながら空を蹴った。
君の笑い声が葉脈を通って
幹の奥まで響いた。
わたしは満ちていた。
世界のすべてが
あの笑顔だけで 足りると思った。
けれど君は育ち
遠くを見る目を覚えた。
恋を知り、夢を抱き、
わたしの影から離れていった。
そのたびに、ひとつ
枝を折られ、実をもぎ取られ
幹を割かれ
空へ伸びていた想いは
静かに短くなっていった。
それでも、待った。
風の音に耳をすませ
鳥の巣に話しかけ
降る雪に身をあずけ
ひとりで季節を数えた。
そしてある日
君は戻ってきた。
しわの刻まれた手で
わたしの切り株に触れ
深く座り、何も言わず
ただ、息をついた。
その背中を
わたしは冬の陽のように包んだ。
もう与えられる枝はなくても
君が帰る場所であることは
失われなかった。
君が眠ったあと
静かな土の奥から
ひとつの芽が生まれた。
柔らかな緑の息吹。
未来の形をした希望。
わたしは気づく。
与えるとは
なくなることじゃない。
愛したことは
木のように輪を刻み
誰かの心に根を残す。
だから今日も
風にゆれる、小さな葉が言う――
「また、誰かが来るよ」
そしてわたしは
静かに応える。
「うん。待っている。」
君が生まれるずっと前から
わたしは ここにいた。
風の道に根を張り
季節の輪をくぐりぬけながら
ただ 空を見上げていた。
やがて君が来た日
小さな足音が 土を震わせた。
君の名前を知らなくても
わたしはすぐに気づいた。
――ああ、待っていたよ、と。
君は枝にぶら下がり
笑いながら空を蹴った。
君の笑い声が葉脈を通って
幹の奥まで響いた。
わたしは満ちていた。
世界のすべてが
あの笑顔だけで 足りると思った。
けれど君は育ち
遠くを見る目を覚えた。
恋を知り、夢を抱き、
わたしの影から離れていった。
そのたびに、ひとつ
枝を折られ、実をもぎ取られ
幹を割かれ
空へ伸びていた想いは
静かに短くなっていった。
それでも、待った。
風の音に耳をすませ
鳥の巣に話しかけ
降る雪に身をあずけ
ひとりで季節を数えた。
そしてある日
君は戻ってきた。
しわの刻まれた手で
わたしの切り株に触れ
深く座り、何も言わず
ただ、息をついた。
その背中を
わたしは冬の陽のように包んだ。
もう与えられる枝はなくても
君が帰る場所であることは
失われなかった。
君が眠ったあと
静かな土の奥から
ひとつの芽が生まれた。
柔らかな緑の息吹。
未来の形をした希望。
わたしは気づく。
与えるとは
なくなることじゃない。
愛したことは
木のように輪を刻み
誰かの心に根を残す。
だから今日も
風にゆれる、小さな葉が言う――
「また、誰かが来るよ」
そしてわたしは
静かに応える。
「うん。待っている。」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる