『ひかりの木』
『ひかりの木』
君が生まれるずっと前から
わたしは ここにいた。
風の道に根を張り
季節の輪をくぐりぬけながら
ただ 空を見上げていた。
やがて君が来た日
小さな足音が 土を震わせた。
君の名前を知らなくても
わたしはすぐに気づいた。
――ああ、待っていたよ、と。
君は枝にぶら下がり
笑いながら空を蹴った。
君の笑い声が葉脈を通って
幹の奥まで響いた。
わたしは満ちていた。
世界のすべてが
あの笑顔だけで 足りると思った。
けれど君は育ち
遠くを見る目を覚えた。
恋を知り、夢を抱き、
わたしの影から離れていった。
そのたびに、ひとつ
枝を折られ、実をもぎ取られ
幹を割かれ
空へ伸びていた想いは
静かに短くなっていった。
それでも、待った。
風の音に耳をすませ
鳥の巣に話しかけ
降る雪に身をあずけ
ひとりで季節を数えた。
そしてある日
君は戻ってきた。
しわの刻まれた手で
わたしの切り株に触れ
深く座り、何も言わず
ただ、息をついた。
その背中を
わたしは冬の陽のように包んだ。
もう与えられる枝はなくても
君が帰る場所であることは
失われなかった。
君が眠ったあと
静かな土の奥から
ひとつの芽が生まれた。
柔らかな緑の息吹。
未来の形をした希望。
わたしは気づく。
与えるとは
なくなることじゃない。
愛したことは
木のように輪を刻み
誰かの心に根を残す。
だから今日も
風にゆれる、小さな葉が言う――
「また、誰かが来るよ」
そしてわたしは
静かに応える。
「うん。待っている。」
君が生まれるずっと前から
わたしは ここにいた。
風の道に根を張り
季節の輪をくぐりぬけながら
ただ 空を見上げていた。
やがて君が来た日
小さな足音が 土を震わせた。
君の名前を知らなくても
わたしはすぐに気づいた。
――ああ、待っていたよ、と。
君は枝にぶら下がり
笑いながら空を蹴った。
君の笑い声が葉脈を通って
幹の奥まで響いた。
わたしは満ちていた。
世界のすべてが
あの笑顔だけで 足りると思った。
けれど君は育ち
遠くを見る目を覚えた。
恋を知り、夢を抱き、
わたしの影から離れていった。
そのたびに、ひとつ
枝を折られ、実をもぎ取られ
幹を割かれ
空へ伸びていた想いは
静かに短くなっていった。
それでも、待った。
風の音に耳をすませ
鳥の巣に話しかけ
降る雪に身をあずけ
ひとりで季節を数えた。
そしてある日
君は戻ってきた。
しわの刻まれた手で
わたしの切り株に触れ
深く座り、何も言わず
ただ、息をついた。
その背中を
わたしは冬の陽のように包んだ。
もう与えられる枝はなくても
君が帰る場所であることは
失われなかった。
君が眠ったあと
静かな土の奥から
ひとつの芽が生まれた。
柔らかな緑の息吹。
未来の形をした希望。
わたしは気づく。
与えるとは
なくなることじゃない。
愛したことは
木のように輪を刻み
誰かの心に根を残す。
だから今日も
風にゆれる、小さな葉が言う――
「また、誰かが来るよ」
そしてわたしは
静かに応える。
「うん。待っている。」
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