『帝国第五王女の結界は、婚約破棄では解けません』

春秋花壇

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セラフィーナ・ヴァルモンド

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セラフィーナ・ヴァルモンド

薄桃の髪は、夜明けをすくった光
その一筋一筋に
帝国の系譜が眠っている

瞳は瑠璃でも銀でもなく
祈りを閉じ込めた泉
覗き込めば
沈黙の底に、星の声が揺れる

セラフィーナ・ヴァルモンド
名は羽の音に似て
呼べば、心に雪の花が降る

彼女が立つだけで
空気がやわらぐのは
魔力ではなく、品格の記憶
王女は、教えられる前から王女なのだ

けれどその背には
絹でも宝石でも覆い隠せない疲労がある
庭の手入れ
夜明け前の買い出し
食器を洗う指に刻まれる
見えない小さな傷

誰も知らない
結界は魔法で張られるものではなく
ひとつひとつの我慢と
ひとつひとつの孤独で
強固になることを

ミレイユが笑う時
セラフィーナの胸には
霜柱が立つ
公爵家の廊下は
豪奢でありながら
底冷えのする独り道だった

それでも彼女は
礼儀を忘れず
涙の跡も隠し
「王女である前に、人であること」を
美しく証明してきた

彼女には
贅沢より必要なものがある
ひとりの人間として、尊重される場所
魔力を奪わない空気
呼吸する権利

セラフィーナ・ヴァルモンド
その名は、凛と響く

誰も聞いていない夜
彼女は一人、窓辺で手を胸に当てる

結界は、婚約破棄で解けはしない
彼女を守るのは魔法陣ではなく
彼女自身の意思

逃げるためでも
仕返しのためでもない

王女は縛られず
王女は折れず
王女は、心を折り畳むようにして
静かに立ち上がる

──祈りのように、美しい
その沈黙は、弱さではなく
最大の強さだった

セラフィーナ・ヴァルモンド
彼女が真に欲しかったものは
王冠でも名声でもない

ただ一つ
「私の魔力を奪わず
隣を歩いてくれる人」

その願いが叶うなら
彼女は、花のように微笑むだろう

そして夜明け
彼女は誰にも気づかれないまま
薄明の光を纏い、歩き出す

王女は、誰かの所有物ではない
その足取りは
未来へ向かう自由そのものだ

セラフィーナ・ヴァルモンド──
沈黙は涙ではなく
物語のはじまりだった。

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