白い庭

第7話 招かれざる客

第7話　招かれざる客

夏の朝、白い庭には強い日差しが差し込み、白薔薇と白百合が誇らしげに咲き誇っていた。花の香りが風に乗り、庭を満たしている。しかし、庭の穏やかさを破る予兆は、家のドアをノックする音だった。

「……誰だろう？」
美羽が窓越しに外を覗くと、そこには見慣れた顔――蓮の親戚や悠の友人たちだった。笑顔を浮かべているが、その視線には探るような鋭さがある。

「……来客？」
蓮が眉をひそめる。普段は穏やかな庭の空気が、少しだけ緊張で張り詰める。

ドアが開き、賑やかな声が室内に響く。
「やあ、元気にしてたか？」
友人の声は明るいが、目は鋭く、四人の関係を測ろうとしているように感じられた。

梨花は白百合の手入れをしていた手を止め、微笑む。
「いらっしゃいませ。どうぞ庭をご覧ください」
その声は自然で柔らかく、相手の緊張を受け流すようだった。

「それにしても、この家に四人も住んでいるなんて……」
蓮の親戚の一人が小声でつぶやく。
「まさか、恋愛関係なんて……？」

蓮は肩をすくめ、淡々と答える。
「恋愛関係はありません。ただ、ここで一緒に暮らしているだけです」
悠も隣で同じように応える。二人の声には冷静さがあり、庭の花のように揺るがない強さがあった。

「……そうか。でも、なんだか不思議だな」
友人たちは好奇心を隠せない。庭の花々の香り、朝の土の匂い、湿った空気に包まれながらも、四人の沈黙は揺るがない。

「お茶でもどうぞ」
美羽が微笑みながら差し出す。
「ありがとうございます」
相手の視線はまだ探るようだが、梨花がそっと白百合の葉を整える仕草が、空気を柔らかくする。

庭に立つ白薔薇も、日差しに照らされながら静かに揺れる。花弁の柔らかさ、香り、葉の緑――すべてが、四人の心を支える盾のようだ。

「そういえば、蓮君、悠君って……男性同士で暮らしてるのか？」
親族の質問に、蓮は静かに微笑む。
「暮らしているのは事実ですが、それ以上のことはありません」
悠も補足する。
「性指向や関係性で判断しないでください。ここでは、庭と花が私たちの価値です」

美羽と梨花も、白百合を手に取りながら同調する。
「ここは、私たちの避難所でもあるのです。外の目や偏見に左右される場所ではありません」

友人や親族は、最初の好奇心から少しずつ後退する。庭の花々の静けさ、四人の落ち着いた佇まいが、言葉以上に説得力を持っているのだ。

「……なるほど、そういうことか」
親戚の一人が肩をすくめる。
「確かに、こういう家で暮らすのも悪くないな」
その言葉に、庭に柔らかな風が流れる。白薔薇と白百合の香りが一層豊かに感じられ、四人の心にも少し安心感が広がる。

蓮は悠に小さく笑いかける。
「やれやれ、今回も乗り切ったな」
「そうだな……庭の花と同じくらい、俺たちも耐えた」
肩越しに触れる手の温もりは、言葉以上に信頼を示す。

美羽は梨花に小声で言う。
「梨花、あなたがいてくれて良かった」
「私も、美羽がいるから心強いよ」
手を取り合う二人の仕草に、庭の花々も静かに揺れる。

訪問客はやがて帰り、庭には再び静けさが戻る。白薔薇と白百合は、少し乱れた葉を太陽に向けて広げ、花弁は光を受けて輝く。

四人は庭に立ち、互いの存在を感じる。性的指向や外の目を超え、ここでは誰もが自分らしくいられる。庭は避難所であり、白い花々はその象徴だ。

「……庭があるから、俺たちは揺るがない」
蓮はつぶやく。悠はそっと手を握り返す。

「そうだな。ここでは、誰も裁かれない」

庭の白薔薇と白百合は、夏の光に照らされながら、四人の心を静かに支えていた。