『Trick or Blood ―渋谷吸血夜譚―』

Trick or Blood／Requiem（鎮魂歌）

Trick or Blood／Requiem（鎮魂歌）

夜よ、まだ終わらないで。
紅い月が沈む前に、もう一度だけ、彼の名を呼ばせて。

渋谷の街が血の海に沈んだ夜、
群衆の笑いは風に裂かれ、ネオンは涙を流した。
その中で、僕らは出会い、そして壊れた。

――牙が触れた瞬間、世界は静まった。
痛みではなく、温もりが走った。
あの夜、僕は確かに生まれ変わった。
人間ではなく、彼の影として。

「君の血は、僕の夜を燃やす」
「あなたの声は、僕の心を壊す」
互いを責めながら、互いに救われた。

愛は呪い、呪いは祈り。
ひとつのキスが、世界の終わりを告げた。
それでも僕らは、滅びの中で息をしていた。

風が頬を撫でる。
それは彼の指の感触。
朝日がまぶしい。
それは彼が僕に残した罰。

――ヴァン。
あなたの声は、今も胸の奥で鳴っている。
鼓動のように、祈りのように。

僕の中で、あなたは死ねない。
僕の血が夜を継ぎ、
僕の涙があなたの影を映す。

「Trick or Blood」――
それは、命を賭けた恋の呪文。
僕らは仮装を脱ぎ捨て、真実の闇を抱いた。

今、渋谷に朝が来る。
人々は何も知らず、コーヒーを飲み、電車に乗る。
けれどこの街の片隅で、
紅い花弁が一枚、風に舞い上がった。

それが合図。
夜は、まだ終わっていない。

「また夜に」
君の声が、風に乗る。
僕はそれに微笑んで――
静かに、闇へと還る。

永遠とは、
終わらない別れのこと。
それでも僕は、あなたを愛してしまった。

🩸Fin.