「BREAKOUT ―秘密のヒーローたち―」

春秋花壇

文字の大きさ
11 / 11

第8話「Trap」

しおりを挟む
第8話「Trap」

銃声が夜を裂いた。
乾いた破裂音が続き、倉庫街のコンクリートに火花が散る。
レンがユウの腕を掴んで転がり込むように遮蔽物の陰へ押し込んだ。
冷たい鉄板の匂い。土埃に混ざる火薬の焦げた臭い。
息が切れ、耳の奥で自分の心臓の音が爆発みたいに響く。

「クソッ、どこからだ……」
レンが低く呟く。額を伝う汗が顎から滴り落ちた。
その横顔を見て、ユウは息を飲む。
彼の眼はいつもより鋭く、でもどこか怯えを帯びていた。

「レン、もういい。逃げよう」
「逃げたら、またお前が狙われる」
「だったら今度は俺が守る」
「……は?」
銃弾が壁を貫き、破片が頬をかすめる。痛みと共に赤い線が走った。
ユウはレンの腕を掴み返し、強く引き寄せた。

「次は俺の番だ」
その声に、レンが目を見開く。
ユウの瞳は恐怖ではなく、決意の光で燃えていた。

彼は胸ポケットから小型のフラッシュグレネードを取り出した。
「お前、まさか……!」
「これしかない。レン、伏せて!」

閃光と同時に世界が白く焼ける。
耳をつんざく轟音。ユウはレンの上に覆いかぶさり、
自分の背中で破片を受けた。

金属の匂いが鼻を突く。
血の味が舌に広がる。
熱く、そして痛い。
でも、腕の中でレンの鼓動が確かに動いている。

「バカ野郎……なんでそんな無茶を」
レンが震える声で言う。
ユウは笑った。
「お前に傷ついてほしくないんだよ!」

その一言が、レンの胸を撃ち抜いた。
銃弾よりも鋭く、深く。

ユウの肩から血が滲み、シャツが赤く染まっていく。
レンはその身体を抱きしめた。
汗と血の匂いが混ざって、苦しくなるほど切ない。
「もう二度と、こんなことすんな」
「無理だよ。お前を守るって、もう決めたから」

レンの喉が詰まる。
何かを言おうとしても、言葉が出てこない。
代わりに唇が震え、ユウの額に触れた。

「……レン?」
「黙ってろ。お前、また血が出てる」
「それより……手、離すなよ」

倉庫の外で、遠ざかる足音。
敵は撤退したらしい。
静寂が戻る。
夜風が吹き抜け、砂と汗の匂いを運んだ。

レンはユウの背中を支えながら、
彼の頬に触れた。
指先に残る汗の温度が、
“生きている”証のように感じられた。

「……なあ、ユウ」
「ん……?」
「俺、守られてばっかだな」
「いいじゃん。今度は俺の番だって言ったろ」
「でも、お前がいなくなったら、意味ないんだよ」
ユウは微笑んだ。
その笑みが、痛いほどに優しい。

夜空を見上げると、雲の切れ間に星がひとつだけ瞬いていた。
冷たい風が汗を乾かし、土の匂いがわずかに甘く変わる。
それは、血と涙の混ざった匂い。
そして、彼らが共有した戦場の香りだった。

レンはユウの手を握り直し、
その手を額に押し当てる。
「次は……一緒に帰ろう」
ユウはかすかに笑って答えた。
「うん。約束」

夜の静けさの中、二人の影が寄り添い、
倉庫の明かりの残滓がゆらゆらと揺れていた。
銃の匂いも、血の味も、今だけは遠くにあった。

💠テーマ:“守る”ことと“生きる”ことの交差点
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...