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番外編
夫婦というもの⑯
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ちゅ、ちゅっ、とキスをされて目が覚めた。
「レオニー………ん……かわいい……」
「……ウィル?」
いつの間にか寝台の上に運ばれていたらしい私は、顔中に口づけているウィリアムに向かって手を伸ばした。
「ウィル、少しは元気になったの?」
「レオニーのおかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」
石鹸の匂い。お湯を使ったのね。…………あっ、もしかして!
「ウィル、あのひげ………」
あー、頬がツルツルになっちゃってる……残念。
「髭?ああ、ごめん。見苦しかっただろう」
「ううん。野性的で素敵だなって思ったから、もうちょっとだけ見ていたかったの」
私の言葉を聞いて、「野性的か……」と真剣に考えている。その姿は数時間前の窶れた様子とは打って変わり、いつもの凛々しいウィリアムだった。
「ウィル、こっちを向いて」
寝台の横に跪き、私を見上げるウィリアムの顔。まるで分厚い雲が晴れ、太陽が現れたみたい。瞳は喜びに輝き、肌艶まで良くなっている。私と違って手入れもしていないのに、こんなに肌理の細かい肌をしているなんてズルいわ。そう思いながら、両手で頬を包んでそっとキスをした。
「大好き」
唇が触れる距離でそう言って、もう一度チュッとキスをした。思いが溢れすぎて止められない。もう一度キス。もう一度。
「レオニー!」
ぎゅうっと抱きしめられる。苦しいくらいの力が嬉しくて笑みがこぼれた。
「頼むから煽らないでくれ……!今だって必死で堪えているんだ」
「どうして我慢するの?」
私の疑問に大きなため息で答えたウィリアムは、私の首に何度もキスをしてから言った。
「一緒に食事をしようと思って持ってきた。少し痩せたんじゃないか?ちゃんと食べなきゃ駄目だよ」
その言葉にハッとする。そうだわ。ウィリアムが眠る前に私も同じことを考えていたんだった。
それと同時にもっと大切なことに気付き、悲鳴混じりに両手で口を押える。
「どうした?」
「いやだ……!私、お義母さまにご挨拶していないわ……!」
「何だ、そんなこと」
「大変!今何時?まだ起きてらっしゃるなら」
「大丈夫だ。ジェフリーと俺でちゃんと説明しておいた。君が戻ったと聞いて母は喜んでいたよ。今日はゆっくり休んで、明日お茶の時間にでも話を聞かせてくれと言っていた」
本当にそれでいいのかしら。私の視線で言いたいことを察したらしいウィリアムが苦笑する。
「本当だから心配しなくていい。おまけに母からは説教を喰らった。俺の独りよがりな行動が妻を不安にさせた、レオノアは人形ではなく妻なのだから、喜びとともに苦労も分かち合えと。……教訓といたします、と答えておいたよ」
唇に一つキスをして、私を抱き上げた。
「さあ、食事だ。久しぶりに腹が減ったな。レオニーも沢山食べるんだよ」
一歩歩くごとにキスされる。クスクス笑いながらウィリアムの頬に手を当ててキスを返した。一緒に居られることが嬉しくてたまらない。
居間の机の上には鹿肉のローストとシチュー、籠に盛られたパン、そして。
「タラのムニエル!」
「料理長が作ってくれた。レオニーの好物だろう?俺が指示する前にこれを持ってきたときの、得意げなあの顔!全く……」
ウィリアムはブツブツ言うけれど、このムニエルは本当に美味しいのだ。
海に囲まれたリングオーサは新鮮な海産物に恵まれている。私も昔から魚料理はよく食べていたし大好きだ。でも、キングズレー公爵家の料理長が作るタラのムニエルは本当に絶品としか言いようがない。火の通し加減なのか、バターの焦がし具合なのか。コツを聞いても絶対に教えてもらえない。そのムニエルが、黄金色のソースを纏って皿に盛られている。
「美味しそう……!」
言ったと同時にお腹がキュルルと鳴った。やだもう!思わずお腹を両手で押さえる。このところ行方不明になっていた食欲は、ウィリアムと一緒にいるだけで舞い戻ってきたらしい。赤くなった私の顔を見てウィリアムが声を出して笑った。
「待たせてしまったね。食べようか」
長椅子に腰掛けたウィリアムは、私を膝に乗せたまま、片手で器用にムニエルを切り分けて私の口に差し出した。
「ウィル。私、自分で食べられるわ」
「いいから。ほら、早く。ソースが垂れてしまう」
見ると、ムニエルを乗せたフォークの先にソースの雫ができている。思わず口を開くとムニエルが差し込まれた。んんん……美味しい!
私が一口食べる間に、ウィリアムはムニエルやローストを自分の口に入れ、すごい勢いで食べている。それでいて、私が口の中のものを飲み込んだのを見計らい、シチューや小さく切ったローストを私の口に入れてくれる。
「ワインを飲む?」
「少しだけ。………ねえ、私本当に自分で食べるから大丈夫よ。ウィルはお腹が空いているんでしょう?私を下ろしてちゃんと食べて?」
「駄目。レオニーが膝にいないと食べられない」
にべもない返事に口を尖らせると、そこにまたチュッとキスされた。んもう、そんなことしたって誤魔化されないんだから。そう思った私は、別の方向から攻めることにした。
「お行儀が悪いもの。だから下ろして」
「君がいない間、食欲がなくて食事が全然出来なかったんだ。ようやく戻ってきてくれたのに離れるなんて無理だよ。礼儀作法は今日だけ無視して、大人しくここで食べて」
ちぎったパンを口に入れられ、モグモグしながら仕方なく頷いた。机を見ると、あんなにあった料理が半分以上無くなっている。何の意味があるのか分からないけれど、私が膝に乗っていることで食欲が増すなら仕方がないのかしら。そう思っていたら、ウィリアムを眠らせるために家具を移動させていたことを思い出した。
「ウィルが部屋を片付けてくれたのね。ありがとう」
「どういたしまして。あんなに重たいもの、一人で動かしたの?大変だっただろうに」
「だって、ウィルを寝かせてあげたかったんだもの。………結局私のほうが長く寝ちゃったけれど」
「ハハッ、可愛い。俺と離れて眠れなかった?」
「ん………ウィルの匂いがしない寝台じゃ眠れなかったの」
「…………レオニー。もう食事はいい?まだ食べる?」
「もうちょっと。シチューをいただきたいわ」
フーッとため息をつきながらシチューを口に運んでくれた。鹿肉がホロッと崩れて旨味が口に広がる。本当に美味しい。
二人して食べる合間にもキスしたり、私がウィリアムに頬ずりしたり。こんなに楽しい食事は初めてかも。ウィルの言うとおり、膝に乗って食事するのも悪くない。
お腹がいっぱいになって、ウィリアムにもたれながら首筋にすり寄ると、待ち構えていたかのようにキスをされる。
「レオニー…………レオノア………目が覚めた時、君が腕の中にいてくれるなんて思わなかった。……ん……嬉しくて、心臓が止まるかと思ったよ」
「ウィルったら大げさなんだから」
「大げさなものか。俺の息の根を止められるのは、レオノア………君だけだ」
あ…………ウィルが唇で唇を愛撫してくる。私、これ、すき……。たちまちぼんやりしてしまう頭の片隅で何かがチカッと光った。そうだわ!
「ん……、ウィル、ちょ、ちょっと、ま、あん、待って」
「なに……?もう我慢できない……」
「お願いだから、ほんの少しだけ。ね?」
しぶしぶとキスを中断したウィリアムは、不満げに眉を寄せている。そこを指先で撫でて眉間にキスをしたら、ようやく表情を和らげてくれた。
「少しだけしか待てないからね。さあ、なに?」
「あのね、私、ジェフリーの言う通り、思っていることをきちんと言葉で伝えることが大切だと思うの」
「ああ、そうだね」
「その、だから………ウィルも。私に対して思っていることがあるでしょう?それを教えて欲しいなって」
「…………」
「だ、だって!そうしないと悪いところを直せないわ!そのせいで不満が溜まって、ウィルに愛想つかされたりしたら、私………いやだもの」
「……………レオニー」
はあ、と息を吐いてウィリアムは私の額に額をコツンとぶつけた。
「レオノアに不満なんかない」
「そんなはずないわ!何かあるはずよ」
「例えば?」
「公爵家の嫁として相応しい振る舞いができないところとか……。私、王女として公務に就いていたとき、人と触れ合うことが好きだったから。つい同じ調子で誰とでも接してしまうの。お義母さまからは、本邸の使用人はともかく、名前も知らないような人と親しく会話してはいけないって、注意されちゃった」
「そんなことをしているの?危ないじゃないか。公務中なら護衛が張り付いていただろうけど」
「お義母さまからも同じことを言われたわ。後は……刺繍が下手なこととか」
「刺繍?」
「そうなの。私、昔から刺繍が下手で。いくら練習しても上手くならないの。フィル兄さまからはいつも揶揄われていたわ。バラを刺繍したのに『これは人参か』って。だから、私の刺繍した手巾をもらってくれるのは、お父さまとエド兄さまだけだったの」
「…………それ、今度俺にも作ってくれる?」
「ウィル、私の話ちゃんと聞いていたの?とても見せられた出来じゃないのよ」
「出来不出来の問題じゃないんだ」
「もう!……それからあとは」
「レオニー」
チュッと音をたてたキスで、次の欠点を言おうとしていた口をふさがれた。
「今君が言ったことは、全部自分で直そうとしていることだろう?それが不満なんかであるものか。俺にとっては君の全てが愛おしく、可愛らしいんだから」
「ウィル、さっきから『俺』って……」
「ああ」
もう一度キスされる。今度はゆっくり。唇から熱を注入されているよう。身体が熱くなって呼吸が浅くなる。もっと、もっと続きをしたいの……。
「父の言葉に従うのは癪だが、本当の自分を『妻』のレオノアの前では出していこうかと」
え?
「本当の自分、って」
ぱちぱちと瞬きしながら考える。そういえば、ジェフリーが何か言っていたような気がする。
「私の前では格好つけていたの?結婚したのに?」
「………そりゃあそうさ。惚れた女の前でくらいいい格好したいだろう。それくらい分かれよ」
憮然とした顔で言われる。その砕けた口調にドキドキした。
「…………レオノアには、情けないところばかり見せてしまったけど」
涙を流したことを言っているのかしら。そんなの、全然情けなくなんかないのに。
「どんなウィルでも大好きよ」
尖った口にキスをした。見つめ合ったあと、もう一度、今度は私から舌を差し込む。表面をこすり、絡め合った。ああ………。
「レオノア………このまま、いい……?」
ウィリアムが耳の後ろにキスしながら左手でお尻を触り、右手は私の上半身をまさぐっている。コルセットをつけているのに気づいたのか、焦れた様子でドレスの前ボタンを外し始めた。私はハッとして叫ぶ。
「ウィル、待って!」
ぴた、と指を止めたウィリアムが唸るような声で言った。
「また?今度は一体なに?」
「お湯を使いたいの!私、椅子や机を動かすときに汗をかいたから!」
「何だ。どうでもいいよ風呂なんて。むしろ入っていないほうがレオノアの匂いがしていい」
そう言うと鼻先を髪に埋め、スーッと息を吸った。いやーっ!
「ん……いい匂いだ。食べてしまいたい」
「いやよ、ウィル、お願い。先にお湯を使わせて」
「風呂なら後で入ろう。俺が全身洗ってあげる」
「本当にいやなの。ウィル、お願いだから」
胸の前で両手を組み、上目遣いでお願いする。一瞬怯んだ様子のウィリアムだったけれど、今日は折れてくれなかった。
「駄目だ。どうしてもと言うなら、俺が全身舐めてきれいにするから」
「…………それはいや」
「だったらこのままでいいだろう。…………ほら、もうこんなになってるんだ。待たせないでくれ」
お尻に押しつけられたウィリアムのあそこは、既に固くなり熱を持っている。私は存在を主張するそれをズボン越しにそっと握った。
「………っ、レオノア」
「ウィル。私、これ、また……舐めても、いい?」
「それは………」
ウィリアムが喘ぐようにして抗いの言葉を口にしようとするから、私は今度こそ願いを叶えようと、もう一度上目遣いで夫を見つめた。
「レオニー………ん……かわいい……」
「……ウィル?」
いつの間にか寝台の上に運ばれていたらしい私は、顔中に口づけているウィリアムに向かって手を伸ばした。
「ウィル、少しは元気になったの?」
「レオニーのおかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」
石鹸の匂い。お湯を使ったのね。…………あっ、もしかして!
「ウィル、あのひげ………」
あー、頬がツルツルになっちゃってる……残念。
「髭?ああ、ごめん。見苦しかっただろう」
「ううん。野性的で素敵だなって思ったから、もうちょっとだけ見ていたかったの」
私の言葉を聞いて、「野性的か……」と真剣に考えている。その姿は数時間前の窶れた様子とは打って変わり、いつもの凛々しいウィリアムだった。
「ウィル、こっちを向いて」
寝台の横に跪き、私を見上げるウィリアムの顔。まるで分厚い雲が晴れ、太陽が現れたみたい。瞳は喜びに輝き、肌艶まで良くなっている。私と違って手入れもしていないのに、こんなに肌理の細かい肌をしているなんてズルいわ。そう思いながら、両手で頬を包んでそっとキスをした。
「大好き」
唇が触れる距離でそう言って、もう一度チュッとキスをした。思いが溢れすぎて止められない。もう一度キス。もう一度。
「レオニー!」
ぎゅうっと抱きしめられる。苦しいくらいの力が嬉しくて笑みがこぼれた。
「頼むから煽らないでくれ……!今だって必死で堪えているんだ」
「どうして我慢するの?」
私の疑問に大きなため息で答えたウィリアムは、私の首に何度もキスをしてから言った。
「一緒に食事をしようと思って持ってきた。少し痩せたんじゃないか?ちゃんと食べなきゃ駄目だよ」
その言葉にハッとする。そうだわ。ウィリアムが眠る前に私も同じことを考えていたんだった。
それと同時にもっと大切なことに気付き、悲鳴混じりに両手で口を押える。
「どうした?」
「いやだ……!私、お義母さまにご挨拶していないわ……!」
「何だ、そんなこと」
「大変!今何時?まだ起きてらっしゃるなら」
「大丈夫だ。ジェフリーと俺でちゃんと説明しておいた。君が戻ったと聞いて母は喜んでいたよ。今日はゆっくり休んで、明日お茶の時間にでも話を聞かせてくれと言っていた」
本当にそれでいいのかしら。私の視線で言いたいことを察したらしいウィリアムが苦笑する。
「本当だから心配しなくていい。おまけに母からは説教を喰らった。俺の独りよがりな行動が妻を不安にさせた、レオノアは人形ではなく妻なのだから、喜びとともに苦労も分かち合えと。……教訓といたします、と答えておいたよ」
唇に一つキスをして、私を抱き上げた。
「さあ、食事だ。久しぶりに腹が減ったな。レオニーも沢山食べるんだよ」
一歩歩くごとにキスされる。クスクス笑いながらウィリアムの頬に手を当ててキスを返した。一緒に居られることが嬉しくてたまらない。
居間の机の上には鹿肉のローストとシチュー、籠に盛られたパン、そして。
「タラのムニエル!」
「料理長が作ってくれた。レオニーの好物だろう?俺が指示する前にこれを持ってきたときの、得意げなあの顔!全く……」
ウィリアムはブツブツ言うけれど、このムニエルは本当に美味しいのだ。
海に囲まれたリングオーサは新鮮な海産物に恵まれている。私も昔から魚料理はよく食べていたし大好きだ。でも、キングズレー公爵家の料理長が作るタラのムニエルは本当に絶品としか言いようがない。火の通し加減なのか、バターの焦がし具合なのか。コツを聞いても絶対に教えてもらえない。そのムニエルが、黄金色のソースを纏って皿に盛られている。
「美味しそう……!」
言ったと同時にお腹がキュルルと鳴った。やだもう!思わずお腹を両手で押さえる。このところ行方不明になっていた食欲は、ウィリアムと一緒にいるだけで舞い戻ってきたらしい。赤くなった私の顔を見てウィリアムが声を出して笑った。
「待たせてしまったね。食べようか」
長椅子に腰掛けたウィリアムは、私を膝に乗せたまま、片手で器用にムニエルを切り分けて私の口に差し出した。
「ウィル。私、自分で食べられるわ」
「いいから。ほら、早く。ソースが垂れてしまう」
見ると、ムニエルを乗せたフォークの先にソースの雫ができている。思わず口を開くとムニエルが差し込まれた。んんん……美味しい!
私が一口食べる間に、ウィリアムはムニエルやローストを自分の口に入れ、すごい勢いで食べている。それでいて、私が口の中のものを飲み込んだのを見計らい、シチューや小さく切ったローストを私の口に入れてくれる。
「ワインを飲む?」
「少しだけ。………ねえ、私本当に自分で食べるから大丈夫よ。ウィルはお腹が空いているんでしょう?私を下ろしてちゃんと食べて?」
「駄目。レオニーが膝にいないと食べられない」
にべもない返事に口を尖らせると、そこにまたチュッとキスされた。んもう、そんなことしたって誤魔化されないんだから。そう思った私は、別の方向から攻めることにした。
「お行儀が悪いもの。だから下ろして」
「君がいない間、食欲がなくて食事が全然出来なかったんだ。ようやく戻ってきてくれたのに離れるなんて無理だよ。礼儀作法は今日だけ無視して、大人しくここで食べて」
ちぎったパンを口に入れられ、モグモグしながら仕方なく頷いた。机を見ると、あんなにあった料理が半分以上無くなっている。何の意味があるのか分からないけれど、私が膝に乗っていることで食欲が増すなら仕方がないのかしら。そう思っていたら、ウィリアムを眠らせるために家具を移動させていたことを思い出した。
「ウィルが部屋を片付けてくれたのね。ありがとう」
「どういたしまして。あんなに重たいもの、一人で動かしたの?大変だっただろうに」
「だって、ウィルを寝かせてあげたかったんだもの。………結局私のほうが長く寝ちゃったけれど」
「ハハッ、可愛い。俺と離れて眠れなかった?」
「ん………ウィルの匂いがしない寝台じゃ眠れなかったの」
「…………レオニー。もう食事はいい?まだ食べる?」
「もうちょっと。シチューをいただきたいわ」
フーッとため息をつきながらシチューを口に運んでくれた。鹿肉がホロッと崩れて旨味が口に広がる。本当に美味しい。
二人して食べる合間にもキスしたり、私がウィリアムに頬ずりしたり。こんなに楽しい食事は初めてかも。ウィルの言うとおり、膝に乗って食事するのも悪くない。
お腹がいっぱいになって、ウィリアムにもたれながら首筋にすり寄ると、待ち構えていたかのようにキスをされる。
「レオニー…………レオノア………目が覚めた時、君が腕の中にいてくれるなんて思わなかった。……ん……嬉しくて、心臓が止まるかと思ったよ」
「ウィルったら大げさなんだから」
「大げさなものか。俺の息の根を止められるのは、レオノア………君だけだ」
あ…………ウィルが唇で唇を愛撫してくる。私、これ、すき……。たちまちぼんやりしてしまう頭の片隅で何かがチカッと光った。そうだわ!
「ん……、ウィル、ちょ、ちょっと、ま、あん、待って」
「なに……?もう我慢できない……」
「お願いだから、ほんの少しだけ。ね?」
しぶしぶとキスを中断したウィリアムは、不満げに眉を寄せている。そこを指先で撫でて眉間にキスをしたら、ようやく表情を和らげてくれた。
「少しだけしか待てないからね。さあ、なに?」
「あのね、私、ジェフリーの言う通り、思っていることをきちんと言葉で伝えることが大切だと思うの」
「ああ、そうだね」
「その、だから………ウィルも。私に対して思っていることがあるでしょう?それを教えて欲しいなって」
「…………」
「だ、だって!そうしないと悪いところを直せないわ!そのせいで不満が溜まって、ウィルに愛想つかされたりしたら、私………いやだもの」
「……………レオニー」
はあ、と息を吐いてウィリアムは私の額に額をコツンとぶつけた。
「レオノアに不満なんかない」
「そんなはずないわ!何かあるはずよ」
「例えば?」
「公爵家の嫁として相応しい振る舞いができないところとか……。私、王女として公務に就いていたとき、人と触れ合うことが好きだったから。つい同じ調子で誰とでも接してしまうの。お義母さまからは、本邸の使用人はともかく、名前も知らないような人と親しく会話してはいけないって、注意されちゃった」
「そんなことをしているの?危ないじゃないか。公務中なら護衛が張り付いていただろうけど」
「お義母さまからも同じことを言われたわ。後は……刺繍が下手なこととか」
「刺繍?」
「そうなの。私、昔から刺繍が下手で。いくら練習しても上手くならないの。フィル兄さまからはいつも揶揄われていたわ。バラを刺繍したのに『これは人参か』って。だから、私の刺繍した手巾をもらってくれるのは、お父さまとエド兄さまだけだったの」
「…………それ、今度俺にも作ってくれる?」
「ウィル、私の話ちゃんと聞いていたの?とても見せられた出来じゃないのよ」
「出来不出来の問題じゃないんだ」
「もう!……それからあとは」
「レオニー」
チュッと音をたてたキスで、次の欠点を言おうとしていた口をふさがれた。
「今君が言ったことは、全部自分で直そうとしていることだろう?それが不満なんかであるものか。俺にとっては君の全てが愛おしく、可愛らしいんだから」
「ウィル、さっきから『俺』って……」
「ああ」
もう一度キスされる。今度はゆっくり。唇から熱を注入されているよう。身体が熱くなって呼吸が浅くなる。もっと、もっと続きをしたいの……。
「父の言葉に従うのは癪だが、本当の自分を『妻』のレオノアの前では出していこうかと」
え?
「本当の自分、って」
ぱちぱちと瞬きしながら考える。そういえば、ジェフリーが何か言っていたような気がする。
「私の前では格好つけていたの?結婚したのに?」
「………そりゃあそうさ。惚れた女の前でくらいいい格好したいだろう。それくらい分かれよ」
憮然とした顔で言われる。その砕けた口調にドキドキした。
「…………レオノアには、情けないところばかり見せてしまったけど」
涙を流したことを言っているのかしら。そんなの、全然情けなくなんかないのに。
「どんなウィルでも大好きよ」
尖った口にキスをした。見つめ合ったあと、もう一度、今度は私から舌を差し込む。表面をこすり、絡め合った。ああ………。
「レオノア………このまま、いい……?」
ウィリアムが耳の後ろにキスしながら左手でお尻を触り、右手は私の上半身をまさぐっている。コルセットをつけているのに気づいたのか、焦れた様子でドレスの前ボタンを外し始めた。私はハッとして叫ぶ。
「ウィル、待って!」
ぴた、と指を止めたウィリアムが唸るような声で言った。
「また?今度は一体なに?」
「お湯を使いたいの!私、椅子や机を動かすときに汗をかいたから!」
「何だ。どうでもいいよ風呂なんて。むしろ入っていないほうがレオノアの匂いがしていい」
そう言うと鼻先を髪に埋め、スーッと息を吸った。いやーっ!
「ん……いい匂いだ。食べてしまいたい」
「いやよ、ウィル、お願い。先にお湯を使わせて」
「風呂なら後で入ろう。俺が全身洗ってあげる」
「本当にいやなの。ウィル、お願いだから」
胸の前で両手を組み、上目遣いでお願いする。一瞬怯んだ様子のウィリアムだったけれど、今日は折れてくれなかった。
「駄目だ。どうしてもと言うなら、俺が全身舐めてきれいにするから」
「…………それはいや」
「だったらこのままでいいだろう。…………ほら、もうこんなになってるんだ。待たせないでくれ」
お尻に押しつけられたウィリアムのあそこは、既に固くなり熱を持っている。私は存在を主張するそれをズボン越しにそっと握った。
「………っ、レオノア」
「ウィル。私、これ、また……舐めても、いい?」
「それは………」
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