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1.お前、何やっとんじゃ!
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緑豊かなタイオン帝国は、様々な種族が仲良く暮らしている理想的な大国である。
その帝国の頂点である現王は、金髪金目の美丈夫である竜王バイザル・タイオンだ。バイザルは膨大な竜力を持ち、善政を行っているので民からも慕われている。
そして帝国内の各領地は竜王の臣下達が治めており、彼らは種族ではなく能力のあるものが純粋に選ばれている。
その中には当然、優良種である竜人もいるが、その数は決して多くない。竜人は頑強な肉体と美しい容姿を持つ頭脳明晰な種族であり、その寿命は千年~数千年と長い。だがその反面、非常に子供が生まれにくいので種族として繁栄しずらいのだ。
現に竜王バイザルは、仲睦まじい王妃スズと千年以上連れ添っているが、子供はトカタオ王子ただ一人である。それもやっと十年前に誕生したばかりであった。
*****************************
今日は王妃スズがトカタオ王子を連れて、南の辺境地を治めているミファン領主のところに出掛ける予定である。ミファン領主はサイガ・ミファンといい竜王の乳兄弟であり、スズの親友ミア・ミファンの夫でもあった。
最近ミアが第二子となる卵を出産したので、そのお祝いも兼ねて遊びに行くのだ。
竜人は卵で出産し、一年~五年かけて夫婦で交代で抱卵し愛情をかけて孵化させる種族なのだ。本来なら抱卵している期間は家族以外に会わないのだが、スズとミアは訳あって幼い時から一緒に育っているので姉妹同然の関係であり、抱卵中だが会うことになったのである。
「いい、トカ。今日はミアおば様に会いに行くけど、大人しくしてるのよ。大切な卵が側にあるから絶対に走り回ってはいけないわ。お約束してね」
「はい、ははうえ。おやくそくします!」
元気に返事をするトカタオ王子はまだ10歳、人間でいえば分別がついている年頃であるが、竜人の10歳はまだまだ赤子の部類だ。それにトカタオ王子は幼いながらも竜力が高く、やんちゃなのでお付きの侍女達は不安しかない。
「やはり、王子様はお留守番にいたしますか?私達が責任をもってお世話をしますから大丈夫でございますよ、スズ様」
「うーん、そうしようかしら。なんか心配だし…」
「ははうえ!トカはぜったいにいきます!なんか、むずむずするのでいきたいです!」
周りの心配をよそに、絶対に行きたいと言い張る王子。母である王妃のドレスの裾を両手でガシッと握り、置いてかれないようにしている。
『普段は我が儘を言わない子なのにおかしいな』と思ったが、ミファン夫婦もトカタオに会いたがっていたので、スズは結局一緒に連れていく事にした。
ミファン夫婦へのお祝いの品と彼らの第一子であるマオへのお土産を沢山持って、いざ出発である。
ガォー!と空に向かって咆哮し、竜体になったスズが優雅に飛び立っていく。その背にはトカタオがちょこんと座っている、トカタオはまだ幼い為、長時間の飛行は出来ないのだ。
王妃の後を、護衛の竜人達が同じく竜体になって飛んでいく。巨大な竜が一同に飛ぶ様は圧巻であり、通り過ぎていく町の人々はみな、空を見上げて手を振ってくる。
竜の飛行能力は凄まじく高い、南の辺境地は馬なら三日は掛かる距離だが、スズ達はたったの二時間で到着した。
城の入口前に到着し、このままの大きさでは扉を壊してしまうので人型に戻ると、領主であるサイガが駆け寄ってきた。サイガは頑強な体を持つ竜人の中でも、とりわけ厳つい体を持った2メートルの大男だ。
「スズ様、遠いのによく来てくれた!それにトカタオ王子も。疲れただろう、早速部屋に案内させるからまずは一休みしてくれ」
「サイガ、お久しぶり。それに卵誕生おめでとう!休まなくて平気よ、それよりミアに早く会いたいわ♪」
「分かった。ミアも君に会えるのを首を長くして待っているからね」
サイガとスズは挨拶もそこそこに、ミアがいる抱卵部屋へと歩いて行く。二人は久しぶりに会った嬉しさで話に夢中になり、トカタオの様子がおかしい事に気付かなかった。なぜか城に着いてからトカタオは顔が赤くなり焦点がぼんやりしていたのに…。※注)子供から目を離してはいけません。
ミアが待つ部屋に入ると、久しぶりの再会に喜んだスズはすぐさま駆け寄ってミアを抱き締めた。
ミアも親友であるスズの存在に気を取られて、一瞬『卵』から目を離してしまった。※注)卵も目を離してはいけません。
トットットット!
素早い速さでトカタオが卵専用ベットに置いてある『卵』に向かって走っていく。
予想もしなかったトカタオの動きに、誰も反応出来なかった。
イヤ、反応している者が一人いた、違う、反応している卵が一つあったが正しい。
(いやー!なになに、そばにこないでー!なんかこわい。なんでへんなこが、ちかくにくるのよー)
卵の中で、まだ生れていないちびっこ竜人が反応している。まだ孵化前なので、外部とはコミュニケーションは取れないが、竜人なのですでに人格は形成されている。それにこのちびっこ竜人はかなり竜力が高いので、トカタオのただならぬ気配を入室前には察してた。
(イヤイヤ、なにかあぶないものがはいってくる!だれか、とめてよー)…誰も気づいてくれない、グスン。
そして、今、トカタオの腕の中に『卵』が一つ…。
「わぁーい!わぁーい!かわいいこだね。とってもいいにおいがするな♪」
(はやく、わたしをベットにもどせ!うまれたら、やってしまうぞ、われ!)
トカタオが嬉しそうに卵に頬擦りをしながら、ぎゅっと抱き締める。
周りの大人達はトカタオを止めたいが、『卵』を万が一でも落とされてはいけないので、実力行使は出来ないでオロオロている。
「トカ。母上の言った事を忘れたの?大人しくしている約束でしょ!」
「トカタオ王子、そっと私の『卵』を返してください、ねっ!」
「「「王子様、『卵』はおもちゃではありません。どうかお戻しく下さい」」」
みんな、必死に王子を宥め卵から離そうとしている。だがそんな声はまったくトカタオの耳に届いていないらしい、唯一届いていた声は卵の声であった。
「うふふ、かわいいこえだね。ぼくにあえてうれしいの?」
(どんなみみ、いやどんなあたましてんのよ!はなれろ、おばか!)
「なんかてれるなー♪」---王子よ、照れる要素は一ミリもない。
(おとしたら、しんじゃうのよ。だからこどもは、さわらないで!)
「だいじょうぶ、ぜったいにおとさないから。かわいいつがい♪」
トカタオと卵の『会話+念話』は周りには聞こえていない、正確にはトカタオのセリフしか聞こえていなかった。
なので最初は、顔が赤くなり独り言を言っているトカタオを、発熱による朦朧状態なのだと考えていた。
しかし、最後のトカタオのセリフでそんな考えは吹っ飛んだ!
(((『卵』は王子の『番』なのかーーー??!!)))
そういえば、トカタオの様子は出発前からおかしかった、何故か絶対に行くと言い張っていたし…。
竜力の高い竜人は、幼い時から『番』の気配を感じることがあると言う。普通はお互いにフェロモンが出る年頃になるまで分からないと言われているが、何事にも例外はある。
竜力が高いトカタオと卵は、その例外中の例外だったのだ。
『番』とはいえ、幼い子供に繊細な卵は、卵の物理的危機であるのには変わりがない。
(おとなたち、はやく!はやく!まずいから!わたし、しんじゃうー)
必死に卵の中で声を上げるちびっこ竜人の叫びは届いてないが、大人達も必死に卵を取り返そうとしている。
そんな様子を丸っと無視して、トカタオは『番』を更にぎゅっと抱き締める…。
(((それ、まだ卵だからやめなさいーーー!!!)))みんな一斉に心の中で悲痛な叫びをあげる。
ピッキ、ピッキ、ピッキ…!
トカタオがうっとりと抱き締め続ける卵から、嫌な音がした…。
「「「ヒィーー!!」」」
大人達の喉から哀れな音が一斉に出る。
(いや、しんじゃうー!あっ、しん…だ……)
ミファン夫婦待望の第二子、孵化前にご臨終となりました。チッーン!南無南無。
「「「お前、何やっとんじゃーー!!」」」
竜人達の凄まじい怒号がこだまする。---大人達、後悔先に立たずだよ。
その帝国の頂点である現王は、金髪金目の美丈夫である竜王バイザル・タイオンだ。バイザルは膨大な竜力を持ち、善政を行っているので民からも慕われている。
そして帝国内の各領地は竜王の臣下達が治めており、彼らは種族ではなく能力のあるものが純粋に選ばれている。
その中には当然、優良種である竜人もいるが、その数は決して多くない。竜人は頑強な肉体と美しい容姿を持つ頭脳明晰な種族であり、その寿命は千年~数千年と長い。だがその反面、非常に子供が生まれにくいので種族として繁栄しずらいのだ。
現に竜王バイザルは、仲睦まじい王妃スズと千年以上連れ添っているが、子供はトカタオ王子ただ一人である。それもやっと十年前に誕生したばかりであった。
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今日は王妃スズがトカタオ王子を連れて、南の辺境地を治めているミファン領主のところに出掛ける予定である。ミファン領主はサイガ・ミファンといい竜王の乳兄弟であり、スズの親友ミア・ミファンの夫でもあった。
最近ミアが第二子となる卵を出産したので、そのお祝いも兼ねて遊びに行くのだ。
竜人は卵で出産し、一年~五年かけて夫婦で交代で抱卵し愛情をかけて孵化させる種族なのだ。本来なら抱卵している期間は家族以外に会わないのだが、スズとミアは訳あって幼い時から一緒に育っているので姉妹同然の関係であり、抱卵中だが会うことになったのである。
「いい、トカ。今日はミアおば様に会いに行くけど、大人しくしてるのよ。大切な卵が側にあるから絶対に走り回ってはいけないわ。お約束してね」
「はい、ははうえ。おやくそくします!」
元気に返事をするトカタオ王子はまだ10歳、人間でいえば分別がついている年頃であるが、竜人の10歳はまだまだ赤子の部類だ。それにトカタオ王子は幼いながらも竜力が高く、やんちゃなのでお付きの侍女達は不安しかない。
「やはり、王子様はお留守番にいたしますか?私達が責任をもってお世話をしますから大丈夫でございますよ、スズ様」
「うーん、そうしようかしら。なんか心配だし…」
「ははうえ!トカはぜったいにいきます!なんか、むずむずするのでいきたいです!」
周りの心配をよそに、絶対に行きたいと言い張る王子。母である王妃のドレスの裾を両手でガシッと握り、置いてかれないようにしている。
『普段は我が儘を言わない子なのにおかしいな』と思ったが、ミファン夫婦もトカタオに会いたがっていたので、スズは結局一緒に連れていく事にした。
ミファン夫婦へのお祝いの品と彼らの第一子であるマオへのお土産を沢山持って、いざ出発である。
ガォー!と空に向かって咆哮し、竜体になったスズが優雅に飛び立っていく。その背にはトカタオがちょこんと座っている、トカタオはまだ幼い為、長時間の飛行は出来ないのだ。
王妃の後を、護衛の竜人達が同じく竜体になって飛んでいく。巨大な竜が一同に飛ぶ様は圧巻であり、通り過ぎていく町の人々はみな、空を見上げて手を振ってくる。
竜の飛行能力は凄まじく高い、南の辺境地は馬なら三日は掛かる距離だが、スズ達はたったの二時間で到着した。
城の入口前に到着し、このままの大きさでは扉を壊してしまうので人型に戻ると、領主であるサイガが駆け寄ってきた。サイガは頑強な体を持つ竜人の中でも、とりわけ厳つい体を持った2メートルの大男だ。
「スズ様、遠いのによく来てくれた!それにトカタオ王子も。疲れただろう、早速部屋に案内させるからまずは一休みしてくれ」
「サイガ、お久しぶり。それに卵誕生おめでとう!休まなくて平気よ、それよりミアに早く会いたいわ♪」
「分かった。ミアも君に会えるのを首を長くして待っているからね」
サイガとスズは挨拶もそこそこに、ミアがいる抱卵部屋へと歩いて行く。二人は久しぶりに会った嬉しさで話に夢中になり、トカタオの様子がおかしい事に気付かなかった。なぜか城に着いてからトカタオは顔が赤くなり焦点がぼんやりしていたのに…。※注)子供から目を離してはいけません。
ミアが待つ部屋に入ると、久しぶりの再会に喜んだスズはすぐさま駆け寄ってミアを抱き締めた。
ミアも親友であるスズの存在に気を取られて、一瞬『卵』から目を離してしまった。※注)卵も目を離してはいけません。
トットットット!
素早い速さでトカタオが卵専用ベットに置いてある『卵』に向かって走っていく。
予想もしなかったトカタオの動きに、誰も反応出来なかった。
イヤ、反応している者が一人いた、違う、反応している卵が一つあったが正しい。
(いやー!なになに、そばにこないでー!なんかこわい。なんでへんなこが、ちかくにくるのよー)
卵の中で、まだ生れていないちびっこ竜人が反応している。まだ孵化前なので、外部とはコミュニケーションは取れないが、竜人なのですでに人格は形成されている。それにこのちびっこ竜人はかなり竜力が高いので、トカタオのただならぬ気配を入室前には察してた。
(イヤイヤ、なにかあぶないものがはいってくる!だれか、とめてよー)…誰も気づいてくれない、グスン。
そして、今、トカタオの腕の中に『卵』が一つ…。
「わぁーい!わぁーい!かわいいこだね。とってもいいにおいがするな♪」
(はやく、わたしをベットにもどせ!うまれたら、やってしまうぞ、われ!)
トカタオが嬉しそうに卵に頬擦りをしながら、ぎゅっと抱き締める。
周りの大人達はトカタオを止めたいが、『卵』を万が一でも落とされてはいけないので、実力行使は出来ないでオロオロている。
「トカ。母上の言った事を忘れたの?大人しくしている約束でしょ!」
「トカタオ王子、そっと私の『卵』を返してください、ねっ!」
「「「王子様、『卵』はおもちゃではありません。どうかお戻しく下さい」」」
みんな、必死に王子を宥め卵から離そうとしている。だがそんな声はまったくトカタオの耳に届いていないらしい、唯一届いていた声は卵の声であった。
「うふふ、かわいいこえだね。ぼくにあえてうれしいの?」
(どんなみみ、いやどんなあたましてんのよ!はなれろ、おばか!)
「なんかてれるなー♪」---王子よ、照れる要素は一ミリもない。
(おとしたら、しんじゃうのよ。だからこどもは、さわらないで!)
「だいじょうぶ、ぜったいにおとさないから。かわいいつがい♪」
トカタオと卵の『会話+念話』は周りには聞こえていない、正確にはトカタオのセリフしか聞こえていなかった。
なので最初は、顔が赤くなり独り言を言っているトカタオを、発熱による朦朧状態なのだと考えていた。
しかし、最後のトカタオのセリフでそんな考えは吹っ飛んだ!
(((『卵』は王子の『番』なのかーーー??!!)))
そういえば、トカタオの様子は出発前からおかしかった、何故か絶対に行くと言い張っていたし…。
竜力の高い竜人は、幼い時から『番』の気配を感じることがあると言う。普通はお互いにフェロモンが出る年頃になるまで分からないと言われているが、何事にも例外はある。
竜力が高いトカタオと卵は、その例外中の例外だったのだ。
『番』とはいえ、幼い子供に繊細な卵は、卵の物理的危機であるのには変わりがない。
(おとなたち、はやく!はやく!まずいから!わたし、しんじゃうー)
必死に卵の中で声を上げるちびっこ竜人の叫びは届いてないが、大人達も必死に卵を取り返そうとしている。
そんな様子を丸っと無視して、トカタオは『番』を更にぎゅっと抱き締める…。
(((それ、まだ卵だからやめなさいーーー!!!)))みんな一斉に心の中で悲痛な叫びをあげる。
ピッキ、ピッキ、ピッキ…!
トカタオがうっとりと抱き締め続ける卵から、嫌な音がした…。
「「「ヒィーー!!」」」
大人達の喉から哀れな音が一斉に出る。
(いや、しんじゃうー!あっ、しん…だ……)
ミファン夫婦待望の第二子、孵化前にご臨終となりました。チッーン!南無南無。
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