あなたの『番』はご臨終です!

矢野りと

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16.王子観察~午前の部①~

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王子の午前中の予定はタイオン帝国の妙齢な令嬢達とのお茶会といういう名のお見合いパーティーであった。
竜人の寿命は千年~数千年と幅が広い為、成長度合いも竜人によって大分差がある。いま110歳のトカタオは竜力が高いせいか早熟で、見た目も子供ではなく青年になっている。そのうえ綺麗な顔立ちに優しい微笑み、優秀な王子で次代の竜王とくればモテないわけはない。王子と結婚したい様々な種族の令嬢達がこれ以上ないくらい着飾ってこのお茶会に臨んでいるのだ。
王宮の庭園で1対200の壮絶なお茶会が繰り広げられている。




そして今、王子観察中のララルーアとにんにんは身体中に葉っぱをつけて庭園にある茂みの中にいる。

---どうしてこのような状況になったかというと---
お茶会が始まる前に庭園に到着した二人はすぐさまベスト観察スポットだと紙に書かれていたこの茂みに身を隠した。茂みの中にはちょっとした空間があり、そこには変身セット袋と水筒と手紙が置かれてあった。まずは手紙を開けて読んでみることにした。

【ララ様、にんにんへ
ララ様の可愛いピンクの肌とにんにんの赤毛は緑あふれる庭園では目立つかもしれません。この変身セット袋に入っている葉っぱをつけて茂みの緑になりきって観察に励んでください。
それに水分はこまめにとって、脱水症状にならないようにお気を付けください。
ドウリアより】

早速ララとにんにんはドウリアが用意してくれた変身セットで変身することにした。背中はお互いに葉っぱをつけ合い全身くまなくつけてみた。本人達は『完璧!』『ウッキッキー』とご満悦だが、この変身セットによってできたのは、緑の茂みの擬態ではなく【丸いクリスマスツリー】と【小さなクリスマスツリー】だった。
ララのキラキラ輝くピンクの肌とにんにんの赤毛は、葉っぱをつけても全てを隠すことなどできず、チラチラと元の色が見えるので、逆に目立っている…。変身は完全に失敗だった。だがその事に気づいていない二人はそのまま観察を開始する。
----------


王子の前には令嬢達がズラリと一列に並んで、挨拶の順番を待っていた。列の最後の令嬢ははるか遠くにいるので見る事はできない。
トカタオ王子は優し気な微笑みを浮かべ、着飾った令嬢一人一人に平等に話し掛けている。

「アマン嬢の今日のドレスは庭園の花のように色鮮やかですね」
「まあ、有り難うございます。トカタオ様に褒めていただけて嬉しいですわ」

二人は見つめ合い、甘い空気が漂ってくるようだ。すると次の令嬢が待ち切れずにアマン嬢の前に入り、王子に挨拶をする。
「お久しぶりでございます。私、トカタオ様に会える今日のお茶会をとても楽しみにしておりました」
「私もです。ヒスイ嬢は素敵な髪型をしていますね、宝石が散りばめられて輝いてます」
「トカタオ様のために頑張りました。気に入ってもらえて嬉しいですわ」

このような模範的美辞麗句をトカタオがいい、令嬢が嬉しさのあまり顔を赤く染めるという遣り取りが永遠と続いている。
1対200なので、お茶会が始まって一時間以上経つがまだ全員と話していないようだ。



「にんいん、なんかおかしくない?なんで令嬢達はあの噓の仮面と心のこもってない言葉に喜んでいるのかな?みんなSM趣味なの?」
「ウッキッキー、ウキウキー。キキキウキー」
「やっぱりにんにんもそう思うよね」

ララは観察ノートに、王子の行動・言動・観察から考えられる自説をせっせと書き込んでいく。
【〇月×日 
時間ー午前 場所ー王宮庭園
王子は令嬢達と集団SMお見合いを行う。
作り笑顔と心のない言葉で令嬢達をいたぶり、顔を赤くした令嬢達は嬉しさに悶える。
彼らは通常の感覚はなく、ちょっと変態なのかもしれない。
※要注意 普通の呪いでは王子を逆に喜ばせる可能性あり】


熱心に観察を続けていると、いつの間にか全員の令嬢と一通り話し終わったようだ。広い庭園には沢山のテーブルが用意されていて、令嬢達もそれぞれ席に座りお茶を楽しんでいる。
その中の一つのテーブルにトカタオと五人の令嬢達が座り、お茶とお菓子を楽しみながら会話をしている。五人の令嬢達はみんな派手に着飾りギラギラした目で王子を見つめている、その令嬢達のなかにはあのアマン嬢とヒスイ嬢もいる。
王子の右隣の席をゲットしたアマン嬢は『あら、トカタオ様髪に糸くずがついてますわ』などと言い、王子にボディータッチをしている。王子もそんなアマン嬢の優しさに頬を赤く染め『優しいですね、有り難う』と言っている。
左隣に座っているヒスイ嬢に至っては、『トカタオ様、私なんか眩暈がします。あ~れ~』と言って王子の胸に勢いよく飛び込み抱き着いていた。王子は逞しい胸でヒスイ嬢を受け止め『ヒスイ嬢は華奢なんですね』と言いながら護衛のカイを呼びつけヒスイ嬢を休憩室に運ぶ手配をしている。そして護衛騎士カイによって運ばれていくヒスイ嬢の後姿を名残惜しそうに見つめ続けていた。



それを見ていたララは、なんだか急に胸がムカムカしてきた。

(う~ん、どうしたのかな?おやつは少しづつと言われたのに一気に食べちゃったからかな~)

どうやらドウリアが持たせてくれたおやつを食べ過ぎたみたいだ、確かにポヨンお腹がポヨヨンになっている。
にんにんは『ウッキッキウー』と言いながらララのお腹の肉を摘まんでいる。

「分かっているわよ、にんにん。明日からダイエットするもん!乙女のお腹は触っちゃ駄目ー」

ミニ猿にんにんに『これはちょっと不味いですよ』と指摘され慌てるララルーア。ちびっことはいえミニ猿に駄目だしされる竜人はララルーアだけだろう。---頑張ろうね、ララ。
ララとにんにんはなぜ意思疎通が出来ているのか?なぜならにんにんもララ同様感情表現豊かでジェスチャー付きで会話する猿だったからだ。お互いに気づいてないが、この二人かなり似た者同士なのだ。

「にんにん、私なんか食べ過ぎてムカムカするから午前の観察お茶会を終わらせようと思うの。協力してくれる?」
「ウキー!」
「ありがとう。じゃあね、この液体をそっと王子のテーブルに置いてあるティーポットに入れて欲しいの。にんにんできるかな?」
「…ウ、ウキ…」

ララが差し出した怪しい小瓶を前に自信なさげに頷くにんにん。どんなに賢くてもミニ猿一人で出来る作業ではない、ペットの限界というものを考えて欲しいものである。それにその小瓶の中身も気になってしょうがない。

「ウッキッキウウキー?」
「これはただの下剤よ。お腹がゴロゴロピーになるだけだから問題ないよ!」

確かにお腹がゴロゴロピーになったら、お茶会は解散となり観察はひとまず終了となるだろう。だがそこまでしてお茶会を解散する必要はあるのだろうか…。いや、ないだろう。
だがムカムカが止まらないララは、兎に角、お茶会解散=観察一時中止に持って行こうとしている。

困ったにんにんは『僕が下剤をなんとか入れるから、ララがまずみんなの気を引きつけて!』と注文を出す。
ララは『うーん、それは難しい注文だわ』と考え込んでいる、ミニ猿には無茶ぶりをしたくせに自分は悩んでいる…。

「閃いた!私、この葉っぱでの変身を活かして動く茂みのふりをするわ。みんなが私に注目している間ににんにんがそっと入れるの」
「ウ、ウキキー?」

動く茂みがいたら注目どころではない、直ちに騎士団に捕獲されること間違いなしだ。それに茂みではなく季節外れのクリスマスツリーになっているので余計怪しい。にんにんは飼い主であるララの安全を心配して頷けないでいる。

話に夢中になっている二人は隠れている茂みに入ってくる人物に気づいてなかった。
カサカサと音と同時にがバッ、と後ろからララルーアが何者かに拘束された!



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