あなたの『番』はご臨終です!

矢野りと

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24.王子観察~午後の部④~

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ガツン! ガツン!

「「痛っー!」」

遅れてきたトカタオとカイの頭に団長の容赦ない拳骨が下ろされ、あまりの痛さに二人とも悶絶している。

「オイ!遅れてきて挨拶もなしとはいい度胸だな。お前達、蟻地獄の刑にしてやろうか、あぁん!」

騎士団では誰であろうと特別扱いはされない、王子もここではただの騎士に過ぎないのだ。
そして蟻地獄の刑とはタイオン帝国騎士団で一番恐れられている処罰で、みなが訓練している間中、観覧席にいる令嬢達の相手を永遠し続けるのだ。
羨ましい?とんでもない誤解である、飢えた令嬢達の中に優良物件である騎士が放り込まれたらどうなるかお分かりだろうか?遠慮なく令嬢達は群がり、騎士道があるため女性に手を上げないのをいいことに令嬢達は集団であんな事やこんな事をしまくるのである。この刑を受けた騎士はこれがトラウマになり、【男性への扉】を開く者が続出するという大変危険な刑なのだ。

「「遅れて申し訳ありません!蟻地獄以外ならどんなことでもやらせてください!」」

トカタオとカイは姿勢を正してバロン団長の前に並び、処罰が告げられるのをビクビクしながら待っている。
細マッチョで美青年竜人トカタオと細マッチョで優し気な好青年竜人カイが蟻地獄の刑を受けた後は、間違いなくその世界のスターになるだろうが、現時点では二人はそうなることは望んでいない。どんなことをしてもそれだけは回避したかった。

「分かった。では二人には今日戦闘訓練で姫を守るという重要な役を任せるから絶対にミスをするな!ミスしたら即座に蟻地獄へ放り込むからな」
「「了解しました!」」
「みんなにはもう詳細を説明してある。お前達は姫から直接聞いて準備しておけ」

なんとか蟻地獄の刑は免れたが、まだ油断は出来ない。今日の訓練でミスをしたら蟻地獄行きは確定してしまうのだ、気を引き締めて臨むことにした。

「トカ様良かったですね。今日の訓練は決してミスしないように気をつけましょう!ところで姫とは誰ですか?」
「俺も知らん。早速、姫らしい人物を見つけて訓練の詳細を聞こう」


ポンポン、ポンポン、ポンポン。

トカタオは足にララの尻尾が当たっているのに気づいたが、急いで姫を探さないといけないので無視することにした。

ボンボン!ボンボン!ボンボン!
ガリガリガリガリ、ガリガリガリガリ。

ララの威力アップ尻尾攻撃+にんにんの爪ガリガリ攻撃のダブル攻撃を受け、トカタオはさすがに無視し続けることが出来なくなった。

「や・め・ろ!俺は今から姫を探して訓練に参加するから忙しんだ。邪魔するな」

なぜかララはトカタオの言葉を無視して、目の前を行ったり来たりしてモデルウォークを始めている。
歩きながら腰をくねくね、ハイポーズ。ターンをしたらウィンクをパチリ♡

「…なにしてんだ、ちびっこ」
「あらあらどこに目があるのかしら~。目の前に可愛いララ姫がいるのに見えないなんてお馬鹿さんよね」
「……姫・だ・と。まさかの事じゃないよな?」
「あらあら馬鹿はどこでも本領発揮なのね~。ララ姫は私よ!それ以外誰がいるんじゃい」
「なんでそうなったんだ…。ちびっこと一緒に戦闘訓練なんて無茶だろうが!」
「大丈夫!設定はこうよ。ララ姫とにんにん弟王子はその可愛さゆえに悪の軍団ショッカーに狙われているの。その魔の手から守り通すのが騎士達の使命よ。王子は私の専属騎士だから半径五メートル以内で必ず守ること!カイは弟王子の専属騎士よ。無事守り通せたご褒美は勝利のキスよ。キャー♪なんか照れるな、エヘヘ」

かなりの脚色が入っているが大筋が合っているので、周りの騎士達も訂正せずに頷いている。---女の子はいつでも夢見がちな生き物だ。

(この設定は本気マジか…。だがやるしかないな、蟻地獄は絶対に回避だ!新たな扉も封印だ!)

トカタオは蟻地獄回避と後ろの貞操を守る為なら何でも出来る男だった。


いつの間にか周りには善チームの騎士達が集まり、ララ姫の専属騎士役であるトカタオの言葉を待っていた。もうやけくそになったトカタオも周りに合わせて早く訓練を終了させる道を選んだ。


「よし、分かった。野郎ども、全力で悪の軍団を倒すぞ!我らのララ姫とにんにん王子を守り通して勝利を勝ち取るぞー!」
「「「ウオオーーー!!!」」」

ララルーアのオリジナル設定にどっぷりハマっている善チームのムキムキ雄叫びが訓練場に響き渡っていた。---男の子はヒーローごっこが好きな生き物あほだった。
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