どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと

文字の大きさ
14 / 71

14.真相の究明③

しおりを挟む
「お姉様、挨拶が済んだならもうお部屋に戻られたらどうですか……」

睨むように見ているが、その口調は強くなかった。もともとルーシーはきつい言い方が出来るような子ではない。

私はなにも答えずにいた。
妹を無視していたわけではなく、ただ妹の隣にいるガイアから目が離せなかった。

彼の冷たい眼差しが揺らぐことはない。

でもその瞳の奥深くに、他の感情を探そうとしてしまう。

 あなたが以前抱いてくれていた想いはどこにあるの?
 消えてなんかいないわよね?
 ガイア、どうか思い出して…。
 きっとあるはずなの、心の奥にあの想いが。
 
 …だって私達は愛し合っていたわ。
 

彼の冷たい視線と私の縋るような視線。

意図せずに見つめ合うような形になっている。

全てを諦めていた時とは違う。
今はまだ一方通行だとしても辛さだけじゃなかった。わずかだが希望があるから。


彼に声を掛けようかと迷っていると、彼の腕から離れずにいるルーシーが口を開いた。

「ガイアロス様だってがいたら、気を使って楽しめなくなりますわ。そんなことも分からないのですか?!
お姉様は昔から賢いと褒められてきたくせに…。
少しは空気を読んでください!そんな事もできないなんて恥ずかしくないんですか!」

さっきとは違って責めるような口調。
あまりの言い様に思わず姉として注意をしてしまう。

「ルーシー、そんな言い方は良くないわ。以前のあなたは優しい話し方をする子だったのに…」

そこには妹を心配する以外の思いはなかった。
だがルーシーはそう受け取らなかった。

「やめてください、私のことを心配するふりしてまで、ここに居続けたいのですか…。
いったい何をしたいの?
そんな目で私の婚約者を見ないで!
もう無駄なんですよ。お姉様は……もう魅了は使えない、封じられてしまったのだから!」

目の前にいるのは『お姉様』と慕ってくれていた可愛い妹ではなかった。
ルーシーは婚約者を取られまいとする一人の女性だった。

あのとき見てしまった『恋をしている』と感じた妹の表情を思い出す。
忘れようとしていたのに…。


「私は魅了なんて使ってないわっ」

 …使っていない。
 今だって昔だって、一度たりとも。
 
 それにそんな目でガイアを見ないでっ。
 お願い…ルーシー。



誰も私の言葉を信じてはくれない。
ルーシーに続き父も母もガイアも責めるような言葉を投げつけてくる。


分かっている、まだ何も変わっていないのだから…。


 ……もう少し、もう少しの我慢よ。
 これはきっと今だけだから…。
 お父様、お母様、ガイア。

 そうよね…?……大切な妹ルーシー。


彼らからの罵倒を背に受けながら居間から出ていく私は気づかれないようにそっと涙を拭いていた。

『こんなことも、きっとこれが最後…』だと自分自身に言い聞かせながら。
でも心には新たな不安が芽生えていた。 


**********************
お気入り登録・感想有り難うございます♪
執筆の励みにさせて頂いております( ꈍᴗꈍ)

読んで頂いている読者様への感謝を込め、今日は連続投稿してみました(*´ω`*)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

〈完結〉デイジー・ディズリーは信じてる。

ごろごろみかん。
恋愛
デイジー・ディズリーは信じてる。 婚約者の愛が自分にあることを。 だけど、彼女は知っている。 婚約者が本当は自分を愛していないことを。 これは愛に生きるデイジーが愛のために悪女になり、その愛を守るお話。 ☆8000文字以内の完結を目指したい→無理そう。ほんと短編って難しい…→次こそ8000文字を目標にしますT_T

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

それは確かに真実の愛

宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。 そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。 そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。 そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……? 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

処理中です...