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38.交換条件②
「普通は掛けた魔術が解術せずに解けることはない。だが今回は一部では僅かに綻びが出ている。勿論神官達が意図して行ったものではない偶然の産物だ。それが時間の経過とともにどうなっていくのか知る必要がある。魔術を安全に管理する為にも知ることは重要なことだ。
だからシシリアにはこの国から離れてほしい」
「離れる…ですか?
解術しない目的は分かりました、ですがなぜ私がこの国を出なければいけないのですか…」
ゲート伯爵家を出た後は少し離れた修道院にでも身を寄せ、影からそっと大切な人達を見守るつもりでいた。
この国から出るなんてこと考えたこともなかった。
「解術はせず魔術がどうなっていくか、純粋に術の影響の変化のみを観察したい。
君に掛かっている術はあの時点で君に好意を持っていた者限定で影響が出ている、だからそれ以降に好意を持っても影響はない。君がこの国にいるといつかこの状況に違和感を感じた者がなにかしら行動を起こす可能性もあるかもしれない。そうなると観察の邪魔となる。
だから君はこの国から出て欲しい」
「………」
頷けはしなかった。黙ったままの私にルカ様は更に言葉を重ねてくる。
「不安要素をそのままにはできない。それに君のことはマイナスで責任を持って保護するつもりだ」
保護という言葉を使っているが、実際は研究対象にするということだ。
酷い扱いを受けるとは思わないけれども、大切な人達から離れるのは辛い。
「この国を出てマイナスまで行かなくてはいけないのですか?そこまで遠くなくても…」
ルカ様から『申し訳ないがこれ以上の譲歩はできない』とはっきりと告げられる。
「だが君の大切な者達のことはこちらが責任を持って見守る。
術の影響を強く受けている一部の者達の術が不自然に緩み、彼らが手に入れるに相応しい平穏が崩壊しそうだと判断した場合は我々が正しい形で術の上書きをすることも考えている。
君が望む彼らの平穏が崩れたら、利害の一致もまた成り立たないからな」
マイナスの魔術師達が行うのは出鱈目なんかではない、私の望みは永遠に続くことになる。つまり私は一生拒絶される。
彼からの申し出を断る理由はない、これで大切な人達を守れるのだから。
利害は完全に一致した。
だから告げる言葉はこれしかない。
「ルカ様、よろしくお願いします」
彼の目を真っ直ぐ見つめると『覚悟は出来ているんだな…』ともう一度彼は静かな口調で問うてきた。
『最後に逃げ道を残してくれたんだな…』と感じた。
ルカ様は厳しいけれど、やはり優しい人だ。
でも私の覚悟は決まっている、考えは変わらない。
「はい、覚悟は出来ています」
「では利害は一致した、解術はしない案で進めていく。これは決定時事項だ、何があろうとも覆ることはない」
彼はそう言ったあとに、これからのことを詳細に伝え始めた。
マイナスではどのような扱いになるのか、どんな生活を送れるのか、こちらから質問することがないくらい丁寧に話してくれる。
正直実感はまだない、どうなるのか想像もつかない。
前だけを見ていこう。
もう振り返ることは許されないのだから。
自分で選んだことだから。
込み上げてくる思いを無理矢理抑えつけ、彼が話してくれる今後の予定に集中しようとする。
でも正直頭に入ってこなかった。
感情を抑えるだけで精一杯だったから。
「話しは以上だ。シシリア、なにか質問はあるかな」
「…いいえ何もありません。ありがとうございます」
早くここから立ち去ることばかり考えていた。彼の前でみっともない私を見せたくない。
「では私の方から最後に一言だけ。解術しないという判断は間違っていると今でも思っている。ただしこれは文官という立場でのこと。
友人としての私の考えは違う。
シシリア、君の判断を否定しない。自分の犠牲一つで大切な家族が救われるのなら、正しくないと分かっていても私も違う道を選ぶかもしれないと思う。
人は感情があるからこそ『人』でいられる、そして絶対に感情に惑わされないと言える者なんて誰もいない。
シシリア、君はこの判断を後悔することになるかもしれない。だが自分が出来る事を何もせずに後悔するよりはいいだろう」
力強い言葉が私の背中を優しく押してくれるようだった。
救われた気がした。
私は誰かにこう言って貰いたかったのだわ。
不安だった、守りたいけれどこれでいいのかと…。
一人で抱えて苦しかったずっと……ずっと…。
気づけば目から涙が零れている。
彼は私に近づいては来ない。でもなぜか抱きしめられているような温かさを感じさせてくれた。
だからシシリアにはこの国から離れてほしい」
「離れる…ですか?
解術しない目的は分かりました、ですがなぜ私がこの国を出なければいけないのですか…」
ゲート伯爵家を出た後は少し離れた修道院にでも身を寄せ、影からそっと大切な人達を見守るつもりでいた。
この国から出るなんてこと考えたこともなかった。
「解術はせず魔術がどうなっていくか、純粋に術の影響の変化のみを観察したい。
君に掛かっている術はあの時点で君に好意を持っていた者限定で影響が出ている、だからそれ以降に好意を持っても影響はない。君がこの国にいるといつかこの状況に違和感を感じた者がなにかしら行動を起こす可能性もあるかもしれない。そうなると観察の邪魔となる。
だから君はこの国から出て欲しい」
「………」
頷けはしなかった。黙ったままの私にルカ様は更に言葉を重ねてくる。
「不安要素をそのままにはできない。それに君のことはマイナスで責任を持って保護するつもりだ」
保護という言葉を使っているが、実際は研究対象にするということだ。
酷い扱いを受けるとは思わないけれども、大切な人達から離れるのは辛い。
「この国を出てマイナスまで行かなくてはいけないのですか?そこまで遠くなくても…」
ルカ様から『申し訳ないがこれ以上の譲歩はできない』とはっきりと告げられる。
「だが君の大切な者達のことはこちらが責任を持って見守る。
術の影響を強く受けている一部の者達の術が不自然に緩み、彼らが手に入れるに相応しい平穏が崩壊しそうだと判断した場合は我々が正しい形で術の上書きをすることも考えている。
君が望む彼らの平穏が崩れたら、利害の一致もまた成り立たないからな」
マイナスの魔術師達が行うのは出鱈目なんかではない、私の望みは永遠に続くことになる。つまり私は一生拒絶される。
彼からの申し出を断る理由はない、これで大切な人達を守れるのだから。
利害は完全に一致した。
だから告げる言葉はこれしかない。
「ルカ様、よろしくお願いします」
彼の目を真っ直ぐ見つめると『覚悟は出来ているんだな…』ともう一度彼は静かな口調で問うてきた。
『最後に逃げ道を残してくれたんだな…』と感じた。
ルカ様は厳しいけれど、やはり優しい人だ。
でも私の覚悟は決まっている、考えは変わらない。
「はい、覚悟は出来ています」
「では利害は一致した、解術はしない案で進めていく。これは決定時事項だ、何があろうとも覆ることはない」
彼はそう言ったあとに、これからのことを詳細に伝え始めた。
マイナスではどのような扱いになるのか、どんな生活を送れるのか、こちらから質問することがないくらい丁寧に話してくれる。
正直実感はまだない、どうなるのか想像もつかない。
前だけを見ていこう。
もう振り返ることは許されないのだから。
自分で選んだことだから。
込み上げてくる思いを無理矢理抑えつけ、彼が話してくれる今後の予定に集中しようとする。
でも正直頭に入ってこなかった。
感情を抑えるだけで精一杯だったから。
「話しは以上だ。シシリア、なにか質問はあるかな」
「…いいえ何もありません。ありがとうございます」
早くここから立ち去ることばかり考えていた。彼の前でみっともない私を見せたくない。
「では私の方から最後に一言だけ。解術しないという判断は間違っていると今でも思っている。ただしこれは文官という立場でのこと。
友人としての私の考えは違う。
シシリア、君の判断を否定しない。自分の犠牲一つで大切な家族が救われるのなら、正しくないと分かっていても私も違う道を選ぶかもしれないと思う。
人は感情があるからこそ『人』でいられる、そして絶対に感情に惑わされないと言える者なんて誰もいない。
シシリア、君はこの判断を後悔することになるかもしれない。だが自分が出来る事を何もせずに後悔するよりはいいだろう」
力強い言葉が私の背中を優しく押してくれるようだった。
救われた気がした。
私は誰かにこう言って貰いたかったのだわ。
不安だった、守りたいけれどこれでいいのかと…。
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