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42.ルカディオ・アルガイド②〜ジェイク視点〜
いつものように近くで待機していると『これを魔術で送ってくれ』と声が掛かった。
素早く近づき封がされた報告書を受け取り、いつものように呼び掛けてしまった。
「はい、ルカディオ殿下。…あっ、」
『しまった…』を思ったがもう後の祭りだ。
目の前にいる人物はわざと眉を顰めてみせる。
「ここではただのアルガイドだ、殿下はよせ」
「申し訳ありません、つい…。
アルガイド様、失礼しましたっ!」
まずい、減給レベルの失敗だ。
普段ならこんなミスは絶対にしない。
この失敗は俺のせいだけではない…と思う。殿下がいつもと違うからそちらに気がいってしまった結果だ。
確かに俺のミスです…。
でも半分は殿下のせいですからっ。
だがそんな言い訳ができるはずもない。
いくら幼馴染でといっても臣下の立場なのだから。
とりあえず『急いで送りますので!』と逃げるように部屋から出いくことにした。
後ろからは苦笑いしながら『今度間違えたら、減給ものだぞ』と殿下が言っていたが…聞こえないふりをしておこう。
殿下はこの国ではマイナスの文官ルカディオ・アルガイドと名乗っているが、母国ではただの『ルカディオ』だ。マイナスでは王族は名字を持たないので、第六王子である殿下も当然名字はない。
外国に出る時は母方の旧姓を便宜上使っている。身分を偽るという意味よりも、殿下曰く『動きやすいから丁度いい』らしい。
魔術で報告書を送ったあとは、すぐにアルカイド様に完了の報告をする。
「ア・ル・ガ・イ・ド・様、送付は問題なく完了しました」
ちょっとだけ前半部分の声音を強くする。もう間違えませんからという意味を込めてだ。
「…ジェイク、子供っぽい真似はやめろ」
…やめません。先ほど間違えたのだって殿下らしからぬ行動のせいですから、責任の半分は殿下にあります。
殿下は気づいていないだろうな。
自分の行動がいつもとは違うことに。
いつもの殿下なら平和的に第一案を選ばせていたはずだ。それがマイナスにとって一番望んでいた案だったのだから。
でも第三案に変更をした。問題はない、どれになっても対応できる用意はあったのだから。
けれども『いつもと違う選択をしたという事実』に意味がある。
…たぶん俺の勘は間違っていない。
「シシリア嬢には私から話しておきましょうか?長旅なのでお伝えする時間なら十分ありますので」
俺はシシリア嬢をマイナスへ連れてくる役目を与えられている。
だから『マイナスでのルカディオ殿下の立場』について知識として話しておいたほうが良いかと聞いてみた。
答えは俺の予想通りだった。
「いや、私の口から直接伝える。余計なことは話さないでくれ」
いつもなら俺は『はい』と答えるだけだ。
でも今日は頭の固いルカディオ殿下のためにわざととぼけた質問をする。
「余計なこと…ですか?いつもの貴方様なら『事前に伝えておくほうが手間が省けて良い』と言うと思っていましたが……」
「……別にどちらでも問題はないだろう」
殿下の表情は変わらない。
このやり取りの違和感に疑問すら抱いていない。
「はい、勿論問題はありません。ただ珍しいなと思っただけですから。では私も準備のために失礼します」
そう言って殿下のそばから離れていく。
ルカディオ殿下は優秀だ。頭が固すぎるところはあるが、気さくで人柄も申し分ない。
だが欠点もあることに今気づいた。
殿下は自分のこと、それも色恋限定で大変鈍いようだ。
自分がシシリア嬢のことを特別に気にかけ始めていることに全く気づいていない。
…よりにもよってなんで彼女なんだ。
好きな人がいる相手なんて厄介なのに。
…俺はどうするべきなんだ?
今の状況では鈍い殿下が自分の気持ちに気づくことはないだろうし、彼女に受け入れられることもないだろう。
つまり殿下の遅すぎる春が花開く可能性はほぼゼロだ。
…俺では手に負えそうもない。
新たな悩みを抱え『この分も増給してくれないかな』と真剣に考えていた。
素早く近づき封がされた報告書を受け取り、いつものように呼び掛けてしまった。
「はい、ルカディオ殿下。…あっ、」
『しまった…』を思ったがもう後の祭りだ。
目の前にいる人物はわざと眉を顰めてみせる。
「ここではただのアルガイドだ、殿下はよせ」
「申し訳ありません、つい…。
アルガイド様、失礼しましたっ!」
まずい、減給レベルの失敗だ。
普段ならこんなミスは絶対にしない。
この失敗は俺のせいだけではない…と思う。殿下がいつもと違うからそちらに気がいってしまった結果だ。
確かに俺のミスです…。
でも半分は殿下のせいですからっ。
だがそんな言い訳ができるはずもない。
いくら幼馴染でといっても臣下の立場なのだから。
とりあえず『急いで送りますので!』と逃げるように部屋から出いくことにした。
後ろからは苦笑いしながら『今度間違えたら、減給ものだぞ』と殿下が言っていたが…聞こえないふりをしておこう。
殿下はこの国ではマイナスの文官ルカディオ・アルガイドと名乗っているが、母国ではただの『ルカディオ』だ。マイナスでは王族は名字を持たないので、第六王子である殿下も当然名字はない。
外国に出る時は母方の旧姓を便宜上使っている。身分を偽るという意味よりも、殿下曰く『動きやすいから丁度いい』らしい。
魔術で報告書を送ったあとは、すぐにアルカイド様に完了の報告をする。
「ア・ル・ガ・イ・ド・様、送付は問題なく完了しました」
ちょっとだけ前半部分の声音を強くする。もう間違えませんからという意味を込めてだ。
「…ジェイク、子供っぽい真似はやめろ」
…やめません。先ほど間違えたのだって殿下らしからぬ行動のせいですから、責任の半分は殿下にあります。
殿下は気づいていないだろうな。
自分の行動がいつもとは違うことに。
いつもの殿下なら平和的に第一案を選ばせていたはずだ。それがマイナスにとって一番望んでいた案だったのだから。
でも第三案に変更をした。問題はない、どれになっても対応できる用意はあったのだから。
けれども『いつもと違う選択をしたという事実』に意味がある。
…たぶん俺の勘は間違っていない。
「シシリア嬢には私から話しておきましょうか?長旅なのでお伝えする時間なら十分ありますので」
俺はシシリア嬢をマイナスへ連れてくる役目を与えられている。
だから『マイナスでのルカディオ殿下の立場』について知識として話しておいたほうが良いかと聞いてみた。
答えは俺の予想通りだった。
「いや、私の口から直接伝える。余計なことは話さないでくれ」
いつもなら俺は『はい』と答えるだけだ。
でも今日は頭の固いルカディオ殿下のためにわざととぼけた質問をする。
「余計なこと…ですか?いつもの貴方様なら『事前に伝えておくほうが手間が省けて良い』と言うと思っていましたが……」
「……別にどちらでも問題はないだろう」
殿下の表情は変わらない。
このやり取りの違和感に疑問すら抱いていない。
「はい、勿論問題はありません。ただ珍しいなと思っただけですから。では私も準備のために失礼します」
そう言って殿下のそばから離れていく。
ルカディオ殿下は優秀だ。頭が固すぎるところはあるが、気さくで人柄も申し分ない。
だが欠点もあることに今気づいた。
殿下は自分のこと、それも色恋限定で大変鈍いようだ。
自分がシシリア嬢のことを特別に気にかけ始めていることに全く気づいていない。
…よりにもよってなんで彼女なんだ。
好きな人がいる相手なんて厄介なのに。
…俺はどうするべきなんだ?
今の状況では鈍い殿下が自分の気持ちに気づくことはないだろうし、彼女に受け入れられることもないだろう。
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