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12.残酷な言葉②〜側妃視点〜

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私が見間違えるはずがなかった。

――あの髪色、あの目、そしてあの笑顔。


すべてが二年前と変わらない。

今日の参加者は多いのですべての者が国王に挨拶する機会を与えられてはいなかった。彼もその一人だったのだろう。
だからアンレイ様に言われるまで気が付かなかった。

彼は私のほうを見ていない。隣りにいる女性しか目に入っていない様子だった。

きっと彼女は彼の妻なのだろう。
彼女の腰に手をやり、その膨らんだお腹に優しく手を当てながら、彼女の耳元で何かを囁いている。
そして彼の言葉を聞いて彼女が微笑むと、二人は軽く口づけを交わす。


 あなたは幸せなのね…。

――願いが叶った。

『あなたの幸せを心から祈っています』と綴った私の気持ちに偽りはない。


ほら彼のところに行くのよ。
『お久しぶり、幸せそうね』と言うのでしょう?
そして『君も幸せそうで良かった』と言ってもらって……。
そして、…それから…………。


もし会えたらそうしようと決めていたのに足が動かない。
彼の、いいえ彼らの姿がぼけてて見える。

涙を零さないでいられたのは側妃としての矜持だろうか。

私はそっと幸せな彼らから目を逸らす、…もう私と彼は関係はない。

 ……困らせたくはないわ。



「さっきから見ていたんだが、あの二人は本当に仲睦まじくて微笑ましい。身重の妻を優しく気遣う夫とそんな夫を心から信頼して甘えている妻。愛情がこちらにも伝わって、見ていると私まで幸せな気持ちになる」

アンレイ様は二人から視線を外すことなく、にこやかに話し続ける。

その夫が誰なのか知らないから、それも仕方がない。
悪気はない、ただ酔っているから口が軽くなっているだけ。

 …意味なんてない。

ギリッと唇をきつく噛み締めながら、ただの戯言と聞き流す。

 …大丈夫、こんなことで傷ついたりしない。

私はこの二年間なんでも乗り越えてきた。


で本当にお似合いの二人だ。によって結ばれたんだろうな」

アンレイ様は笑いながら『あの二人に乾杯だ!』と言って、手にしていたグラスを傾けと喉を潤す。



――『幸せそう』?

それを私から奪ったあなたが言うのっ…。

――『真実の愛』?

では私のは何だったというのっ。

 あなたの側妃となる為に諦めたあの想いを汚さないでっーーーー。



彼は酔っている。
だからつい本音が出ただけ、悪気はない。

……でもね、彼の隣には私がいたはずなのよ。
あなたがミヒカン公爵と手を結ばなければっ。

 それなのに、それなのに……!
 

――許せない。

人の心はこんなにも些細なことをきっかけに変わるのだと知った。アンレイ様に今まで嫌悪などなかった、同志のように感じていた。

でも今は彼の無神経さが憎い。



私の事情なんて知らなかったのだろう。
でも国王である彼ならば簡単に調べることは出来たはず。
――それなのに調べなかった。

彼は王妃を取り戻すことには必死だったけど、人としてやるべきことを怠った。自分の為に犠牲になる人の存在にはもっと気を配るべきだった。

その結果がこれ…。


あなたが私を踏みにじるのなら、私も同じことをしましょう。
でも些細なことだからあなたはきっと気づきもしないでしょう。


彼は善良だけど機微に疎いところがある。でも宰相や側妃の私が今まではそれを補ってきた。


それがなくなったらどうなるかしら?


あなたは大切な人の気持ちを踏みにじらずにいられるかしらね……。



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