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13.突然の別れ①
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「まったく誰も彼も馬鹿なんですかね?!側妃様の顔色ばかりうかがって。あなた達はどれだけ小心者なんですかと、ここまで、本当にここまで心の声が出かかっていました!」
クローナは地団駄を踏みながら自分の喉元を大袈裟に指さしてみせる。
…心の声がしっかり出てしまっている。
「クローナ、いくらなんでもその言い方は良くないわ。彼らだってそんなつもりはないのよ」
「そんなつもりはないですか?だったら尚更質が悪いですよ。ジュンリヤ様はもっと腹を立てるべきです!」
「はいはい、分かったわ」
クローナは今日も私の為に腹を立てている。
帰国してから彼女が憤りを言葉にするのは日課のようになっている。
クローナが指摘する一つ一つは本当に些細なことで、周囲の者達に悪気はない。
でも聞き流してしまえないものがあるのは確かだ。
しかし王妃である私が注意しては事が大きくなってしまう。だから代わりにクローナが抗議をすると『そんなつもりでは…』とみな素直に謝罪の言葉を口にする。
だから私は気にしていない。
クローナとのこんな気安いやりとりは、私にとって唯一の楽しい時間でもあるから。
「でもあの時の侍女の顔はちょっと見ものだったわね。ふふ、クローナのお陰ですっきりしたわ、ありがとう」
「それは何よりです、ジュンリヤ様」
私が笑いながら礼を言うと、クローナもその時のことを思い出したのか一緒に笑い始める。
それは今朝のことだった。
いつものように今日の予定を告げに来た年嵩の侍女は、珍しくそれ以外の事も話し始めた。
『最近側妃様のお加減が少し優れないようで…。どうしたのかとみな心配しております』
その言葉の内容と裏腹に口調はとても明るい。どうやら懐妊では疑っているようだった。
でも私にそんな事を告げられても知らないので答えようがない。曖昧に微笑みながら聞き流すと、心配だと何度も嬉しそうに言葉を続ける。
本当に心配ならここにいないほうが良いのではと言いたくなるが、それをここで言葉にしたら『王妃様は冷たい人だ』と新たな噂を提供することになる。
そろそろ……我慢の限界だわ。
さり気なく話題を変えようかと思っていたら、クローナのほうが口を開くのが早かった。
『そんなに心配なら盛んな閨を控えるように進言したらいかがでしょうか?』
『…な、なんて言い方ですか!』
『ですが口先だけの心配をここで披露するよりは、体調が悪い方が真っ先に控えるべきことを側妃様にお伝えするほうがよろしいかと存じます。それとも体調回復には過度な運動が必要でしょうか?』
『……っ……』
口をパクパクしながら目を見開く年嵩の侍女の顔は真っ赤だ。
まさかそこまであけすけにクローナが言ってくるとは思っていなかったのだろう。
すぐに『し、失礼します』と部屋から出ていった。
「本当にあの時の侍女はお腹を空かせた金魚みたいだったわね、ふふふ」
「ジュンリヤ様、それは世の中の金魚に失礼というものです」
「そういえばそうね、もっと金魚は愛くるしいわ」
クローナが真顔で指摘し、それに私も真面目な口調で頷くと、それから二人で顔を見合わせお腹を抱えて笑った。
私はクローナの存在にどれほど救われているだろうか。
王宮での生活は帰国してから変わっていない。周囲からは丁重に扱われているが相変わらず壁を感じる。
それに忙しいアンレイとはすれ違いの毎日。
隣国との戦に負けてアンレイが王位を継いだのは結婚して数カ月後のことだった。だから王妃教育をほとんど受ける事なく私は隣国へと向かったので、まだ王妃として公務を行える知識を持ってはいない。
だから側妃シャンナアンナが私の代わりに彼の隣にいる、昼だけでなく夜も…。
私はアンレイと庭園で話しを終えて部屋に戻ると、侍女長から『申し訳ごいません、王妃様。三ヶ月間は国王陛下と夜を過ごされるのはお控えくださいませ』と告げられていた。
クローナは地団駄を踏みながら自分の喉元を大袈裟に指さしてみせる。
…心の声がしっかり出てしまっている。
「クローナ、いくらなんでもその言い方は良くないわ。彼らだってそんなつもりはないのよ」
「そんなつもりはないですか?だったら尚更質が悪いですよ。ジュンリヤ様はもっと腹を立てるべきです!」
「はいはい、分かったわ」
クローナは今日も私の為に腹を立てている。
帰国してから彼女が憤りを言葉にするのは日課のようになっている。
クローナが指摘する一つ一つは本当に些細なことで、周囲の者達に悪気はない。
でも聞き流してしまえないものがあるのは確かだ。
しかし王妃である私が注意しては事が大きくなってしまう。だから代わりにクローナが抗議をすると『そんなつもりでは…』とみな素直に謝罪の言葉を口にする。
だから私は気にしていない。
クローナとのこんな気安いやりとりは、私にとって唯一の楽しい時間でもあるから。
「でもあの時の侍女の顔はちょっと見ものだったわね。ふふ、クローナのお陰ですっきりしたわ、ありがとう」
「それは何よりです、ジュンリヤ様」
私が笑いながら礼を言うと、クローナもその時のことを思い出したのか一緒に笑い始める。
それは今朝のことだった。
いつものように今日の予定を告げに来た年嵩の侍女は、珍しくそれ以外の事も話し始めた。
『最近側妃様のお加減が少し優れないようで…。どうしたのかとみな心配しております』
その言葉の内容と裏腹に口調はとても明るい。どうやら懐妊では疑っているようだった。
でも私にそんな事を告げられても知らないので答えようがない。曖昧に微笑みながら聞き流すと、心配だと何度も嬉しそうに言葉を続ける。
本当に心配ならここにいないほうが良いのではと言いたくなるが、それをここで言葉にしたら『王妃様は冷たい人だ』と新たな噂を提供することになる。
そろそろ……我慢の限界だわ。
さり気なく話題を変えようかと思っていたら、クローナのほうが口を開くのが早かった。
『そんなに心配なら盛んな閨を控えるように進言したらいかがでしょうか?』
『…な、なんて言い方ですか!』
『ですが口先だけの心配をここで披露するよりは、体調が悪い方が真っ先に控えるべきことを側妃様にお伝えするほうがよろしいかと存じます。それとも体調回復には過度な運動が必要でしょうか?』
『……っ……』
口をパクパクしながら目を見開く年嵩の侍女の顔は真っ赤だ。
まさかそこまであけすけにクローナが言ってくるとは思っていなかったのだろう。
すぐに『し、失礼します』と部屋から出ていった。
「本当にあの時の侍女はお腹を空かせた金魚みたいだったわね、ふふふ」
「ジュンリヤ様、それは世の中の金魚に失礼というものです」
「そういえばそうね、もっと金魚は愛くるしいわ」
クローナが真顔で指摘し、それに私も真面目な口調で頷くと、それから二人で顔を見合わせお腹を抱えて笑った。
私はクローナの存在にどれほど救われているだろうか。
王宮での生活は帰国してから変わっていない。周囲からは丁重に扱われているが相変わらず壁を感じる。
それに忙しいアンレイとはすれ違いの毎日。
隣国との戦に負けてアンレイが王位を継いだのは結婚して数カ月後のことだった。だから王妃教育をほとんど受ける事なく私は隣国へと向かったので、まだ王妃として公務を行える知識を持ってはいない。
だから側妃シャンナアンナが私の代わりに彼の隣にいる、昼だけでなく夜も…。
私はアンレイと庭園で話しを終えて部屋に戻ると、侍女長から『申し訳ごいません、王妃様。三ヶ月間は国王陛下と夜を過ごされるのはお控えくださいませ』と告げられていた。
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