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14.突然の別れ②

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それは根も葉もない噂のせいだった。
『王妃様が隣国から五体満足で帰ってこられたのは、その体を使って奉仕していたからだろう』と一部では囁かれていたのだ。

世継ぎが国王以外の種だったらと危惧した一部の臣下達を納得させる必要があったのだろう。


王宮で情報収集していたクローナからすでにその馬鹿げた噂は聞いていたので驚きはしなかった。

私は微笑みながら『分かりました』と受け入れた。


アンレイとの距離を感じていた私にとって、それはある意味有り難いことだった。
今のような状況で彼に求められても、受け入れられるとは到底思えない。

私への気持ちは変わらないと訴えておきながら、彼は側妃との閨を続けているのを知っている。
そのことを問うたら『国王としての義務だ』と素っ気ない言葉しか返ってこなかった。

 また国王を持ち出すのね。
 ……もういいわ。
 
いつだって彼は私がそれ以上何も言えないようにして会話を終わらせる。

彼の後ろにはいつも勝ち誇ったように微笑む側妃。


そんな関係のなかで彼に触れられたら感じるのは愛情ではなく、シャンナアンナの影と…たぶん嫌悪。


言葉と行動が矛盾しているアンレイ。
彼の心も行動も理解はできない。


私の気持ちは確実に変わっていく。
それだけははっきりと感じていた。



もう私の中では王妃=妻ではなかった。
王妃であることを私の意思でやめることは出来ないから、これからも王妃として民のために尽くしてはいく。

でもアンレイの妻として彼に心を捧げることは難しかった。

 その必要はもうないわよね…。



――憎む余裕すらなかった。


ただ大切だった想いが消えていくだけ。


それは彼の裏切りだけでなく、三年間という空白の影響も大きいと思う。
歩み寄ろうとしても話さえ禄に出来ず、溝を埋める努力を彼はしない。


こんな状態で気持ちが変わらない人はいない。





でもクローナが側で支えてくれたから大丈夫だと前向きになれる。

皮肉なことだが隣国での三年間が私を精神的に逞しくさせてくれていた。


居場所がなければ作ればいい。
前と同じではなくても構わない。


そう思って過ごしていた。
否、そう思わなければここでは生きていけない。

 大丈夫…私は平気よ…。
 

心に溜まったものはクローナと一緒にこっそりと笑い飛ばして、前だけを見て振り返りはしなかった。

――いつか居場所を見つけられるはず。




そんななかクローナの結婚が突然決まる。
彼女には婚約者がいて隣国から帰国したら結婚することになっていたが、婚約者の都合でそれが早まったのだ。


「…私、結婚はやめます」

涙を浮かべながらそう告げてくるクローナ。

結婚が早まった理由は、王宮文官である婚約者が昇進を機に地方に異動することになったからだった。

当然侍女の仕事は辞めざるを得ない。

それは急な話だったけれど、二重に祝福されることで嘆くことではない。


「何を言っているの!彼との結婚をあんなに楽しみにしていたのに。幸せになってちょうだい、クローナ」
「……でも…でもジュンリヤ様をこんな…ところに一人には出来…せ…ん」

振り絞るように言葉を紡いだあとクローナは嗚咽し始めた。
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