幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと

文字の大きさ
11 / 85

11.竜王の苦悩

しおりを挟む
「………それで、対処法は?どうすればこの本能の暴走を抑えられるんだ!」

「……申し訳ございません、それは分かっておりません。遥か昔の文献にはそこまでは載っていませんでした。

唯一考えられる根本的な解決法は番から愛されことです。
ですが番様はまだ幼いうえ、獣人の血が微かに流れていますが人間の感覚を持っています。
家族からも確認しましたが『獣人の特徴は持っていない』そうです。成長と共に変わるかもしれませんが…。

おそらく『番』の引き寄せられるような感覚もないのでしょう、竜王様が愛を伝えた時にも反応がなかったと言うことですから…。『番』と認識されすぐに愛されるのは難しいでしょう」


ギリッリッ…、ポツ、ポッタン…。

握り締めた拳から血が滴り落ちる。
番が私の愛を告げる言葉に何も返してこなかった事実を思い返し、頭が沸騰しそうになる。

「ぐぅっ…、では…私は番を殺めるのを止められないのか……」

絞り出すように言葉を吐きだす。
もし『そうです』と言われたら、すぐさま自分の首を切り落とそうと腰にある長剣に手を掛ける。

 愛おしい番を殺めるくらいなら…。
 今この場で自分の命を絶ったほうがましだ。
 
 くぅ、はっ…、やっと番と会えたのに…。
 


計り知れない幸福感と深い絶望が心を狂わせる、それはもはや祝福ではなく呪いかもしれない。

だが番を求める強い想いを止める術はない。


「問題の解決法はありませんが対処法ならあります。まず獣人の感覚を持たない幼い番様が成人するまで時間を稼ぎましょう。

竜王様は愛を返してこない番様を目の前にしたら暴走する可能性があります、ですから番様が婚姻を結べる年齢になるまで一切会わずにお過ごしください。
お辛いでしょうが番様を守る為です。
会えなくても離宮という手の届く距離にいるのなら、竜王様ならぎりぎり理性で狂気は抑えられるはずです。渇望で苦しまれるとは思いますが、なんとか耐えてください。

そして番様は心健やかに離宮でお過ごしいただきましょう。番の感覚は持たなくても、幼い頃より竜王様の番だと扱われれば自然と情は湧き竜王様を受け入れる事でしょう。
大人になった番様となら婚姻の後にきっと愛を育めます」

「番と10年間も会わずにいるのか、それに幼い番を一人にするなんて…」

番が悲しむのではないかと思うと胸がくるしくなる。

「竜王様、これしか方法はないのです。ご辛抱ください」

「『番様の命を守り、竜王様の暴走を抑える』為には致し方ない事です。それに幼い番様の為に出来る限り配慮も致しましょう。竜王様、ご決断をください」

周りは医師の助言に賛同する雰囲気になり、隣に控えている宰相からは決断を促される。

やっと巡り合えた番と会わないなど考えられないが、選択肢がこれしかないのなら仕方がなかった。

何より大切なのは番の命だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

処理中です...