幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと

文字の大きさ
22 / 85

22.婚姻の儀~竜王視点~①

しおりを挟む
純血の竜人である私の寿命は千年を超える。
そんな私にとって10年など一瞬のはずなのに、番と会えない10年間は永遠とも思えるほど長く感じられた。

しかし自分の狂気によって番を殺めるよりは、会わずに10年間過ごすほうを選ぶのは当然だった。

狂おしいほどの焦燥感と絶望感が常に纏わりついていて、闇の中を彷徨っている感覚におかしくなりそうになる。
一人になる夜は表現できない苦しさにのた打ち回っていた。

それでも10年後には番と結ばれ愛を育めると信じていたからこそ耐えられる。

番の存在を知ってしまった獣人は番を求めずにはいられない。この感覚が分からない『人』は、これを偽りの感情だと言う輩もいるが獣人にとってそれは真実であり紛れもなく純粋な愛情でしかない。



だが実際に狂気を押さえるのは困難を極めた。

番の姿が見えないが気配は感じる距離。それは狂気を押さえるギリギリの選択だった。


 分かっている、今はそうしないとならないことは…。
 それが最善なんだから。
 …分かって…いる……ん、だ。

 あぁ…番、どこ…に…。
 ……行か…な、と。


気を抜けば番を求めて離宮に吸い寄せられるように足が向いてしまう。臣下達に力づくで止められ我に返ることもあった。
明らかに殴られた跡のある臣下達。
『……すまん。助かった』
『お気になさらずに下さい。かすり傷ですから』


屈強な臣下達でも竜王である私が本気を出せばきっと止められない。

そうなったらどうなるか…。

狂気に支配された私が血に塗れ横たわる番が愛おしそうに抱き締める姿が脳裏をよぎる。



自分をコントロール出来ない弱い自分自身に苛立ちが募る。

 はっ、なにが竜王だっ!
 自分の番すらも守ることが出来ない屑ではないかっ。
 
 

その日から己の指の骨を折り始めた、治癒してはまた次の骨を折る、その繰り返し。足りない時には剣を身体に突き立てる。

苦痛と流血を与え必死に自我を保つ。その様に偉大な王の面影はなく、憐れで惨めなだけだった。

陰で『そろそろ王も交代ですかな』と嘲笑う者達までいた。

その言われても仕方がないほど酷い状態だったと認識もしていた。


でも自分の暴走が怖くて自傷を止めることはなかった。
それが功を奏したのか分からないが、なんとかギリギリの状態だけは保つことが出来ていた。

綱渡りのような危うい日々だが…。


そんななか宰相から進言を受ける。

「竜王様、後宮の件でお話があります。
一度もお渡りになっていない後宮ですが、これからは定期的に通われたらどうでしょうか?」

「っは、馬鹿を言うな。番以外に興味などない。それにあんな所に行ったら気分が悪くなる。早く解体しろ!」

眉を顰め吐き捨てるように答える。

いきなりそんな事を言いだす宰相の本心が分からない。今まで一度だって後宮に行くようにと勧めることはなかった。
獣人の宰相が、番が見つかった今それを言う意味が分からない。

いつもは竜王である私の命令にはと答えるのだが、宰相はかまわず話を続ける。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

処理中です...