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50.罪③
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「竜王様、番様の傷の処置は終わりました。掻きむしったので傷跡はかなり残るでしょうが、時間が経てば治癒いたします、声帯も問題ありません。
ですが心のほうは難しいかと…。あのご様子を見る限り完全にお心を壊していると思えます。きっと何年も掛けて少しづつ心が蝕まれたのでしょう。
ですから元の状態に戻るのに何年かかるか、もしくは戻らないのか…。正直分かりません。
医師でありながら今までなにも気づかず申し訳ありませんでした。番様の変化に少しでも早く気づいていたらこんな事にはなっていなかったかもしれません」
アンの変化に気づけなかったと後悔する医師の表情は苦し気だ。
今まで沈黙を守っていた宰相と侍女達も自分の思いを言葉にする。
「竜王様、申し訳ございません。私が間違っておりました。『番』という存在は絶対だから最後には必ず幸せになるはずだと、どこかで考えていたのでしょう。その甘い考えがすべての間違いの元でした。
すべて上手くいくように考えていたつもりで、実は幼い番様を蔑ろにして国政を優先させてしまっていたのです。
番様の為、竜王様の為と言いながら…、私の頭の中での優先順位は常に国の為だったのでしょう。
私が…私が、すべて悪かったのです、番様がこうなった責任は私にあります。
どうお詫びしても償えるものではありません。
どうか厳しい処罰をお与えください、どんなことでも受け入れる覚悟は出来ております」
「いいえ、竜王様。一番近くで番様を見ていた私達こそ一番罪は重いです。番様のお心に気づかず、それどころか理想の番様を押し付けていました。幼い子に甘えることが出来る場所も作らず、頼ることを許さなかった。ただ『竜王様の番様』として立派にお育てすることだけを考えて…。
番様を壊したのは私達です」
「私達はもう番様にお仕えする資格などありません。どんな罰でも受け入れる所存です」
彼らもアンの叫びを聞いて、自分達の過ちがどんなにアンを壊していたのか思い知ったのだろう。みな私から告げられるであろう処罰を受け入れる覚悟を決めているようだ。
だが私は今、そんな事を求めてはいない。彼らにも罪があるのは事実だが、彼ら以上に罪がある者が誰かは明白だ。
「私がすべて判断し、命じていた。お前達はただそれに従っていただけだ、竜王の命に逆らえる奴なんていやしない。
間違ったのもアンを追い詰めたのも私だ。番である私が守るべき最愛の人を壊していたんだ。
それが事実ですべてだ。
だからお前達を処罰するつもりはない。
真に罪を背負うべき者は、この私なんだからな…」
「で、ですが…、」
「それでは示しが、」
納得がいかなず更に言い募る彼らを私は冷めた目で睨みつける。
彼らの気持ちも分かるが、今はここで責任について言い争うより大事なことはアンを優先させることだ。
こんな状態のアンを置き去りにしての贖罪なんて必要ない。そんなことに割く時間などありはしない。
「黙れ、今はアンのことだけを考えろ!自分達の過ちを後悔するのはあとからいくらでも出来る。
私は目が覚めた時またアンにあんな苦しみを背負わせるつもりはない。
本当に済まないと思っているのなら自分達の自己満足のために時間を使うよりアンの為に使え!」
ハッとして彼らはアンの方を見る。自分達が今するべきことが役に立たない懺悔でなく、今のアンの為に尽くすことだと理解したようだ。
私は続けて彼らに指示を出す。
「宰相、アンの家族を呼べ。『話がしたい』としっかりと頭を下げて王宮に来て貰うんだ。
医師と侍女達は引き続きアンの手当てを続けろ。少しでも異変があったら直ぐに知らせるんだ。もし目覚める気配があったら薬で眠らせろ、…なにも変わらないまま目覚めてはアンが苦しいだけだ。
分かったなら今すぐに動けっ!」
「「「承知いたしました、竜王様」」」
私の怒号に彼らはやるべきことに取り掛かる。
これでいい。
‥‥次に目覚める時にはもう笑っていられるようにしなければならない。
本当の意味でアンを追い込んだものを排除しなければいけないのだから。
その為にはなんだってする、出来る。
愛するアンを今度こそ守れるようにしなければ。
それが今やるべきことだ。
目を閉じたままのアンの唇に触れるだけの優しい口づけを落とす。私が求めてやまない甘い香りを身体で感じ心が歓喜する。
この喜びがもう二度と味わえないとしても、大丈夫だ。この一瞬を生涯忘れることなどないのだから。
ですが心のほうは難しいかと…。あのご様子を見る限り完全にお心を壊していると思えます。きっと何年も掛けて少しづつ心が蝕まれたのでしょう。
ですから元の状態に戻るのに何年かかるか、もしくは戻らないのか…。正直分かりません。
医師でありながら今までなにも気づかず申し訳ありませんでした。番様の変化に少しでも早く気づいていたらこんな事にはなっていなかったかもしれません」
アンの変化に気づけなかったと後悔する医師の表情は苦し気だ。
今まで沈黙を守っていた宰相と侍女達も自分の思いを言葉にする。
「竜王様、申し訳ございません。私が間違っておりました。『番』という存在は絶対だから最後には必ず幸せになるはずだと、どこかで考えていたのでしょう。その甘い考えがすべての間違いの元でした。
すべて上手くいくように考えていたつもりで、実は幼い番様を蔑ろにして国政を優先させてしまっていたのです。
番様の為、竜王様の為と言いながら…、私の頭の中での優先順位は常に国の為だったのでしょう。
私が…私が、すべて悪かったのです、番様がこうなった責任は私にあります。
どうお詫びしても償えるものではありません。
どうか厳しい処罰をお与えください、どんなことでも受け入れる覚悟は出来ております」
「いいえ、竜王様。一番近くで番様を見ていた私達こそ一番罪は重いです。番様のお心に気づかず、それどころか理想の番様を押し付けていました。幼い子に甘えることが出来る場所も作らず、頼ることを許さなかった。ただ『竜王様の番様』として立派にお育てすることだけを考えて…。
番様を壊したのは私達です」
「私達はもう番様にお仕えする資格などありません。どんな罰でも受け入れる所存です」
彼らもアンの叫びを聞いて、自分達の過ちがどんなにアンを壊していたのか思い知ったのだろう。みな私から告げられるであろう処罰を受け入れる覚悟を決めているようだ。
だが私は今、そんな事を求めてはいない。彼らにも罪があるのは事実だが、彼ら以上に罪がある者が誰かは明白だ。
「私がすべて判断し、命じていた。お前達はただそれに従っていただけだ、竜王の命に逆らえる奴なんていやしない。
間違ったのもアンを追い詰めたのも私だ。番である私が守るべき最愛の人を壊していたんだ。
それが事実ですべてだ。
だからお前達を処罰するつもりはない。
真に罪を背負うべき者は、この私なんだからな…」
「で、ですが…、」
「それでは示しが、」
納得がいかなず更に言い募る彼らを私は冷めた目で睨みつける。
彼らの気持ちも分かるが、今はここで責任について言い争うより大事なことはアンを優先させることだ。
こんな状態のアンを置き去りにしての贖罪なんて必要ない。そんなことに割く時間などありはしない。
「黙れ、今はアンのことだけを考えろ!自分達の過ちを後悔するのはあとからいくらでも出来る。
私は目が覚めた時またアンにあんな苦しみを背負わせるつもりはない。
本当に済まないと思っているのなら自分達の自己満足のために時間を使うよりアンの為に使え!」
ハッとして彼らはアンの方を見る。自分達が今するべきことが役に立たない懺悔でなく、今のアンの為に尽くすことだと理解したようだ。
私は続けて彼らに指示を出す。
「宰相、アンの家族を呼べ。『話がしたい』としっかりと頭を下げて王宮に来て貰うんだ。
医師と侍女達は引き続きアンの手当てを続けろ。少しでも異変があったら直ぐに知らせるんだ。もし目覚める気配があったら薬で眠らせろ、…なにも変わらないまま目覚めてはアンが苦しいだけだ。
分かったなら今すぐに動けっ!」
「「「承知いたしました、竜王様」」」
私の怒号に彼らはやるべきことに取り掛かる。
これでいい。
‥‥次に目覚める時にはもう笑っていられるようにしなければならない。
本当の意味でアンを追い込んだものを排除しなければいけないのだから。
その為にはなんだってする、出来る。
愛するアンを今度こそ守れるようにしなければ。
それが今やるべきことだ。
目を閉じたままのアンの唇に触れるだけの優しい口づけを落とす。私が求めてやまない甘い香りを身体で感じ心が歓喜する。
この喜びがもう二度と味わえないとしても、大丈夫だ。この一瞬を生涯忘れることなどないのだから。
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